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戦いの始まり

156ー2 王立高学院特別部隊の真髄(1)ー2

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 あのにやけた領主の甥の顔を思い出して怒りを滲ませていると、馬車は北地区の避難所の一つに到着した。

 今回サーシム領に来た王立高学院特別部隊のメンバーは15人。
 先ずは避難所に居る被災者の様子を見て、救済されているかどうかを確認する。

「今朝、冒険者の方々が肉を焼いてくださいました」

「先程役人が来て、昼から倒壊した我々の家の撤去作業をしろと命令されました。
 作業をしない者には食料の配給はしないと・・・でも私は妊婦なんです」

「せめて子供や老人の分だけでも毛布を頂けませんか? 夜はまだ冷えるので心配なんです」

「働けない者は、本当に食事も与えられないのでしょうか?」

王都から救済活動に学生が来たと聞いた被災者たちが、状況や要望を次々と口にしていく。
 大きなお腹をしている妊婦も、小さな子供を背負った母親も、どの顔もとても疲れていた。

 突然住む家を失くし、何も家から持ち出せなかった人が大多数だ。
 家族を亡くした人もいて、絶望やこれからの不安で泣いている人も多い。
 
「この避難所の、世話役か代表者の方はいらっしゃいませんか? 私は救済活動に来た王立高学院特別部隊の代表者です」

ノエル様が混乱している様子の被災者に向かって、やや大きな声を掛けられた。

 すると北地区の商店主を纏めている年配の顔役男性と、婦人部の世話をしているというやや年配の女性が前に進み出た。
 見ると二人ともケガをしているのか、服に血が付いている。

「撤去作業以外の仕事は言われなかったのですか?」と特務部のダンが訊く。

「撤去作業をしたら、日当はいくら出るのですか?」と、クラスメートで魔法部のミレッテさんが質問する。

「仕事は撤去作業だけです。日当? いいえ、そんな話はありませんでした」と、婦人部の世話をしているという女性が、怪訝そうな顔をして答えた。

「午後撤去作業をした者だけに、現場で炊き出しを食べさせると役人は言っていました」と、怒りを抑えられない様子の顔役男性も付け加えた。

 ……何故この場に役人が居ない? 救済本部は? 救護所は何処だ?


「それで、役人は何処ですか? まさかこの場に居ないのですか」と辺りを見回しながら、僕は二人に質問した。

「少し前に来て、帰っていきました。だから主人や男性の多くは、もっと支援して欲しいと北地区役場に陳情に行きました」
 
裸足で逃げたのか足をケガして、赤ん坊を抱いた母親が涙ながらに訴える。

「ねえカイヤ、私たち、女性や子供でもできる仕事を与え、働いた者には全員日当を払うよう教えたわよね?
 そして、避難所には役人を常駐させ、被害状況を把握することが大事だと教えたわね?」

凍るような声で、ノエル様がカイヤさんに確認する。

「はいノエル様。きっとノートもとらず、記憶力もない無能だったのでしょう。
 許せませんわ。ここの他にも2箇所避難所があるそうですから、手分けして状況確認いたしましょう。
 各避難所の前に救済所を設置し、本部をこの場に決定します」

 カイヤさんはアコル様から託された救済用のマジックバッグから、既に組まれた本部テントをポンと取り出し、他にも必要な物を次々と出していく。

 救済所から様子を窺っていた人たちも、野次馬として集まっていた人たちも、突然現れたテントや物資に目が点だ。気持ちは分かる。

「そうね、医療班はケガ人が収容されている避難所に向かって貰いましょう。
 モスナート教授(外科医)、医療班3人と医療チームA班の5人をお願いいたします。

 ミレッテさんとダンさん(特務部1年)は、B班を率いてください。
 私とカイヤさんはC班を率いて本部をこの場に設置します。
 どなたか他の避難所に案内していただけませんか?」

 3台あった馬車のうち他の2台を、別の避難所に向かわせることにして、男子学生がテントや毛布や医療道具などの物資を積み込んでいく。

 きちんと状況把握できるまで、王立高学院特別部隊は炊き出しをすることはできない。薬草やポーションも出すことはない。


 本部であるC班のメンバーは、隊長のノエル様、副隊長のカイヤさん、護衛責任者のドーブ先輩、魔法部2年のサフィド先輩(B級作業魔法師・サーシム領の子爵家次男)と財務担当の僕だ。

「あの、皆さんは私たちを助けに来てくださったのですか?」

「いいえ、皆さんを助けるのはサーシム領の役人の仕事です。
 我々は、役人に救済の指導をしたり、救済活動としてできることを考えたりするのが仕事です。もちろん、役人の手が足りない時は手伝います」

期待した瞳で質問してきた若い女性に、サーシム領南部出身のサフィド先輩が、申し訳なさそうに、でもきっぱりと答えた。 

 すると、その場に居た全員が、がっくりと項垂れ溜息を吐いた。
 きっとガッカリさせたんだろうな。でも、サナへ領の二の舞はご免だ。

「先月覇王アコル様は、魔獣の氾濫が起こった時のために、王立高学院で救済活動の方法を教える講座を開かれました。

 サーシム領の役人も当然参加し、炊き出しの必要性や調理方法、救済品の購入、被災者を助ける仕事の与え方など、多くのことを学ばせています。

 今回のように被害が出た時は、避難所に本部を設置し、ケガ人の治療をし、飢えや寒さで亡くなる人が出ないよう、きっちりと勉強させました。

 しかし残念ながら、サーシム領の役人は勉強が足らなかったのか、覇王様との契約を破って救済品を用意してないのか……はーっ、皆さん同様、我々もこの現状が信じられないのです」

僕は項垂れている被災者の皆さんに、言い訳ではなく真実を話していく。

 ……まるで王立高学院特別部隊が、被災者を見捨てたみたいに思われるのは納得いかない!

 まさか救済本部さえできていないなんて、本当に信じられないことなのだ。
 それでも、被災者たちの落胆した姿に心が痛む。
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