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戦いの始まり

154ー2 新たな魔獣の氾濫(7)ー2

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「私は覇王アコル様の契約妖精エクレア。もしかしてトワは、ドラゴンと話せるの? もしもそうだったら、アコル様とも契約できるかしら?」

エクレアはいつもより強く七色に輝きながら、予想外というかとんでもないことを訊いた。

「我は……昔の力を失くしている。できるか分からない。魔力少ない。ラリエスの魔力……奪うかもしれない。今の我は、光のドラゴン……護れない」

長いこと誰とも契約せず、守るべき主やドラゴンに出会えなかった様子のトワは、すっかり魔力を失っているようで、守護すべきドラゴンを護れないと悲しそうに打ち明けた。

 それなら私の魔力を分ければいいと、ラリエスは貰った深紅のドラゴンの心臓の化石を握って魔力を流そうとしたので、俺は慌ててそれを止めた。

「待てラリエス、それじゃあダメだ。ここまで弱っていたら、ラリエスの魔力が枯渇する可能性がある。ちょっと待ってろ」

俺はそう言って、自分のマジックバッグの中に保管してある魔石を思い浮かべた。

 そして、ピッタリな魔石があったことを思い出し、「出でよアイススネークの変異種の魔石!」と唱えて、雪のように真っ白に輝く、俺の拳の倍はある大きさの魔石を取り出した。

「これをトワにやろう。この魔石から魔力を吸収してみろ」

 全盛期はかなり高い魔力を持っていたはずだから、トワの魔力を貯める器は大きいはずだ。
 だから器を満たそうとすると、ラリエスの魔力は枯渇するだろう。

 トワは目を見開き、目の前に差し出された大きな魔石を食い入るように見て、本当にいいの?って確認するような視線をエクレアに向けた。

「この魔石ならきっと200くらいの魔力が取り込めるわね。それでも、ここまで弱っていたら、全部は取り込めないと思うわ。
 覇王であるアコル様が許可したんだから大丈夫。その魔石はあなたの物よ」

エクレアはにっこりと微笑み、落ち着いて魔力を吸収しなさいねと指示を出した。

 トワはそれはそれは嬉しそうに涙を零しながら、俺の掌の上の魔石を大事そうに抱え込んだ。



「アコル様、冒険者たちが到着しました」と、壁の外からボンテンクが声を掛けてきた。

 そうだった、これから謎の変異種とホーンブルの群を偵察に行くんだった。

「ラリエスと俺は手が離せなくなったから、ボンテンクとギルマスに指揮を任せる。
 もしも敵が襲ってくるようなら、決して無理をするな。1時間以上先に進んでも遭遇しなかったら戻ってこい」

「承知しました」とボンテンクが答えて、俺の話を聞いていたギルマスも「任せてくれ」と大きな声で了解してくれた。

 この場に金色のドラゴンが居ることは、南門の見張りが見ていたから知っているはずだけど、ゲイルあたりが金色のドラゴンは味方だと説明してくれたのだろう。

 だから冒険者たちは誰も騒がず、中を覗こうともしない。
 俺の指示を受け入れ、皆は元気よく出発してくれた。



 
 トワが魔石から魔力を吸収している間、俺とラリエスは北地区の様子を知らせに来たサブギルマスから、被災者たちと街の状況を聞いていた。

 エクレアは、覇王である俺のことや契約者であるラリエスについて、出会ってからのあれこれを含めてトワに説明している。


「やはり心配していた通りの体たらく。結局避難所の住民には炊き出しも行われず、救済品を渡した気配もないとは・・・マジックバッグを購入するための条件に違反しています。

【王立高学院特別部隊】に救済を依頼するには、購入したマジックバッグに救済品を用意しておくと、領主には約束させたはずです」

サブギルマスの話を聞いたラリエスは、怒りを通り越して覇王様に対する反意だと言い出した。

【危機管理指導講座】が終了して、まだ10日くらいしか経っていないとはいえ、炊き出しをしないという現状は受け入れがたい。
 仮に救済品を準備できていなかったとしても、街の大半は被害に遭っていないのだから、いくらでも食料は調達できたはずだ。

「とりあえず昨日討伐した魔獣の肉を、冒険者ギルドから持って行き、Dランク以下の若い冒険者たちに焼かせています。
 うちには大鍋の用意がないので、焼くだけという簡単なことしかできません。避難所には役人の姿さえありませんでした」

避難所の様子を見てきてくれたサブギルマスは、この町の役人は、こんな非常時でも午前8時にならないと働く気がないらしいと溜息を吐いた。

「サブギルマス、申し訳ありませんが、商業ギルドのギルマスかサブギルマスを呼んできてもらえますか?」

俺はサーシム領の役人が救済品を用意しているかどうかを確認するため、商業ギルドのギルマスを呼び出すことにした。
 サブギルマスは、直ぐに連れてきますと了承し城壁の中に戻っていった。


 最悪の場合、商業ギルドに救済品を準備させることになるだろうが、【王立高学院特別部隊】は銅貨1枚たりともお金を出す気はない。

 ここは領主の本気を見せて貰って、信用する価値もないと判断したら、2度とサーシム領には救援にも救済にも来ないと、領民の前で宣言することにしよう。

 覇王である俺がサーシム領を見捨てることになれば、冒険者ギルドも商業ギルドも撤退するかもしれない。
 そうなれば、冒険者や商人はサーシム領から出ていくだろう。
 果たして、そのことに気付ける側近や役人が居るかどうか・・・


「ここまで王の権威が失墜していたとは・・・」

ワイコリーム公爵家の嫡男であるラリエスは、そう呟いて深く息を吐きだした。

 ラリエスによると、先月国王は、真摯に魔獣の氾濫に備えない領主は、大臣や副大臣の職を罷免すると通達を出したそうだ。
 それなのにサーシム侯爵の態度は、大臣を罷免されることを恐れていないとしか思えないと、呆れたように首を横に振る。

「そうじゃないさラリエス。
 ドラゴンに襲われた領民を見殺しにしても、国王は大臣を副大臣にしただけで罷免出来なかった。

 マジックバッグを購入しなければ【王立高学院特別部隊】は派遣されないと分かっていても、購入しなかった領主に罰も与えていない。

 そもそも、自分を毒殺しようとした王妃さえ処罰していない。
 領主たちは知っているのさ。国王は何もできないのだと」

「・・・・・」

俺の話を聞いたラリエスは、何も言葉を返さなかった。
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