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指導者たち

141ー2 クラス対抗戦後期(2)ー2

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「ギルマス、冒険者は出ますか?」

「ああ、ビッグホーンならBランクでも大丈夫だ。既に向かわせてある。
 だが、主な仕事は住民の避難誘導だと命令してある」

 俺はギルマスと図書館棟の階段を上がりながら、あるモノを試す必要があることを思い出し、自分の執務室に寄り道をする。

 先程商業ギルドから見本として納品されたばかりの指輪を数個取り出し、マジックバッグの中に収納した。
 白く滑らかなその指輪は、アイススネークの変異種の骨で作られており、魔力の増幅が出来るかどうかのテストは、まだ行われていなかった。


 10分後、招集をかけたメンバーが全員集合していた。
 初めて執行部室に呼ばれた特務部のヤーロン先輩とゲイルは、なんだか落ち着かない顔で立ったままだ。

「全員座ってくれ。ハシム殿、ヘイズ領と王都の境に在るライバンの森で魔獣の氾濫が始まりました。ギルマス、説明をお願いします」

何も聞かされていなかったメンバーに向かって、ギルマスが状況を説明する。

 ギルマスの話を聞き、全員一気に緊張する。
 魔獣の討伐に参加するのは初めてであり、予想より早い出動になるかもしれない事態だ。緊張するのは当然だろう。

「【覇王軍】は、国王の要請が無ければ出動はしない。ただ、新しい魔法陣と、出来上がった魔獣の骨の指輪を試したいと俺は考えている」

さり気なく俺は行くけど……と言って、白く美しい指輪をテーブルの上に置き、皆の反応を見る。

「私も行きます! 新しい指輪を試させてください」

意外にも、真っ先に手を上げたのは特務部のヤーロン先輩だった。

 ヤーロン先輩は無事にC級魔術師に合格し、新しい方法(無詠唱と魔法陣を書いた紙)で発動する魔法陣の練習も重ねていた。

 元々新しい魔法陣を開発したのは、魔力量の少ない者や、魔法適性の数が少ない者でも使えるようにするためだった。
 多くの者が使えるよう考案されていたので、【王立高学院特別部隊】に所属している特務部や貴族部の学生を中心に練習を積んでいた。

「私も使ってみたいです。私はまだ妖精と契約出来ていないので、100以上の魔力を必要とする魔法陣を使えません。
 80の私が使えると証明できれば、古代魔法陣の改良版が使用可能となります」

次に手を上げたのは、サナへ侯爵の三男トゥーリス先輩だった。

「よし、今回は【魔獣討伐専門部隊】の初陣だ。
 我々は支援に回るので、一緒に行くのはラリエス、トゥーリス先輩、ヤーロン先輩と、医療班としてモスナート教授だけにする」

一緒に行くメンバーを即決して、残りのメンバーにも指示を出しておく。

「被害状況によっては【王立高学院特別部隊】が救済活動に向かう可能性がある。
 ボンテンクは、国王から要請がきたらノエル様と協力し指揮してくれ」

「承知しました! 出動の準備をしておきます」とボンテンクは緊張した顔で返事をする。

「アコル様、もしもヘイズ侯爵から有料でもいいからと、救済要請がきたら如何いたしましょう?」

「ハシム殿、その時は【王立高学院特別部隊】の3分の1を向かわせ、覇王講座で【危機管理指導講座】を受講している班の、成績が最下位の三班を実地訓練だと言って向かわせてください。
 そうすればヘイズ領とデミル領の受講者は必ず行くことになります」

「承知しました。そのように指示いたします」

素早くメモを取りながら、ハシム殿が返答する。
 その時【魔獣討伐専門部隊】から伝令が到着した。伝令は魔法省の元副官だった。

「ご報告いたします!【魔獣討伐専門部隊】は、軍・魔法部の半数をライバンの森に向かわせました。
 指揮はワイコリーム公爵です。魔法省の副大臣であるヘイズ侯爵様は、ご子息や側近と共に自領に向かわれるそうです」

「へーっ、自領の民を見捨てなかったんだ」

意外な気がして、つい考えていることが口に出てしまった。

「あぁ……ヘイズ侯爵様は、魔法省の副大臣として王宮を守らねばならないと仰り、自領にはご子息だけを帰そうとされました。
 しかし、大臣であるマリード侯爵が居るのだから、遠慮せずに自領に戻ればいいと、王様が帰れと指示を出されたようです」

言い難そうに言葉を選んで、元副官は真実を教えてくれた。
 ヘイズ侯爵の下で副指揮官として働き苦労してきたのか、口調は軽蔑の感情が滲んでいた。

「マジックバッグを買わなかったくらいだから、既に自領では準備万端であろうと、レイム公爵様も仰ったようです」と、元副官が黒い笑顔で付け加えた。

 ……ヘイズ侯爵、部下に嫌われてるなぁ……俺も嫌いだけど。

「アコル様、あのー、目利きコンテストのポーションの値段を教えて頂いてもよろしいですか?」

「ああ、正解の値段は、全て紙に書いて商品を置いている台座の下に置いてあるよ。
 全員の投票と解答用紙の提出が終わったら、皆が見ている前で一つ一つ正解を公開してくれ。
 ポーションの正解者が多数いた時は、予定通りあみだくじで頼む」

俺は質問してきたマサルーノ先輩に笑顔を向け、無事に目利きコンテストを終わらせて欲しいと頼んで、出発準備のため緊急招集を解散させた。


「ギルマス、サーシム領のリドミウムの森は大丈夫ですか?」と階段を下りながら、俺は気になったことを質問してみた。

「まだ何も連絡を受けていませんが、何かあったとしても、連絡が届くまで早馬でも最短4日は必要です。
 まさか北のライバンの森が先に氾濫を起こすとは、全くの想定外でした。

 ライバンの森には上位魔獣が生息していませんが、リドミウムの森は上位種も多いので、国は軍の大隊か【魔獣討伐専門部隊】を常駐させるべきです」

直接国王に物申すわけにはいかないけど、俺になら何でも言えるギルマスは、リドミウムの森をとても心配しているようだ。
 
 俺にとっては生まれ故郷だ。
 出来るだけ早く手を打ちたいけど、まだ肝心の人員の訓練が終わっていない。

 リドミウムの森周辺に【魔獣討伐専門部隊】を配置できれば、隣のレイム領で魔獣の氾濫が起こった時にも駆け付けられる。


 目利きコンテストの目玉であるポーションの値段が発表された同時刻、覇王の専用馬車に乗った俺たちは、ようやく王都の外門を抜けたところだった。
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