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指導者たち

137ー2 講義の開始(5)ー2

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 普通の貴族の常識では、縦横1メートル、深さ1メートルを超えるようなマジックバッグを持っているのは、領主か上位貴族くらいで、あとは商人くらいだと思っている。

「買ったら金貨70枚(700万)くらいだよな」と、ギルド職員が口を滑らせた。

「私も欲しいわ。だって、陶器やガラスが割れないのよ! 金貨100枚だって出す商人はたくさんい居るわよ」

商業ギルドで俺の担当をしてくれてるお姉さんが、恨めしそうに学生たちを見ながら愚痴る。
 ちょっと大きな声の愚痴は、学生たちの耳にも届いた。

「えっ、金貨70枚?」とか「はあ? 金貨100枚だと」とか「陶器が割れない?」と、学生たちがざわざわし始める。軽いパニック状態だ。
 

「それではスフレさん、お願いします。スフレさんの魔力量は55を超えたところなので起動できるはずです。念じればいいだけですが、分かりやすく、収納!と声を出して命じてみてください」

俺はにっこり笑って、ちょっと不安気なスフレさんに説明した。

 スフレさんは、荷物がぎっしり詰まった棚の前まで行くと、立ち止まってゴクリと唾を飲み込み「収納!」と声を出して、マジックバッグを棚の方に向けた。
 すると、一瞬で棚も荷物も何処かへ消えてしまった。

「はあ!?」と盛大に驚いた皆の声が、体育館内に響いた。

「さすがアコル様です」と、ラリエス君が感嘆の声をあげる。

「わ、私でも起動できましたアコル様!」と、スフレさんが嬉しそうに叫ぶ。

「それではスフレさん、申し訳ありませんが、体育館内を全力で一周してください。戻ったら、飛んだり跳ねたりしてください」

感動しているスフレさんに、俺は次の指示を出した。

 そして3分後、ハアハアと肩で息をしているスフレさんに、今度は「いでよ可動式棚」と命じてくださいとお願いする。

「いでよ可動式棚!」と、スフレさんが緊張した声で命じると、消えていた棚と荷物が、記憶にあったままの状態でスフレさんの目の前に現れた。

「 ええぇーっ!!! 」と、大声で叫び、目を見開いたままで、皆は暫く固まっていた。

 再起動した【王立高学院特別部隊】のメンバーは、わいわい騒ぎながら満面の笑顔で商業ギルドに注文を始める。

 ……高額だけど、どうやら棚は全員が注文するようだ。 

 何が何でも5回以上出動するぞ!と、皆さん張り切っているので、明日の午後はマジックバッグ作りに専念しよう。


*****

 翌日、俺はまだ正式に覇王として全員の前で挨拶をしていなかったけど、【妖精学講座】の講師として教壇に立った。

【妖精学講座】を受講していて、魔法部や特務部の卒業者や、魔力量の多い高位貴族は、ほぼ強制的に【魔法攻撃講座】も受講させているので、昨日アイススネークの変異種と一緒に、覇王である俺と会っているはずだ。

 面識がなかったのは、光適性持ちだけど、貴族部や商学部の卒業者で、魔力量は50以上あるものの、初級魔術さえ学んでいない文官くらいだろう。
 文官たちの多くは、受講申し込みの時点で【危機管理指導講座】を中心に受講している。

 2つ以上の講座を受講している者が多いので、既にお疲れモードだ。

 まさかのテストとか、領地・所属部署対抗戦になるとか、成績が貼り出されるとか、全く予想もしていなかった受講者たちは、軽い気持ちや、上司の命令で渋々だけど参加してしまったことを、後悔し始めていた。

「おはようございます。覇王アコルです。
 光適性に恵まれた皆さんは、妖精と契約できる希少な人材です。
 しかし、妖精と契約できるのは、妖精が契約したいと思った人間だけです。

 勉強を頑張っているとか、魔法攻撃を頑張っているとか、薬草を一生懸命育てているとか、妖精は基本的に頑張っている人間を応援したいと思うようです。

 人を悪意で傷付けようとする者や、自分の利益のため人を騙そうとする者、人の命を平気で奪えるような者を、妖精は助けたいとも友達になりたいとも思いません。

 もちろん、妖精を利用しようと考えている者など言語道断です。
 ですから、頑張っている姿を見せたり、他者の為に尽くす姿を見せると、妖精は自分から寄って来てくれるでしょう」

 予想はしていたが、話し終えて視線を受講者に向けた途端、俺や学院長に悪意ありと判断されていた者たちが、椅子から滑り落ちてしまった。

 ……魔獣に襲われ死を目前にすれば、俺のことを気に入らないという感情はあっても、悪意にはならないはずだ。これからは、嫌でも命の危険を感じるだろう。

【妖精学講座】には、王子・領主・領主の夫人・領主の子息・息女も参加しているというのに、もう少し感情を隠せないものだろうか?

 まあ、今の時点で椅子に座れてない者は、妖精と契約するのは絶望的だけど、そんなことは教える必要もない。
 

「実は今この部屋に、たくさんの妖精が居ます。契約したい人間が居るか気になるみたいです」と、俺は疲れも吹き飛ぶ話をする。

「えぇーっ!」と、皆は驚きの声を上げ、きょろきょろ部屋中を見回す。

「先に、俺の契約妖精であるエクレアを紹介しよう」

エクレアが集めてくれた妖精たちより先に、俺はエクレアを呼び出す。

 今日も七色の光に包まれて全身が輝いている。
 いつも可愛いエクレアだけど、最近、美しいという雰囲気に成長してきた気がする。

 マギ公爵や第二王子たちが座っている机に向かって、エクレアはふわふわ飛んでいく。
 皆の視線を一身に集めながら優雅に着地し、笑顔で会釈した。

「覇王様の契約妖精エクレアです。さあ皆さん、姿を現していいわよ!」

小さな体から発せられたとは思えない、よく通る声でエクレアは仲間たちを呼んだ。

 すると、室内に色とりどりの妖精が20人近く姿を現し、室内を元気よく飛び回ってから、俺の前の机の上に着地して、全員が俺に向かって礼をとった。
 受講者たちは、信じられない光景に恍惚となり、胸の前で手を組んでいる者が大多数で、感動して涙を流している者も決して少なくなかった。

「よく来てくれたね。ここに居る皆は、魔獣やドラゴンと戦い、この国の住民や自然を守りたいと頑張っている者ばかりだ。
 短い者であと5日間、長い者で1ヶ月間は高学院で勉強をするから、好きになれそうな者が居たら、何か合図を出してやってね」

「はい覇王様。しっかり見学して決めます!」と、全員がいい返事をしてくれた。

 受講生のやる気と真剣度が、数倍に跳ね上がったところで、俺は退場していく。
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