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魔王と覇王
128ー2 覇王、始動する(3)ー2
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◇◇ ゲイル(特務部1年) ◇◇
今朝、午後から学院集会を行うと突然告げられた。
俺はクラスメートたちと一緒にワイワイ騒ぎながら、昼食後体育館へと向かう。
学生だけでなく、教師に職員に用務員、学食のおばちゃんに至るまで全員が集められる学院集会は、王都で疫病が流行った60年前以来のことらしい。
昨日、執行部の会話を食堂で盗み聞きしていた者の話によると、【覇王様】が現れたとかなんとか……だから、今日の集会は覇王様関連ではないかと皆は噂し、ちょっとした興奮状態になっている。
凄く不敬だと思うけど、どんな覇王様がいいかって話題で、昼休みに仲間たちと盛り上がった。
現れて欲しいと切実に思うけど、今の王族の中にドラゴンと戦える魔力量を持った者は居ない気がするって、仲間の意見は一致した。
冗談みたいに、アコルのように民を助けたいと頑張る人だったらいいのになって、同じクラスで特務部のアステム(平民)が言った。
でもアコルは生粋の平民だから、ないないって笑いながら皆は否定していたな。
……いや、俺はそうならいいなと本気で思うよ。
アイススネークの変異種を一刀両断した姿は、【魔王】というより、もう【覇王】の方が相応しいって、ヤーロン先輩もドーブ先輩も言ってたし。俺もそう思った。
体育館に集合した学生が騒いでいると、ステージの上に学院長が現れた。
まるで王様に謁見する時に着るような、最上級の式服を着ている。
王族でもある学院長が正装しているということは、余程高位の身分の者が、例えば国王様?……いや、本当に【覇王様】が来られたのかもしれないと、皆が一気に緊張していく。
俺も思わず背筋を伸ばして、アコルは何処だろうかと視線で探してみる。
よく見えないが、執行部のメンバーは別の場所に並んでいるようで姿が見えない。
「王家には、覇王様の遺言書が残っている。その遺言の中には、およそ千年後に魔獣の大氾濫が起こり、その時必ず新しい覇王となる王子が生まれると書いてある。
そして先日、行方不明だったレイム公爵令嬢と国王の間にお生まれになった、第七王子が発見された。
いろいろな調査の結果、第七王子はコルランドル王国が待ち望んでいた、新しい覇王様であると判明した。
本日、覇王様を御迎えしている。御前では、如何なる失態も許されない」
魔術具を使った学院長の声はよく響き、その声はとても緊張しているように感じた。
学院長は、いきなり第七王子の存在を明かし、その王子が覇王様であると説明した。
しかもレイム公爵令嬢と国王様の子? それじゃあ、ルフナ王子と同じだ。
「えぇーっ!」とか「第七王子?」とか「覇王様?!」という声が飛び交い、体育館内は騒然となった。
みんな慌てて身嗜みを整え始める。
学院長がステージ上の少し後方に下がった場所に控えると、次に執行部部長であるノエル様と、ルフナ王子がステージ上に姿を現した。
「皆さん、この度【王立高学院特別部隊】は、覇王様の指揮下に入りました。
そして覇王様は、執行部室の隣の部屋を執務室とされ、王立高学院を活動拠点と決められました。
第七王子である覇王様は、13歳でいらっしゃいます。
覇王様を我が学院にお迎えできましたことは、大変光栄であり名誉なことです。皆さん、跪いてお迎えください」
ノエル様はゆっくりと分かり易く、13歳という部分をやや強調して、跪け!と笑顔で命令された。
訳が分からないという表情の者たちは、軽くパニックになりながら、跪いたり立ったままだったりとバラバラだ。
「大変重要な注意事項を言う。よく聞いてくれ。決して聞き漏らすな!
覇王様はこの国の王子であっても、私を含めた全ての王族……国王さえも礼をとらねばならない尊い存在であられる。
覇王様は覇王たるお力をもって、我々が臣下であるかどうか一目で判断される。
もしも悪意を抱けば、瞬時に倒れ伏し、恐怖のあまり身動きが出来なくなる。
そして覇王であることを疑う者は、腰を抜かし頭を上げられなくなる。
信じて従う者であっても、跪かずにはいられない。
いいか皆、これは決して冗談などではない!
もしも倒れ伏してしまえば、覇王様に反意ありと知られてしまうのだ。
君たちの行いが、自分の家族に大きな影響を与える可能性を考えろ!
あまりに強大なお力をお持ちなので、ご本人でさえ、目覚めた力の加減が難しいと仰っている。
俺は心から願っている。君たちの多くが、明日もこの学院に残っていられるようにと」
ルフナ王子はまるで脅すように言ってから、神に祈るように胸の前で手を組み、心配そうな視線で体育館内の全ての人を見回していく。
そして学院長の隣に立つと、当たり前のように跪いた。
2人の王族が同時に跪くのを見た俺たちも、一斉に跪き頭を下げていく。
「覇王様ご入場です」と、トーマス王子の声が響いた。
シンと静まり返った場内で、全員が跪いている様をステージから見られる覇王様は、どんなお気持ちなのだろう?
アコルと同じ13歳の覇王様は、どんなお姿をされているのだろう。
コツコツと覇王様の靴音が聞こえる。俺はゴクリと唾を飲み込んで、より深く頭を下げた。
「今代の覇王となったアコルだ。皆、顔を上げよ」
えっ! まさかあのアコル? と思ってバッと顔を上げた者は約半数。
信じられないけど、頭を床に打ち付けるようにバタバタ倒れる者が続出していく。
数秒後には、ドスンと腰を抜かすように尻もちをつく者も多数出た。
跪いた姿勢は保っているけど、俺と違って何故か顔を上げられない様子の者もいる。
教師は4分の1が倒れ、もう4分の1は腰を抜かしている。
それってどうなんだろうって、俺は跪いたまま、冷静に辺りを見回してそう思った。
……ルフナ王子が言われていた通り、一目瞭然で悪意ある者が分かるなんて凄いよ。アコルくん、本当に覇王様だったんだね。心から嬉しいよ。
……しかも、なんだか体がぼんやりと輝いてるよ?
俺の隣で倒れている、いけ好かないデミル領の伯爵令息のダメニスと、そのまた隣のフロランタン商会のイバレンは、全く起き上がれそうにない。
腰を抜かした者の内半分は『俺は悪意なんて抱いてないよアコル』って、訴えるように首を小さく横に振りながら、泣きそうな顔で体勢を直して跪いていく。
今朝、午後から学院集会を行うと突然告げられた。
俺はクラスメートたちと一緒にワイワイ騒ぎながら、昼食後体育館へと向かう。
学生だけでなく、教師に職員に用務員、学食のおばちゃんに至るまで全員が集められる学院集会は、王都で疫病が流行った60年前以来のことらしい。
昨日、執行部の会話を食堂で盗み聞きしていた者の話によると、【覇王様】が現れたとかなんとか……だから、今日の集会は覇王様関連ではないかと皆は噂し、ちょっとした興奮状態になっている。
凄く不敬だと思うけど、どんな覇王様がいいかって話題で、昼休みに仲間たちと盛り上がった。
現れて欲しいと切実に思うけど、今の王族の中にドラゴンと戦える魔力量を持った者は居ない気がするって、仲間の意見は一致した。
冗談みたいに、アコルのように民を助けたいと頑張る人だったらいいのになって、同じクラスで特務部のアステム(平民)が言った。
でもアコルは生粋の平民だから、ないないって笑いながら皆は否定していたな。
……いや、俺はそうならいいなと本気で思うよ。
アイススネークの変異種を一刀両断した姿は、【魔王】というより、もう【覇王】の方が相応しいって、ヤーロン先輩もドーブ先輩も言ってたし。俺もそう思った。
体育館に集合した学生が騒いでいると、ステージの上に学院長が現れた。
まるで王様に謁見する時に着るような、最上級の式服を着ている。
王族でもある学院長が正装しているということは、余程高位の身分の者が、例えば国王様?……いや、本当に【覇王様】が来られたのかもしれないと、皆が一気に緊張していく。
俺も思わず背筋を伸ばして、アコルは何処だろうかと視線で探してみる。
よく見えないが、執行部のメンバーは別の場所に並んでいるようで姿が見えない。
「王家には、覇王様の遺言書が残っている。その遺言の中には、およそ千年後に魔獣の大氾濫が起こり、その時必ず新しい覇王となる王子が生まれると書いてある。
そして先日、行方不明だったレイム公爵令嬢と国王の間にお生まれになった、第七王子が発見された。
いろいろな調査の結果、第七王子はコルランドル王国が待ち望んでいた、新しい覇王様であると判明した。
本日、覇王様を御迎えしている。御前では、如何なる失態も許されない」
魔術具を使った学院長の声はよく響き、その声はとても緊張しているように感じた。
学院長は、いきなり第七王子の存在を明かし、その王子が覇王様であると説明した。
しかもレイム公爵令嬢と国王様の子? それじゃあ、ルフナ王子と同じだ。
「えぇーっ!」とか「第七王子?」とか「覇王様?!」という声が飛び交い、体育館内は騒然となった。
みんな慌てて身嗜みを整え始める。
学院長がステージ上の少し後方に下がった場所に控えると、次に執行部部長であるノエル様と、ルフナ王子がステージ上に姿を現した。
「皆さん、この度【王立高学院特別部隊】は、覇王様の指揮下に入りました。
そして覇王様は、執行部室の隣の部屋を執務室とされ、王立高学院を活動拠点と決められました。
第七王子である覇王様は、13歳でいらっしゃいます。
覇王様を我が学院にお迎えできましたことは、大変光栄であり名誉なことです。皆さん、跪いてお迎えください」
ノエル様はゆっくりと分かり易く、13歳という部分をやや強調して、跪け!と笑顔で命令された。
訳が分からないという表情の者たちは、軽くパニックになりながら、跪いたり立ったままだったりとバラバラだ。
「大変重要な注意事項を言う。よく聞いてくれ。決して聞き漏らすな!
覇王様はこの国の王子であっても、私を含めた全ての王族……国王さえも礼をとらねばならない尊い存在であられる。
覇王様は覇王たるお力をもって、我々が臣下であるかどうか一目で判断される。
もしも悪意を抱けば、瞬時に倒れ伏し、恐怖のあまり身動きが出来なくなる。
そして覇王であることを疑う者は、腰を抜かし頭を上げられなくなる。
信じて従う者であっても、跪かずにはいられない。
いいか皆、これは決して冗談などではない!
もしも倒れ伏してしまえば、覇王様に反意ありと知られてしまうのだ。
君たちの行いが、自分の家族に大きな影響を与える可能性を考えろ!
あまりに強大なお力をお持ちなので、ご本人でさえ、目覚めた力の加減が難しいと仰っている。
俺は心から願っている。君たちの多くが、明日もこの学院に残っていられるようにと」
ルフナ王子はまるで脅すように言ってから、神に祈るように胸の前で手を組み、心配そうな視線で体育館内の全ての人を見回していく。
そして学院長の隣に立つと、当たり前のように跪いた。
2人の王族が同時に跪くのを見た俺たちも、一斉に跪き頭を下げていく。
「覇王様ご入場です」と、トーマス王子の声が響いた。
シンと静まり返った場内で、全員が跪いている様をステージから見られる覇王様は、どんなお気持ちなのだろう?
アコルと同じ13歳の覇王様は、どんなお姿をされているのだろう。
コツコツと覇王様の靴音が聞こえる。俺はゴクリと唾を飲み込んで、より深く頭を下げた。
「今代の覇王となったアコルだ。皆、顔を上げよ」
えっ! まさかあのアコル? と思ってバッと顔を上げた者は約半数。
信じられないけど、頭を床に打ち付けるようにバタバタ倒れる者が続出していく。
数秒後には、ドスンと腰を抜かすように尻もちをつく者も多数出た。
跪いた姿勢は保っているけど、俺と違って何故か顔を上げられない様子の者もいる。
教師は4分の1が倒れ、もう4分の1は腰を抜かしている。
それってどうなんだろうって、俺は跪いたまま、冷静に辺りを見回してそう思った。
……ルフナ王子が言われていた通り、一目瞭然で悪意ある者が分かるなんて凄いよ。アコルくん、本当に覇王様だったんだね。心から嬉しいよ。
……しかも、なんだか体がぼんやりと輝いてるよ?
俺の隣で倒れている、いけ好かないデミル領の伯爵令息のダメニスと、そのまた隣のフロランタン商会のイバレンは、全く起き上がれそうにない。
腰を抜かした者の内半分は『俺は悪意なんて抱いてないよアコル』って、訴えるように首を小さく横に振りながら、泣きそうな顔で体勢を直して跪いていく。
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