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魔王と覇王
127ー2 覇王、始動する(2)ー2
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翌日の放課後、執行部、学院長、副学院長、トーマス王子、そしてワイコリーム公爵を加えたメンバーが会議室に集合した。
今後の【王立高学院特別部隊】の活動、それに伴う在学期間の延長、試験期間中の出動については再試を行ったり、授業を抜ける学生の為の補習等について話し合った。
大体の要望を伝え、学院は便宜を図ってくれることになった。
「下手をすると、1年の内の半分は出動することになるでしょう。
今は、国の存亡と国民の命の危機を、最優先に考え動かねばならない時です。
本来なら、高学院は閉鎖すべき時だと思いますが、この国の軍と魔法省の現状を考えると、我々以外に指揮を執れる適任者がいません」
何度も言っていることだけど、ここは鬱陶しいほどに念押しして言う。
「しかし覇王様、学生が勉学を犠牲にしてまで戦うのは・・・軍や魔法省で働く者を鍛える方が先ではありませんか?」
学院長が難しい顔をして異議を唱える。
この国の法律では、王立高学院の学生を、戦争に従軍させてはならないと決められている。でも、これは人同士の戦争ではない。
魔獣と戦うという現実をまだ理解できていない学院長に、俺は正直がっかりした。
だけど本来学院長は、学生を守るべき存在だから、その姿勢は間違っている訳ではない。
「もちろん私は覇王として、軍も魔法省も遊ばせておく気は更々ありません。
魔獣討伐に行くことが可能な、ヤル気のある者をビシビシ鍛えて【魔獣討伐専門部隊】を作ります。
まさか国王は、覇王に従えない者や、やる気の無い上官や兵士や無能な魔法師まで、私に押し付ける・・・などと世迷言を言われることはないでしょう?
【魔獣討伐専門部隊】に入らない者は、国王が管理し鍛えればいい。
そして、城や上級地区を守る要員として、大臣が自分の責任を果たし指揮すればいい」
俺は無能な軍や魔法省の実態を作った責任は、国王や大臣たちにあると思っている。だから、自分たちの尻拭いは自分たちでするべきだと突き放した。
そして覇王の側近となったワイコリーム公爵に、含みのある視線を向ける。
「承知しました覇王様。私が持つ魔獣討伐に関する指揮権で、軍と魔法省から【魔獣討伐専門部隊】に入る人材を集めます。
それ以外の人材に関しては、軍や魔法省の大臣や副大臣の管轄であり指揮下ですから、私は口出しできません。
残った人材で王宮や上級地区を守れるかどうかは、覇王様にも、【王立高学院特別部隊】にも【魔獣討伐専門部隊】にも、関係も責任もないことです」
ワイコリーム公爵は俺の意図を読み取り、自分の指揮下に【魔獣討伐専門部隊】を置くと断言した。
軍務大臣であるデミル公爵は、今回、国王にも相談せず勝手に軍と魔術師を動かした。
ワイコリーム公爵にとってそれは、完全に面目を潰されたということだ。
だから今回は、合法的に権限を行使し、優秀な人材だけを引き抜いていく。
「それでは、【王立高学院特別部隊】は、王宮や上級地区で活動はしないと?」
「当然でしょう? トーマス王子、はっきり言いましょう。
覇王は、王族や貴族を守るために戦うことはない。民を守るために戦うのです。
王族も上級貴族も、自分の身を守れる魔力量を持っている。
王族など、A級魔法師を持っていて当たり前だ。何故学生に守ってもらおうと考えるのです?
トーマス王子、今の貴方には王になる者としての気概も資格もない。
貴方は王になって、何をしたいのでしょう?
今の言葉が王として発せられたとしたら、国民より王族や高位貴族を守れと命令する、愚王になる姿しか思い浮かばない。
暫く王都を離れ、冒険者として魔獣の討伐をしてくるといいでしょう。
王とは何か? 王として何をすべきか? 自分はどんな王になりたいのかが見えてくるでしょう」
俺はトーマス王子に、あえて厳しい言葉を投げつけた。
これだけの人前で言われれば、高いプライドも傷付いただろう。
でもこれは、俺がトーマス王子に贈る最後のプレゼントだ。
トーマス王子は、最初に会った時から自分の道が決められなかった。
俺の意見を聞いて高学院の講師になり、魔獣の大氾濫に備えて研究室を作った。
でも、それは自分の遣りたかったことではない。
次の国王を目指すなら、何かをする必要があっただけで、その視線は、いつも国民ではなく、王族や大臣や領主の方を向いていた。誰から評価を得たかったのか・・・
……おれは切実に、国王を殴り飛ばしたい。
……堕落した王族を断罪したい。でも、そんな無駄な時間なんて無い。
……王とは何か、王は何のために存在しているのかを、なぜ教えてないんだ!
「アコ……すみません、覇王様は国王にはなられないのですか?」と、ルフナ王子が訊いた。
きっと悪気なく、トーマス王子が国王として失格なら、アコルが国王になればいいじゃん……って考えたんだろうな。
ルフナ王子にとって、国王こそが最上位なんだ。
エイトとラリエスが、ぎょっとした表情でルフナ王子を見る。
「ルフナ王子、どうして私が国王になど成る必要があるのです?
貴方は、国王より高い地位にある覇王に対し、その問いが不敬になると分からないのですか?
覇王とは、この国だけを守り、この国のことだけを考えていればいい存在ではない。
どうして他国でも魔獣の大氾濫が起こっていると想像できないのでしょう?
覇王とは、この大陸を統べる者です。
今後二度と、この国の国王に関することに私を巻き込まないでください!」
俺は意図せず【覇気】を放ってしまった。
その【覇気】の影響を強く受けたのは王族だけで、リーマス王子以外は椅子から滑り落ち、顔を上げることが出来なくなった。
これ以上会議を続けることは難しいと、仕方なく俺は判断した。
明日の午後、全学生、全職員の前で俺が覇王だと発表することだけは決定している。
時間が余ったので、夕食まで新しい魔法陣の発動の研究と実験をしよう。
実験の協力者として、ワイコリーム公爵とラリエス、エイトとボンテンク先輩、そしてすっかりしょげているルフナ王子を連れて、マキアート教授の研究室に向かうことにした。
今後の【王立高学院特別部隊】の活動、それに伴う在学期間の延長、試験期間中の出動については再試を行ったり、授業を抜ける学生の為の補習等について話し合った。
大体の要望を伝え、学院は便宜を図ってくれることになった。
「下手をすると、1年の内の半分は出動することになるでしょう。
今は、国の存亡と国民の命の危機を、最優先に考え動かねばならない時です。
本来なら、高学院は閉鎖すべき時だと思いますが、この国の軍と魔法省の現状を考えると、我々以外に指揮を執れる適任者がいません」
何度も言っていることだけど、ここは鬱陶しいほどに念押しして言う。
「しかし覇王様、学生が勉学を犠牲にしてまで戦うのは・・・軍や魔法省で働く者を鍛える方が先ではありませんか?」
学院長が難しい顔をして異議を唱える。
この国の法律では、王立高学院の学生を、戦争に従軍させてはならないと決められている。でも、これは人同士の戦争ではない。
魔獣と戦うという現実をまだ理解できていない学院長に、俺は正直がっかりした。
だけど本来学院長は、学生を守るべき存在だから、その姿勢は間違っている訳ではない。
「もちろん私は覇王として、軍も魔法省も遊ばせておく気は更々ありません。
魔獣討伐に行くことが可能な、ヤル気のある者をビシビシ鍛えて【魔獣討伐専門部隊】を作ります。
まさか国王は、覇王に従えない者や、やる気の無い上官や兵士や無能な魔法師まで、私に押し付ける・・・などと世迷言を言われることはないでしょう?
【魔獣討伐専門部隊】に入らない者は、国王が管理し鍛えればいい。
そして、城や上級地区を守る要員として、大臣が自分の責任を果たし指揮すればいい」
俺は無能な軍や魔法省の実態を作った責任は、国王や大臣たちにあると思っている。だから、自分たちの尻拭いは自分たちでするべきだと突き放した。
そして覇王の側近となったワイコリーム公爵に、含みのある視線を向ける。
「承知しました覇王様。私が持つ魔獣討伐に関する指揮権で、軍と魔法省から【魔獣討伐専門部隊】に入る人材を集めます。
それ以外の人材に関しては、軍や魔法省の大臣や副大臣の管轄であり指揮下ですから、私は口出しできません。
残った人材で王宮や上級地区を守れるかどうかは、覇王様にも、【王立高学院特別部隊】にも【魔獣討伐専門部隊】にも、関係も責任もないことです」
ワイコリーム公爵は俺の意図を読み取り、自分の指揮下に【魔獣討伐専門部隊】を置くと断言した。
軍務大臣であるデミル公爵は、今回、国王にも相談せず勝手に軍と魔術師を動かした。
ワイコリーム公爵にとってそれは、完全に面目を潰されたということだ。
だから今回は、合法的に権限を行使し、優秀な人材だけを引き抜いていく。
「それでは、【王立高学院特別部隊】は、王宮や上級地区で活動はしないと?」
「当然でしょう? トーマス王子、はっきり言いましょう。
覇王は、王族や貴族を守るために戦うことはない。民を守るために戦うのです。
王族も上級貴族も、自分の身を守れる魔力量を持っている。
王族など、A級魔法師を持っていて当たり前だ。何故学生に守ってもらおうと考えるのです?
トーマス王子、今の貴方には王になる者としての気概も資格もない。
貴方は王になって、何をしたいのでしょう?
今の言葉が王として発せられたとしたら、国民より王族や高位貴族を守れと命令する、愚王になる姿しか思い浮かばない。
暫く王都を離れ、冒険者として魔獣の討伐をしてくるといいでしょう。
王とは何か? 王として何をすべきか? 自分はどんな王になりたいのかが見えてくるでしょう」
俺はトーマス王子に、あえて厳しい言葉を投げつけた。
これだけの人前で言われれば、高いプライドも傷付いただろう。
でもこれは、俺がトーマス王子に贈る最後のプレゼントだ。
トーマス王子は、最初に会った時から自分の道が決められなかった。
俺の意見を聞いて高学院の講師になり、魔獣の大氾濫に備えて研究室を作った。
でも、それは自分の遣りたかったことではない。
次の国王を目指すなら、何かをする必要があっただけで、その視線は、いつも国民ではなく、王族や大臣や領主の方を向いていた。誰から評価を得たかったのか・・・
……おれは切実に、国王を殴り飛ばしたい。
……堕落した王族を断罪したい。でも、そんな無駄な時間なんて無い。
……王とは何か、王は何のために存在しているのかを、なぜ教えてないんだ!
「アコ……すみません、覇王様は国王にはなられないのですか?」と、ルフナ王子が訊いた。
きっと悪気なく、トーマス王子が国王として失格なら、アコルが国王になればいいじゃん……って考えたんだろうな。
ルフナ王子にとって、国王こそが最上位なんだ。
エイトとラリエスが、ぎょっとした表情でルフナ王子を見る。
「ルフナ王子、どうして私が国王になど成る必要があるのです?
貴方は、国王より高い地位にある覇王に対し、その問いが不敬になると分からないのですか?
覇王とは、この国だけを守り、この国のことだけを考えていればいい存在ではない。
どうして他国でも魔獣の大氾濫が起こっていると想像できないのでしょう?
覇王とは、この大陸を統べる者です。
今後二度と、この国の国王に関することに私を巻き込まないでください!」
俺は意図せず【覇気】を放ってしまった。
その【覇気】の影響を強く受けたのは王族だけで、リーマス王子以外は椅子から滑り落ち、顔を上げることが出来なくなった。
これ以上会議を続けることは難しいと、仕方なく俺は判断した。
明日の午後、全学生、全職員の前で俺が覇王だと発表することだけは決定している。
時間が余ったので、夕食まで新しい魔法陣の発動の研究と実験をしよう。
実験の協力者として、ワイコリーム公爵とラリエス、エイトとボンテンク先輩、そしてすっかりしょげているルフナ王子を連れて、マキアート教授の研究室に向かうことにした。
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