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魔王と覇王

127ー1 覇王、始動する(2)ー1

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 これより先の話は、食堂でするには問題がありそうだから、俺は執行部のメンバーを連れて覇王の執務室に向かうことにした。

 執務室に入った皆は、モンブラン商会が気合を入れて用意してくれた、豪華な家具や部屋の雰囲気に満足したようで、ミーティング用の大きなテーブルと応接セットに分散して座っていく。
 折角だからモンブラン商会の新作、白磁の青いシリーズでおもてなししよう。

 こんなこともあろうかと、俺のマジックバッグの中には、沸きたてのお湯が入ったポットが3つ収納してあった。
 早速始めたお茶の準備を見て、全員が慌てて手伝おうとしてくれる。まあ、普通に考えたら覇王にお茶を淹れさせるのは不敬なのかもしれない。

「覇王じゃない時の俺は、これからもお茶を淹れるよ。なんだかもう自分の仕事として定着してるし、お茶へのこだわりが強すぎて他の人に任せることができないんだよね」

俺の話を聞いたエイトとボンテンク先輩が、困った顔をして俺の後ろに立っているけど、何も言い返せなくて渋々自分の席に戻っていく。
 1年生のカイヤさんとスフレさんは、食器棚からティーカップではなく、お揃いのマグカップを15個取りだし、恐る恐るテーブルの上に置いていく。

「こんな高級な白磁、持つだけで緊張しますわ」とスフレさんが強張った顔で言えば、「私ではとても弁償できません」と、カイヤさんも困った顔で言う。

「さすが覇王様、このブルーは本当に美しいですわ」と、ノエル様はうっとりとカップを見つめている。

「本日のお茶は甘茶です。優しい香りと甘味が特徴で、癒しの効果があります」

いつものようにお茶の説明をしながら、茶葉にお湯を注いでいく。
 フワリと広がっていく茶葉を見ていると、甘い香りが漂ってきて、全員が思いっきり鼻から香りを吸い込でいる。

 慣れた手つきでカップに甘茶を注いで、笑顔で皆に渡していく。
 カップの半分くらい甘茶を飲んだところで、俺は重要な話を始めることにした。
 

「今後、救援や救済活動に向かった者は、全員が土魔法で作ったかまくらで寝泊まりしようと思う。
 【王立高学院特別部隊】の者には、魔獣討伐か救済活動を何回かしてもらい、働きに応じて小型の馬車サイズのマジックバッグを格安で販売する予定だ」

「ええぇーっ! あの国宝級を格安で?」と、マサルーノ先輩、トゥーリス先輩、リーマス王子、女子数名が思わず叫んだ。

「いえいえ、時間は普通に経過しますよ。魔力量も60あれば使用できます。
 だから、手ぶらに近い状態で出掛けられるでしょう。

 かまくらで生活するのに必要な食料、床板、布団、野営に必要な物や洗面用具等を各自で用意し、被災地に負担を掛けないようにします。
 マサルーノ先輩、かまくら作りの精度を上げて指導をお願いします」

 チェルシー先輩は、両手を胸の前で組み神に感謝の祈りを捧げ始める。
 マサルーノ先輩は、ガッツポーズで「ウオーッ!」と雄叫びを上げる。

 ノエル様はにっこりと笑って「着替え放題ですわ」と嬉しそうだ。
「お茶もお菓子も持ち込めますわね」と、ミレーヌ様もいい笑顔だ。

「そうですミレーヌ様、辛い仕事ですから、息抜きや癒しは必要です。被災者の前で食べるのは難しくても、かまくらの中なら安心です」

 いや、本当に過酷で辛い現実を直視するから、心と体の癒しは必要だ。
 小型の馬車の容量だと、かなりの物が入るし、俺のマジックバッグは、必要な物だけを出し入れできる優れ物だ。

 実際に使っている母さんいわく「これを売れば家が買えるわね」だそうだ。

「もちろんモカの町でお伝えした通り、時間が経過しない国宝級のマジックバッグも、荷馬車の容量のものを金貨30枚でお売りします。

 今のところ希望者はラリエスとエイトだけだったと思うけど、他の皆さんはどうされます?
 因みに、これから領主に売る大容量のマジックバッグは、時間が経過します」

「買います!」と手を上げたのは残りのメンバー全員だった。

「分かりました。つい先日、エイト、ボンテンク先輩や特務部の数人と一緒に、冒険者ギルドの依頼でアイススネークの変異種討伐に行き、大量の素材が手に入りましたので、各領地のマジックバッグの注文を受けた後、製作に入ります」

 みんな自分の領地の為に購入する気だろう。いいことだ。
 薬草の保存のためには、リーマス王子にとって絶対に必要な物だろう。

「ルフナ王子も購入するのなら、魔獣討伐の時には、【覇王軍】のナマモノの収納をお願いできますね。
 これから先、各地で同時に発生する魔獣の氾濫に対し、チームに分かれて行動することになります。

 申し訳ありませんが、同じ家で2枚購入することになるボンテンク先輩とエイトは、【覇王軍】の食料調達用にどちらか1枚を使ってください」

「承知しました」と、従者でもあるエイトとボンテンク先輩が了解してくれる。

「さて、次の議題は隊服についてです」と言って俺はにっこりと笑った。

 ボンテンク先輩が、いくつかの隊服のデザイン画を自分のマジックバッグの中からサッと取り出す。
 それはそれは機能性をやや無視したのかと思う程に、とても格好いいデザインだ。

 男女の隊服の絵を見て、皆から「オォーッ!」とか「カッコイイ」とか「動き易そうですわ」と声が上がる。
 どうやら隊服は、思っていた以上に好評みたいだ。

 そこから門限まで、【王立高学院特別部隊】と【覇王軍】の隊服について、熱く議論が交わされた。
 機能性とデザイン性、色や刺繡、そして紋章について、ワイワイがやがやと皆が意見を出し合う。

 そして、王都中の仕立て屋と商業ギルドを巻き込んで、大々的に隊服決定イベントをすることも告げると、大盛り上がりに盛り上がった。
 出来上がった隊服を着るモデルは、本物の【王立高学院特別部隊】の学生だ。

「これは、人任せにはできませんわ」
「ええミレーヌ様、動き易さも大切ですが、可愛さだって必要でしてよ」

「そうですわノエル様。隊服はこんな感じでも良いのですが、上に可愛い刺繡の入ったフリルのエプロンをするのはどうでしょう?」

「まあ、素晴らしいアイデアだわエリザーテ。きりりと働くことを意識した隊服に、汚れたら取り換えるエプロンは数枚必要だわ。1枚は支給にして各自で用意することも考えましょう」

 女性陣の熱の籠った話し合いに入るのは止めておこう。
 用意した用紙にどんどんデザイン画を追加し、刺繡は貴族部の女性に頼みましょうと盛り上がっている。

 男性陣はというと、格好良さに拘るルフナ王子とエイトが、機能性と安全性に拘るラリエスとマサルーノ先輩との間で意見を戦わせている。
 そのバトルを横目で冷たく見ながら、絵の上手いボンテンク先輩が、双方の意見を採り入れた新しいデザイン画を次々に仕上げていく。
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