上 下
226 / 709
魔王と覇王

127ー1 覇王、始動する(2)ー1

しおりを挟む
 これより先の話は、食堂でするには問題がありそうだから、俺は執行部のメンバーを連れて覇王の執務室に向かうことにした。

 執務室に入った皆は、モンブラン商会が気合を入れて用意してくれた、豪華な家具や部屋の雰囲気に満足したようで、ミーティング用の大きなテーブルと応接セットに分散して座っていく。
 折角だからモンブラン商会の新作、白磁の青いシリーズでおもてなししよう。

 こんなこともあろうかと、俺のマジックバッグの中には、沸きたてのお湯が入ったポットが3つ収納してあった。
 早速始めたお茶の準備を見て、全員が慌てて手伝おうとしてくれる。まあ、普通に考えたら覇王にお茶を淹れさせるのは不敬なのかもしれない。

「覇王じゃない時の俺は、これからもお茶を淹れるよ。なんだかもう自分の仕事として定着してるし、お茶へのこだわりが強すぎて他の人に任せることができないんだよね」

俺の話を聞いたエイトとボンテンク先輩が、困った顔をして俺の後ろに立っているけど、何も言い返せなくて渋々自分の席に戻っていく。
 1年生のカイヤさんとスフレさんは、食器棚からティーカップではなく、お揃いのマグカップを15個取りだし、恐る恐るテーブルの上に置いていく。

「こんな高級な白磁、持つだけで緊張しますわ」とスフレさんが強張った顔で言えば、「私ではとても弁償できません」と、カイヤさんも困った顔で言う。

「さすが覇王様、このブルーは本当に美しいですわ」と、ノエル様はうっとりとカップを見つめている。

「本日のお茶は甘茶です。優しい香りと甘味が特徴で、癒しの効果があります」

いつものようにお茶の説明をしながら、茶葉にお湯を注いでいく。
 フワリと広がっていく茶葉を見ていると、甘い香りが漂ってきて、全員が思いっきり鼻から香りを吸い込でいる。

 慣れた手つきでカップに甘茶を注いで、笑顔で皆に渡していく。
 カップの半分くらい甘茶を飲んだところで、俺は重要な話を始めることにした。
 

「今後、救援や救済活動に向かった者は、全員が土魔法で作ったかまくらで寝泊まりしようと思う。
 【王立高学院特別部隊】の者には、魔獣討伐か救済活動を何回かしてもらい、働きに応じて小型の馬車サイズのマジックバッグを格安で販売する予定だ」

「ええぇーっ! あの国宝級を格安で?」と、マサルーノ先輩、トゥーリス先輩、リーマス王子、女子数名が思わず叫んだ。

「いえいえ、時間は普通に経過しますよ。魔力量も60あれば使用できます。
 だから、手ぶらに近い状態で出掛けられるでしょう。

 かまくらで生活するのに必要な食料、床板、布団、野営に必要な物や洗面用具等を各自で用意し、被災地に負担を掛けないようにします。
 マサルーノ先輩、かまくら作りの精度を上げて指導をお願いします」

 チェルシー先輩は、両手を胸の前で組み神に感謝の祈りを捧げ始める。
 マサルーノ先輩は、ガッツポーズで「ウオーッ!」と雄叫びを上げる。

 ノエル様はにっこりと笑って「着替え放題ですわ」と嬉しそうだ。
「お茶もお菓子も持ち込めますわね」と、ミレーヌ様もいい笑顔だ。

「そうですミレーヌ様、辛い仕事ですから、息抜きや癒しは必要です。被災者の前で食べるのは難しくても、かまくらの中なら安心です」

 いや、本当に過酷で辛い現実を直視するから、心と体の癒しは必要だ。
 小型の馬車の容量だと、かなりの物が入るし、俺のマジックバッグは、必要な物だけを出し入れできる優れ物だ。

 実際に使っている母さんいわく「これを売れば家が買えるわね」だそうだ。

「もちろんモカの町でお伝えした通り、時間が経過しない国宝級のマジックバッグも、荷馬車の容量のものを金貨30枚でお売りします。

 今のところ希望者はラリエスとエイトだけだったと思うけど、他の皆さんはどうされます?
 因みに、これから領主に売る大容量のマジックバッグは、時間が経過します」

「買います!」と手を上げたのは残りのメンバー全員だった。

「分かりました。つい先日、エイト、ボンテンク先輩や特務部の数人と一緒に、冒険者ギルドの依頼でアイススネークの変異種討伐に行き、大量の素材が手に入りましたので、各領地のマジックバッグの注文を受けた後、製作に入ります」

 みんな自分の領地の為に購入する気だろう。いいことだ。
 薬草の保存のためには、リーマス王子にとって絶対に必要な物だろう。

「ルフナ王子も購入するのなら、魔獣討伐の時には、【覇王軍】のナマモノの収納をお願いできますね。
 これから先、各地で同時に発生する魔獣の氾濫に対し、チームに分かれて行動することになります。

 申し訳ありませんが、同じ家で2枚購入することになるボンテンク先輩とエイトは、【覇王軍】の食料調達用にどちらか1枚を使ってください」

「承知しました」と、従者でもあるエイトとボンテンク先輩が了解してくれる。

「さて、次の議題は隊服についてです」と言って俺はにっこりと笑った。

 ボンテンク先輩が、いくつかの隊服のデザイン画を自分のマジックバッグの中からサッと取り出す。
 それはそれは機能性をやや無視したのかと思う程に、とても格好いいデザインだ。

 男女の隊服の絵を見て、皆から「オォーッ!」とか「カッコイイ」とか「動き易そうですわ」と声が上がる。
 どうやら隊服は、思っていた以上に好評みたいだ。

 そこから門限まで、【王立高学院特別部隊】と【覇王軍】の隊服について、熱く議論が交わされた。
 機能性とデザイン性、色や刺繡、そして紋章について、ワイワイがやがやと皆が意見を出し合う。

 そして、王都中の仕立て屋と商業ギルドを巻き込んで、大々的に隊服決定イベントをすることも告げると、大盛り上がりに盛り上がった。
 出来上がった隊服を着るモデルは、本物の【王立高学院特別部隊】の学生だ。

「これは、人任せにはできませんわ」
「ええミレーヌ様、動き易さも大切ですが、可愛さだって必要でしてよ」

「そうですわノエル様。隊服はこんな感じでも良いのですが、上に可愛い刺繡の入ったフリルのエプロンをするのはどうでしょう?」

「まあ、素晴らしいアイデアだわエリザーテ。きりりと働くことを意識した隊服に、汚れたら取り換えるエプロンは数枚必要だわ。1枚は支給にして各自で用意することも考えましょう」

 女性陣の熱の籠った話し合いに入るのは止めておこう。
 用意した用紙にどんどんデザイン画を追加し、刺繡は貴族部の女性に頼みましょうと盛り上がっている。

 男性陣はというと、格好良さに拘るルフナ王子とエイトが、機能性と安全性に拘るラリエスとマサルーノ先輩との間で意見を戦わせている。
 そのバトルを横目で冷たく見ながら、絵の上手いボンテンク先輩が、双方の意見を採り入れた新しいデザイン画を次々に仕上げていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...