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魔王と覇王

126ー2 覇王、始動する(1)ー2

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「ああ、女性の皆さんは、卒業後結婚のご予定などありましたら、遠慮なく言ってください。任命はしましたが強制ではありませんから」

 こんな過酷な任務を、女性に続けさせるのは申し訳なさすぎる。

「アコル様、魔獣の大氾濫に打ち勝つまでは、結婚なんて考えられませんわ」

「そうですわねノエル様。私も結婚はマギ領に平穏が戻ってからにしたいですわ。
 トゥーリス様もサナへ領の貴族を鍛えるのに忙しいでしょうし、私は卒業後も【王立高学院特別部隊】に残りますわ」

 トゥーリス先輩の婚約者でもあるミレーヌ様は、1歳年上なので今年の夏には卒業だ。残ってトゥーリス先輩を支えていくのかもしれない。

「もちろん卒業後も【王立高学院特別部隊】や【覇王軍】に残る場合は、覇王が給料を支払います。出動したら出張手当も払います。
 活躍に応じて報奨金も出す予定です。しかし、問題は卒業後に生活する場所ですね。寮は余分な部屋が殆ど無いので・・・」

俺は困ったなあという顔をして、ちらりとトーマス王子に視線を送る。
 トーマス王子だけ、覇王は何も任命してないから、少しは役に立とう……とか考えてくれたら嬉しいんだけど、どうだろう・・・

「兄上、王族として出来ることがあるのではありませんか?
 本来なら国が率先してすべきことを、アコ……覇王様に全てお任せしていては、国民や学生はどう思うでしょう?」

「そうだなルフナ。サナへ領の救済の時と同じでは、学生はついてきませんよ。
 王を目指しているのなら、学生にも領主にも国民にも、ご自分の能力を示さねばなりません。
【覇王軍】を率いることに比べたら、簡単なことではありませんか」

ルフナ王子に続いて、リーマス王子も椅子から立ち上がり、トーマス王子に厳しい意見を言う。
 サナへ領でのトーマス王子の態度には、二人とも首を捻っていたから、しっかりしろとエールを送っているのだろう。

「分かった。この件は私に預からせてもらう。卒業前には住居を用意しよう」

 ここは任せろと力強く言って欲しいところだったが、用意してくれるなら問題ない。その煮え切らない態度も、そう長くは続かないだろう。

「それでは覇王として、トーマスを【王立高学院特別部隊】の住居調達担当及び相談役に任命する」

 トーマス王子に何も役割を与えないと、覇王はトーマス王子を信用してないとか、見限ったと思われるだろう。

 確かに一度は失格の烙印を押したが、遊ばせておく余裕も優しさも俺にはない。
 使える王子は、使い倒さねばならない。倒れるまで働いたら、少しは逞しくなるだろう。

 気付けば夕食時間になっていたので、続きは食事をとりながらすることとし、執行部のメンバーだけで同じテーブルに座り話をすることにした。
 トーマス王子には、明日の放課後、学院長、副学院長のマキアート教授も含めて、また執行部室に集合して打ち合わせをすると伝えておいた。



 食堂の前まで来たところで、俺を覇王として意識している全員に向かって指示を出す。

「俺が覇王として学生の前に立つ日まで、今まで通りの呼び方でお願いします。俺もこれまでと同じように話をします。分かりましたか?」

「分かりました」と14人が声を揃えて返事をする。でもきっと、エイトとボンテンク先輩は無理だろうな。
 偶然なのか皆が気を利かせたのか、執行部が揃って食堂に入って来たので、8人掛けのテーブルが2つ並んで空いていた。遠慮なく座らせていただこう。

「それでトゥーリス先輩、あの後、モカの町はどうなりましたか?」

「はいアコルさ……くん、私はリーマス王子や医療班と一緒に、ケガ人や病人の手当をしたので、他の救済活動は役場長と役場長派の皆さんに任せました。

 アコル君が出した指示通りに、西地区の被災者は副役場長と住民管理部長の家に移り、少しずつ普通の生活に戻っていきました。
 シラミド男爵は、ココア村とモカの町の間に魔獣を防ぐ壁を造るそうです」

トゥーリス先輩は、やや俯き加減で報告する。きっと俺が満足するような救済活動を行えていないと考え、申し訳ないと思っているのだろう。

「リーマス王子、ケガ人や病人はどうでしたか?」

「はい、ケガ人は【薬種 命の輝き】から買った薬草や湿布が役立ちました。
 次の日には、領都に薬草を買いに行っていた役人も戻って来て、ポーションも作れました。
 問題は、薬草の代金を当然のようにシラミド男爵に請求しようとした、役人と私が言い争いになったことくらいです」

そう言ったリーマス王子は、はーっと大きな溜息を吐いた。

「嫌な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでしたリーマス王子」

「いや、トゥーリス君が謝ることではないよ。サナへ侯爵も王様も似たようなものだ。
 だからこそ、これから我らが先頭に立って意識改革をするんだ。そうですよねアコル君?」

落ち込むトゥーリス先輩を慰めながら、リーマス王子は俺に同意を求める。

「はいそうですリーマス王子。
 トゥーリス先輩、落ち込む必要はないですよ。先輩が侯爵や役人を説得しなくても、改めざるを得ない作戦を用意してあります。
 これ以上自領の恥をさらすことが出来ないよう、俺は売られた喧嘩をちゃんと買いましたから」

俺は何時もの如く魔王の頬笑みを浮かべ、学院長にも提出した【危機管理指導講座の企画書】を3部取り出し(商学部の教授たちが徹夜で仕上げてくれた)、皆に目を通して貰う。

「これは……ここまで詳しく書いてあると、サナへ領から参加する役人は肩身が狭いでしょうね」と、マサルーノ先輩は同情しているようで顔がにやけている。

「仕方ありませんわ。真実ですもの。あの時の側近も参加するのかしら?」

「そうですわねノエル様。ぜひ参加していただきたいわ。講義では手加減なしでビシバシと・・・レイム領の怒りを思い知らせて差し上げますわ。ホホホ」

レイム公爵家の古参伯爵家の令嬢であり、俺の従者となったボンテンク先輩の妹であるカイヤさんは、うっとりとした瞳で完全にやる気モードになっている。

「ああ、金貨1枚の人ね」と俺が言うと、全員が俺に視線を向けプッと噴き出した。名指しで参加させれば、全員の気が済むだろう。

 俺は会いたくもないし、思わず【覇気】が漏れちゃったら、腰を抜かして立てなくなるかもしれない。それはそれで医療班が迷惑するよなぁ……

「それから、【王立高学院特別部隊】の今後の活動で、重要な決定事項を伝えたいと思います」

だいたい皆が食べ終わる頃、俺はちょっと真面目な顔をして切り出した。
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