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魔王と覇王

121ー1 身分と名前(4)ー1

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 いつもよりは緊張感が漂う会頭の執務室・・・

「正体って、Sランクの冒険者だってことだろう?」

「あれ、セージ部長、情報が早いですね」

「いや、早いもなにも、高学院で魔王と呼ばれていることは有名だぞ。
 商学部1年のイーサンは、うちの傘下の印刷屋だ。それに2年の貴族部や商学部には、うちの商会員の弟妹が在学してる」

今更何を言っているって顔をしたマルク人事部長が、ブラックカード持ちっていうのは、つい最近サブギルマスのダルトン様に聞いた話だがと追加情報まで……

 ……ちょっとダルトンさん。いくらモンブラン商会の実質的なオーナーだからって、俺が一生懸命秘密にしてたことをペラペラ教えるとは、完全に反則だろう!

「他の商会や大商団主たちから、何処で拾って来たんだ?って訊かれるんだよな。
 だから私は、正直にサナへ領の街道で……って答えてるぞ。

 そもそも推薦で入学する予定の商会員が、一般試験で最高得点を取った時点で、うちは羨望と嫉みを集め注目の的だ。
 特にフロランタン商会からの風当たりがな……」

「ああ、嫡男のイバレンは同期生でしたね。確かにあのお坊っちゃんは、口が軽いような気がします会頭」

 ……伏兵はイバレンだったか! そりゃ確かにSランク冒険者だってバレるわな。

「アコル、私たちは、Sランク冒険者だと自分から話してくれるのを、ずっと待っていたんだよ」

「すみません。話すと迷惑になると勝手に思っていました」

会頭や他のメンバーから生暖かい視線を向けられ、素直に謝っておくことにする。

 会頭は仕方ないなという表情で、下級貴族からアコルにくる縁談を、断るのに苦労していることも知らんだろう?と、驚きの追加情報を出した。
 成績優秀で魔法も使える俺は、平民なのに下級貴族から人気らしい。

 ……そんなこと全く知りませんでした。全然興味もないけどさ。

「それだけでも相当目立っているのに、冒険者ギルドに出入りし、商業ギルドは支店じゃなくて本店に出入りしてる。
 、両方ともギルマスの執務室に顔パスで通される学生なんて、前代未聞に決まっているだろう!」

セージ部長は、学院に居るから世情に疎くなっているんだろが、サナへ領の救済活動の件でも、モンブラン商会は目立ちすぎたようだと、少し困ったような口ぶりで付け加えた。

 ……そうかぁ、迷惑かけてるなぁ。その上、覇王でしたなんて言い難いな。


「それで、こんな規格外な息子を捨てたバカ親は、レイム公爵家の親族なのか?」

会頭は、レイム公爵家に関係があるんだろうと、探りを入れてきた。
 そういえば、レイム公爵が俺の親から聞き取りをしようとして、モンブラン商会に母さんの住んでいる場所を訊いたんだった。

「はい。俺を産んだひとは、俺を産んで間もなく亡くなったようです。
 名前は聞いていませんが、祖父は前のレイム公爵です」

「はあ?!」と全員が驚きの声を上げながら立ち上がった。

「レイム公爵は、俺にレイム公爵家を継がせたいようですが、真っ平ごめんです」

「な、な、なんだと! アコルは次期公爵候補なのか?」と副会頭は隣に座っていた俺の肩を掴み、俺の顔を覗き込んで確認しようとする。

 他のメンバーも、まさか直系だとは思っていなかったようで、驚き過ぎて体が固まっている。

「まあ座ってください。それは大したことじゃないですから」

「はあ? 公爵の孫だったことが大したことじゃないだと!」

「興奮するなマルク人事部長。アコルの話はまだ終わっていない」

会頭はそう言うとフーッと大きく息を吐きだし、ゆっくりと椅子に座った。
 他のメンバーはゴクリと唾を飲み込み、セージ部長は手をぎゅっと握って、俺の次の言葉を真剣な表情で待っている。座った皆の顔色がちょっと?悪い。

「父親は、俺が孤児院に捨てられたことも知らず、10年近く安否確認さえしなかった。
 レイム公爵家なんて、俺が産まれていたと知ったのはつい最近です。
 呆れると言うか、あまりにも無責任でしょう?

 そんな者を、俺は親だとは認めないし、親族だと思いたくもないのが本音かな。
 俺の親はドバインの両親だけだし、それはこれからも変わらない」

俺は自分のことながら、呆れるしかないよねと自虐的に微笑んで不快感を隠さない。
 皆は何も言わず、なんとか俺の話を理解しようと頭をフル回転させている。


「父親は、自分を貴族家の人間だとしか母親に知らせておらず、産まれた時に一度だけやって来て、俺の前に現れた魔術書に血判登録させた。

 その時も父親は家名を名乗らず、名前だけ付けたらしい。スタウスと。
 一生名乗る気もないけど、スタウス・アルファス・コルランドルが、父親方が主張する名前らしい」

俺は明らかに嫌そうな口調と、迷惑ですという顔をして、自分のもう一つの名前を教えた。

「・・・・」
「コ、コルランドル?」

絞り出すように言葉を発したのは副会頭だった。この人は機動力があるな。
 この国の高位貴族のミドルネームは、父親の名前になっていることが多い。

「第七王子である俺を探していたのはワイコリーム公爵で、やっと今日、俺に辿り着き高学院に会いに来た。

 俺は持っていた魔術書が、何処の貴族家のものかを学院で調べて、自分が王子なのだと確信したのは去年の秋だった。
 でも、俺は王族を信用してないから、名乗る気にもなれなかった。今後も王子として表に立つ気はない」

突き放したように話す俺を見て、誰も何も言わない。
 確かに国王が城の外で子供を作ることは誰もが知る事実だけど、さすがに王子は想定外だったんだろうな。
 衝撃が大き過ぎたようで、全員固まったままで言葉もでない。

「お茶にしましょう。俺、まだ自分の正体を言ってないんです。だから早く正気に戻ってくださいね」

「・・・・・?」

 これ以上何かあるのか? という困惑した顔で、半分泣きそうになっている皆さんに、俺はお茶のサービスをすることにした。
 今日のお茶は、興奮を鎮める作用のあるハーブティーにしよう。ちょっと高級なハーブを使うけど、これからもお世話になる皆さんだから問題なし。

 ……今日はなんだか、お茶ばっかり淹れてる気がするな。
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