上 下
193 / 709
貴族たちの願望

110ー2 冬季休暇中の高学院ー2

しおりを挟む
 不思議なことに、サナへ侯爵に対して不敬だという意見が出なかったので、問題ないだろうかとカモン教授に訊いてみた。

「学生が実家で必ず親に話をしているはずだから、国中の貴族が今回のことを知ることになる。
 執行部が全員サナへ領へ行っているし、王命で救済に行っている以上、どうせ詳細な報告が必要になる」

サナへ侯爵や側近の【王立高学院特別部隊】への対応を、信じられないと言っていたカモン教授は、ちょっと嬉しそうに問題ないと言ってくれた。
 ヨサップ教授とノボルト教授も、よい教材になるでしょうと言っている。


「それにしても、ここまできちんと収支報告書が作成できて、容赦ない提案書も書けるとは……学生というより商人としてよく学んでいる。

 流石モンブラン商会だ。ん? ちょっと待て、この収支報告書はモンブラン商会ではなく大商団【薬種 命の輝き】になっているが、さっきアコル君は、私が興した店と言わなかったか?」

カモン教授は収支報告書に書いてある、モンブラン商会傘下である、大商団【薬種 命の輝き】という店の名前をもう一度確認しながら、大商団? 私が興した?と首を捻る。

「はい。商業ギルド本部に開業届を出して1年足らずで、レッドカードを頂きました。
 ただの個人商店では、年末にあれだけの商品を集められません。

 うちの取り扱い商品は、特殊なポーションと国宝級のマジックバッグが含まれていますから。
 ああ、これはここだけの秘密でお願いします」

俺は人差し指を唇に当て、秘密ですよと念押ししながら微笑んだ。

「な、なんだと1年で大商団?!」とカモン教授が眉を寄せ、「レッドカードだと!」と叫びながらノボルト教授は化け物を見るような視線を俺に向ける。
 最後に「やっぱり心臓に悪い」とヨサップ教授が呟いた。

 マジックバッグから取り出した、商業ギルド本部発行のレッドカードを見て、他の2人も「全くだ」と言って頷いた。  



 昼食を学食で食べたら、自分の部屋に帰って軽く掃除をする。
 午後からは、マキアート教授の研究室に向かう。

 ドアのガラス部分から中を覗くと、大きな紙に魔法陣を書き込みながら、議論している2人の教授の姿が見えた。
 魔法陣対決以来カルタック教授は、俺の持つ古代魔法陣の知識を学びたいと、頻繁にマキアート教授の研究室にやってくるようになった。

 言葉遣いや態度も、平民だと蔑むようなことも無くなったし、伝承の魔法陣を発動するのが夢だったと照れながら話し、ドラゴン討伐のために協力すると約束してくれた。

「お疲れ様ですマキアート教授、カルタック教授」

「なんだアコル、もう戻って来たのか?」とマキアート教授は何処か嬉しそうだ。

「お帰りアコル君。聞いてくれ、私はとうとう……とうとう妖精と契約したんだ! 今朝研究室のドアを開けたら白い花が机の上に置いてあった」

カルタック教授は興奮しながら、ポケットの中から小さな白い花を取り出して見せてくれる。

 サナへ領の救済活動には、あまり興味がなさそうな二人の姿に、それでいいのか? と首を捻りたくなったけど、研究バカの優先事項は魔法陣のようだ。

「おめでとうございますカルタック教授。いったい何をプレゼントしたんですか?」

「私が机の上に置いていたのは、金や鉄を含む小さな鉱石だ」

カルタック教授が嬉しそうに説明していると、男の子の妖精が姿を現した。

『僕は金属や変わった石が大好きなんだ。僕の名前はゴールド。
 僕はワイコリーム領の小さな森で、妖精を探しているカルタックを見掛けて、こっそり付いて来たんだ。よろしくお願いしますアコル様』

ゴールド君は丸顔で眉が太く、キラキラ光る小さな石がたくさん縫い付けられた黒い服を着ていて、赤・橙・藍・黄色の菱型の石が付いた黒い帽子をかぶり、笑顔で挨拶してくれた。

「よろしくねゴールド君。これからカルタック教授には、古代魔法陣を何度も使ってもらう予定だから、魔力を貸してあげてね」

『了解です。僕がカルタックの夢を叶えてあげるんだ』

「ゴールド君、ありがとう。必ず夢をかなえるよ。ううっ、感激だぁ」

嬉しさが爆発したカルタック教授は、スッと取り出したハンカチを目に当てる。几帳面なカルタック教授らしくばっちりアイロン掛けしてある。
 笑ってるゴールド君は可愛いえくぼを作って『大袈裟だなぁ』と照れている。

「それでは早速、古代魔法陣の改良をお願いします。
 この魔法陣は土や氷で武器を瞬時に作り出し、遠くまで飛ばすことが出来る魔法陣ですが、このままでは130以上の魔力量が必要です。

 武器を作り出す部分を消して、手持ちの武器を飛ばすことが出来れば、魔力量が節約できます。
 そして工夫すれば、ドラゴンにも届くのでないかと思うのですがどうでしょう?」

羨ましそうにゴールド君とカルタック教授を見ていたマキアート教授の前に、教授が大好きな古代魔法陣を書いた紙を差し出して質問する。

「おう、新しい魔法陣か。どれどれ……ん? これは見たことがない記号が使われている。カルタック教授、この記号を見たことがあるかね?」

「いえ、私も初めて見ました。アコル君、この記号が書かれた魔法陣が他にもあるだろうか?」

2人は瞳をキラキラさせ、魔法陣を食い入るように見て、星のような形をした記号を指さし俺に質問してきた。

「う~ん、ちょっと待ってください。自分の部屋に戻って探してみます」

 2人の前で【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を開くわけにはいかないので、俺は自分の部屋に戻って確認してくることにした。


 自室で魔術書を開いてみると、いくつか星のような形の記号を見付けた。
 どうやら土や水適性を使って武器となるモノを作り出し、攻撃する魔方陣に使われているようだ。

 これまで魔術書に描かれている魔法陣を頭の中に描き、詠唱して魔法を発動させるだけだった俺は、じっくりと記号を確認したことがなかった。

 これからは魔法陣について、記号も含めてもっと本気で勉強する必要性を痛感した。
 古代魔法陣のみに頼るのではなく、自分のオリジナルの魔法陣を作れるようにしたい。

 研究室に戻った俺は自分の仮説を言って、星型の記号を取り除くとどうなるのか、早速実験することにした。
 空白になったスペースに、槍や矢の記号を書いた魔法陣でも、発動するのかについても調べていこう。

 改良すれば魔力量が80~90くらいでも発動できそうな、使い勝手の良さそうな魔法陣をいくつか提出して、たくさんの学生が使えるようにしたい。
 ただし、改良した場合、元の詠唱の言葉をそのまま使うと、発動しない可能性が高いと思うと付け加えておく。

 さあ、演習場で実験開始だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~

灯乃
ファンタジー
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

処理中です...