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貴族たちの願望

107ー2 戻って来た王都(3)ー2

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 副会頭も驚いて立ち上がり「どこを斬られたんだ?」と言いながら心配そうに俺の肩を掴み確認しようとする。

 モンブラン商会の看板を背負って尽力した俺を襲ったということは、それを指示した者たちは全て、モンブラン商会をも見下し敵にまわす覚悟があるということだ。

「一緒に居た第五王子のリーマス様が、貴重なポーションを使ってくださり、ほぼ傷跡も残らず完治しました。ご安心ください」

「あれを使ったのか?」と、俺が【天の恵み】を作ったことを知っている会頭が、小さな声で確認してきたので、俺は笑って会頭と副会頭の顔を見て頷いた。

「一緒に居たマギ公爵家の子息も襲われたので、折角ですから犯人を捕らえ黒幕も一網打尽にしておきました。

 まあ、救済活動に来て斬られた俺は平民だったので、ケガの補償金は金貨1枚で充分だし、勝手に領民を救済したうちの店の損失など、補填する必要はないと、サナへ侯爵の側近は高学院の執行部役員の前で断言しました。

 サナへ侯爵も充分だろうと同意し、平民のケガの補償に金貨1枚を自分で出すと、満足そうに言われましたね」

俺は怒るわけでもなく、淡々と事情を説明する。

 会頭と副会頭と支店長の顔を見ると、まるで鬼のような形相になっていたので、俺は慌ててお茶セットをマジックバッグから取り出し、ハーブティーを淹れていく。
 俺が平気そうにしているので、会頭たちは激怒するのを止め、注がれたお茶を飲むためカップを手にした。
 
「で、損失分も受け取らず、アコル、お前は何をやらかす気だ?」

売られた喧嘩は買う主義だと知っている会頭が、探るような視線を向けて問う。

「やらかすって……嫌だなあ会頭。私は何も特別なことはしませんよ。フフ、私個人ではね」
 
俺は今日一番のいい笑みを浮かべ、とても不安そうな顔をしている会頭と副会頭に、母さんが焼いたクッキーを追加で出して、どうぞと勧める。

 結局サナヘ侯爵には、モンブラン商会の傘下である【薬種 命の輝き】が出した損失を、補填する必要はないと丁寧にお断りすることが決定した。
 支店長は会頭の書いた正式文章を持って、サナヘ支店へと戻っていった。



 サナへ侯爵関連の話が終わったので、俺の店の護衛の話をしていく。
 さすがに伯爵令嬢が個人経営の店で働くのは外聞が悪いけど、俺の店は大商団扱いになっているから、シフォンさんも了解するだろうと言ってくれた。

「それから、アコルの望み通り、モンブラン商会全店でポーションを取り扱うことが決定した。
 大商団に相応しい規模に、取引を拡大しなさい。
 特殊なポーションは扱えないから、せめて売値が金貨1枚から5枚程度のモノを用意するように」

年末にお願いしていた事業拡大について、会頭がオッケイを出してくれた。
 これでなんとか、大商団としての形を整えることが出来そうだ。


 そして午後、俺は久し振りにシフォンさん会った。

「あら、楽しそうじゃない。
 魔獣の数が増えて護衛の仕事も危なくなったから、父に冒険者を辞めるように言われていたの。
 王宮にも出入りしているお店だし、父も反対しないと思うわ。
 
 でもアコル君、よく考えたらお母様は元Aランク冒険者よ。
 だから私は、護衛というより腐った貴族よけとして頑張ることにするわ」

笑顔が眩しい美人のシフォンさんは、ノリノリでうちの店で働くことを了承してくれた。


 ◇ ◇ ◇ 

 夕食時間、初めて王都見学をしたエデリアちゃんとミゲール君の楽しそうな話を聞いて、新しく買ったベッドや服などを見せて貰った。
 メイリが張り切って世話をしたみたいで、すっかり仲良くなっていて安心する。

「母さん、どうやら厄介な親族がうろつき始めたみたいなんだけど、直接何か言ってきた?」

妹弟が自分の部屋のベッドに向かったので、俺は母さんに切り出した。

「いいえ、まだ接触してこないわ」と、母さんは一瞬で顔を曇らせた。

「明日から店の護衛兼従業員として、伯爵令嬢のシフォンさんが来てくれることになった。
 シフォンさんは、これまでモンブラン商会の護衛をしていた冒険者で魔術師なんだ。

 とっても気さくで美人だよ。身分で人を見下さないから安心して。
 普通の貴族令嬢とは度胸が違うから、下級貴族程度では相手にもならないと思うよ」

俺は母さんを緊張させないよう、笑顔でシフォンさんのことを話していった。
 すると母さんは、これまで話したがらなかった厄介な実家のことを、ぽつりぽつりと話してくれた。

 準男爵家の令嬢といっても、親は教育にお金をかけてくれなかったから、中級学校も高学院も奨学生だったそうで、高学院の寮費はバイトして賄っていたそうだ。

 それなのに、学校に行かせてやった恩を返せと言われ、30歳も年上の男爵の側室に金貨50枚で売られそうになったしい。
 俺は無理矢理結婚させられそうになったのが嫌で、家から逃げたのだと思っていたけど、売られる話だったとはびっくりだ。

 ……信じられない。それが貴族の普通なら、俺は絶対に貴族にはなりたくない。

 ……そんな親や兄に、返すべき恩なんてない! もしも俺の家族に何かしたら、冷静ではいられないし、手加減なんて出来そうもない。

「きっと兄は今でも私を恨んでいるはず・・・あの粗暴な性格では、爵位を維持するのは難しいでしょう。
 アコルも知ってる高学院で薬学を教えているラベンダーさんに、実家のことを調べて貰ったの。

 3人の子供は王立高学院に入学できず、魔力量も低いみたいね。
 だから、お金で爵位を何とかしようと考えるはず。お金で縁が切れるなら、払ってもいいと思ってるわ」

どうやら母さんなりに実家のことを調べていたようで、現状は厳しいだろうと目を瞑り、頭が痛いのかこめかみを抑えた。

「母さん、それはダメだ! お金を渡したら死ぬまでまとわりつかれる。
 むしろ養育費を払ってもらえなかった分を、請求するくらいの気持ちでいなきゃ」

 価値観の違いとか身分の違い以前の問題で、俺には母さんの実家の考え方が理解できないし、賛同できる部分なんて欠片もないから、二度と近寄ってこないようにしたい。

 メイリやエデリアちゃんやミゲール君の身の安全を考えたら、腐っても貴族という人種を力でねじ伏せたくなる。

 ……こんな時に父さんが居てくれたらって思うようじゃあダメだな。ダメなのは俺の方か……しっかりしろ!

 そして翌日、俺の留守中に招かれざる親族だと名乗る男がやって来る。
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