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貴族たちの願望

105ー2 戻って来た王都(1)ー2

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 次は右隣の建物の店に挨拶に行く。
 隣の建物は2階建てで、1階は仕立て屋で2階は作業場になっている。

 ここの店は100年以上続いている老舗で、貴族用の高級服ではなく、小金持ちな庶民が結婚式や祝い事の時に着る服だとか、中級学校の制服などを仕立てている。
 お針子さんは5人くらいで、みんな明るくて親切な人たちらしい。

 ここでもボア肉の威力は絶大で、念のために8等分に切っておいたので、お針子さんたちも大喜びで受け取って、何かあったら協力すると言ってもらった。

 60歳くらいの店主から少し話があると言われたので、母さんとメイリには、エデリアちゃんとミゲール君を連れて先に王都見学に出掛けてもらった。
 ちなみに今日うちの店は、臨時休業にしてある。


「一昨日、【薬種 命の輝き】のことを根掘り葉掘り聞き出そうとする、貴族家の使用人のような怪しい60歳くらいの男が来たぞ。

 もちろん何も教えなかったが、気を付けた方がいい。
 年末くらいから下級貴族や見掛けない商人らしき者がうろついている」

白い顎ひげを撫でながら店主はそう言うと、最近の下級地区の様子や噂話をいろいろと教えてくれた。

 さすが老舗の店主だけあって情報量が多し、観察眼も鋭い。
 下級地区の商業ギルド支部の様子や、最近の物価のことまで情報を頂いた。

「とても参考になる話をありがとうございます。そして、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 下級地区の商店は7つのエリアに分かれているとか、それぞれのエリアには代表者が居て【顔役】と呼ばれているとか、モンブラン商会の支店時代に学んではいたけど、改めて学ぶことが出来て幸運だった。

「まあ、そんなに心配するな。【王立高学院特別部隊】は王都民から支持されているし、何かあったら助けてくれると思っている。
 だから【王立高学院特別部隊】を支援している【薬種 命の輝き】は、王都の商人から好意的に思われている。

 それにモンブラン商会の傘下の店と分かっていて、喧嘩を仕掛ける者はおらん。
 しかもお前さん、商業ギルドの支部ではなく本部に出入りしとるじゃろう。 

 年末に【王立高学院特別部隊】の代表としてギルド本部に乗り込み、ギルド長を使って支援用の物資を集めたことを、下級地区の【顔役】は全員知っている。
 わしもその顔役の一人じゃ。まさか店主が学生だとは誰も思ってなかったがな」

にっこり笑った店主はこのエリアの顔役で、知らない間にうちの店の店主が俺だってバレていた。

 そして追加情報として、うちの店に関する情報は決して漏らすなと、このエリアの店に指示してあると教えてくれた。
 なんて有難いことだろう。感謝感謝である。

 俺はもう一度お礼を言って、寒さが堪えると腰を擦っている店主に、お礼も兼ねてスノーウルフのベストを渡した。
 買った物は受け取れないと言う店主に、俺はAランクの冒険者登録証を見せて、冒険者であることを教えた。

「私の本業は商人ですが、バイトで冒険者もしています。ボアもスノーウルフも仲間と倒しました。
 買った物ではありません。これからもお世話になると思いますので、どうか受け取ってください」

「商学部の学生がバイトで冒険者をしとるじゃと?
 王立高学院に首席合格するだけでも規格外だと思っとったが・・・分かった。頂いておこう」

 俺は店主と笑顔で握手して、自分の留守中に母さんや妹弟に何かあったら、どうか助けて欲しいとお願いして隣の店を出た。


 昼食は家族みんなで中央広場の屋台巡りをした。

 俺は母さんとメイリに、午後からエデリアちゃんとミゲール君のために、ベッドや服や靴など必要な物を買って欲しいとお願いし、自分は金策を兼ねて商業ギルドと冒険者ギルドに行くことにした。



◇◇ 商業ギルド本部 ◇◇

「遅くなりました。これ、お二人にお土産です」と、勝手知ったるギルマスの執務室に突入し、俺はマジックバッグの中から笑顔でボア肉のブロックを二つ取り出した。

「お土産って、救済活動に行ってたんと違うんかいな」

サブギルマスが呆れたように言いながら、早速肉を査定し始める。

「仲間と一緒にセイロン山で狩りをした余りです。もしかして要りませんでしたか?」とわざと問うと、サブギルマスにぎろりと睨まれた。

「こんな高級肉、要るに決まっとるやろ」と言って、あっという間にマジックバッグに収納された。

「今朝、王都の南にあるミルクナの町の商業ギルド職員から報告が届いた。
 それによると、スノーウルフの脅威から町を救った王立高学院特別部隊は、ミルクナの住民からとても感謝されてるようだ。
 で、サナへ領からの報告はまだだが、商品は売れたのか?」

「はいギルマス。金貨100枚分だけ売れました」

俺はちょっと渋い顔をして、読み通り王様もサナへ侯爵も支援物資を用意していなかったことから話し始めた。

 王様が用意した支援金は金貨100枚で、サナヘ侯爵が払ったのもきっちり同額だったと、俺は薄笑いしながら教える。
 そして【薬種 命の輝き】として行った支援活動と、【王立高学院特別部隊】が行った救済活動内容を簡単に説明した。

「あれだけ損をするなと言っておいたのに、日当まで出して補填されなかったとは、商業ギルドマスターとして褒める訳にもいかん」

ギルマスは呆れた表情で俺を見て、同情しながらダメ出しをする。
 でもまあ、支援活動はよく頑張ったと一応褒めてくれた。

「サナへ侯爵からお金が回収できそうになかったんで、モカの町の薬草園から数種類の薬草を採取させていただきました。

 俺なりに調べて自分の手持ちの薬草と合わせ、ポーションを作ってみました。
 これで損失分を補填したいなーって思って持ってきました」

俺はいい笑顔で、大瓶のポーションをマジックバッグから取り出しテーブルの上に置き、鑑定をお願いしますと頼んだ。

「なんだと! ポーションをまた作った?」とサブギルマスが叫ぶ。

「これ原液なんで、効果があれば薄めて販売しようかと・・・金貨50枚くらいになれば損失は補填できます」

 俺の出したポーションの大瓶を食い入るように見て、二人はゴクリと唾を飲んだ。
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