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貴族たちの願望

101ー2 交錯する思惑 レイム公爵領(2)ー2

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 結局【妖精王様の加護持ち】という意味が分からないまま、次の日の朝、俺は父と一緒に王宮に向かった。王宮内に入るのは初めてだ。

 大きな通用門を過ぎると、前方に噴水が見えてきた。
 噴水を囲むように作られている花壇には、冬だというのに白く小さな可愛い花と、まるで花かと勘違いする鮮やかな紫色の葉が美しく植えられていた。
 
 レイム公爵の執務室は財務部の3階で、大臣室と書かれた部屋の隣で、俺は面会の順番が来るのを緊張しながら待っていた。
 面会希望の書状には、俺が妖精と契約した件と、アコルに関することについて書いたと父は言っていた。アコルに関することって何だろう?

「お待たせしました」と大臣秘書が待機室に入ってきた。
 俺は背筋を伸ばし、父の後ろに続いて大臣室に入っていく。

「ドレナス伯爵、子息が妖精と契約したと言うのは本当か?」と、我々の挨拶よりも先に、レイム公爵が椅子から立ち上がり声を掛けてきた。

「はい、ようやく念願がかないました。息子のボンテンクです」

「面会いただきありがとうございます。王立高学院魔法部3年のボンテンクです」

俺はきちんと礼をとって、頭を下げたまま挨拶をする。

「魔法部? もしかして君はアコルを知っているかな?」

「はい公爵様。昨日アコル君と一緒に、サナへ領の救済活動から戻ってきました。
 私は執行部にもマキアート教授の研究室にも所属しているので、学年は違いますが良く知っている方だと思います」

俺はまだ顔を少し伏せ気味のまま、レイム公爵の問いに答えていく。

「そうか、救済活動の報告はまだ何処の部署からも上がってきてない。詳しく聞きたい。座りなさい」

レイム公爵はなんだか嬉しそうに、俺と父に座るよう指示を出した。


 俺は冒頭、デミル領の救済について情報が入っているか訊いてみた。
 尋ねられてもいないことを、格下の者が質問するのは礼儀に反するが、デミル公爵から救済活動費の請求が上がる前に伝えた方がいいだろうと判断し、無礼を承知で訊いてみた。

「何故そんな質問をする?」と、レイム公爵は一瞬眉を寄せた。

「はい、今回の救済活動で、私はお金についての重要性を学びました。
 救済活動をするには大きな資金と事前準備がなければ、被災地に行っても何も出来ないのだと、【王立高学院特別部隊】を率いるアコル君から教わりました。

 サナへ領へ向かう途中、アコル君が心配していたことが的中し、デミル公爵様は、軍の大隊と魔法師を連れて救済に向かわれましたが、被災者を救済せず、国境や町を封鎖しました」

「はあ?」と、レイム公爵は目を細め眉を寄せた。

「持ちだした食料は全て兵士の食料となり、ドラゴンに家を焼かれて住む家を失くした者や、魔獣に襲われケガをした被災者は、セイロン山の麓の村に隔離され見捨てられました」

「な、なんだと! 被災者を救済に行って見捨てただと!」

信じられないと言うより、やりやがったなデミル公爵!て心の声が、俺には聞こえた気がした。

 サナへ領の救済の話の前に、俺はモカの町の領主が偶然デミル領の被災地に居たことや、町を閉鎖されたことによって領主不在になったモカの町が、どれ程混乱したのかも含めて話していった。

 話の途中、アコル君はこう言っていましたと随所にアコルを登場させ、アコルのことをもっと知ってもらおうと話し方を工夫した。

 どうやらレイム公爵は、アコルをとても気に入っているようで、壊滅寸前のミルクナの町を救ったSランク冒険者としての活躍シーンでは、身を乗り出して聞き入っていた。

 でも、話がアコルが副役場長と住民管理部長の手下に襲撃されたシーンでは、顔が不機嫌を通り越して威圧が漏れ出して息苦しくなった。
 父からの指示で、サナへ侯爵の側近が関わっていたことは伏せておいた。

 もちろん、エクレアちゃんがアコルをレイム公爵家の後継候補だと言ったことは言わない。
 どうやって決着をつけたのかも、俺の口から申し上げることは出来ないと意味深に口を濁し、トーマス王子かルフナ王子に訊いて欲しいと頼んだ。


 サナへ領の救済活動の話がひと段落したところで、父が思い掛けない話を始め、俺は顔をしかめてグッと唇を咬んだ。

「私の父から聞いた話ですが、先代のお手付きとなった女性を、実家に戻すよう大奥様に勧めたのは……私の父でした。

 女児を産んだその女性は産後間もなく亡くなり、赤子を里子に出したのも父の指示だと思います。
 里子に出された先が何処なのかは知らないと言っていました。

 14年前に父が突然病で倒れて、レイム領の財務の仕事を引継いだ私は、何も考えず……約束通り里子に出された女児の養育費を打ち切りました。
 もしかしたら、そのせいで、そのせいで・・・」

思い詰めたように話し始めた父は、突然土下座して「申し訳ありませんでした」と、頭を床に着くほど下げ深く陳謝した。

 その時の俺のショックは・・・言葉では言い表せない。

 ……祖父と父のせいで、アコルは捨て子になったというのか?

「頭を上げろドレナス。そうじゃない。其方のせいではない。
 養育費の打ち切りを告げに使いが行った時、既に先代の子は、アコルを産んで亡くなっていた。養父母はそれを知らせず養育費を取り続けていた。

 虚偽報告を知られた後も、生まれた子の養育費を請求し、家令のギヨルが屋敷内の予算から仕送りを続けていたようだ。
 しかし養父母は、乳飲み子だったアコルを施設の前に捨て、またしても養育費を搾取していた。そして現在行方不明だ」

憎しみを込めた表情で、レイム公爵は真実を教えてくれた。

「あの、何故その時の子供がアコル君だと分かったのでしょうか?」と、つい疑問が口をついて出てしまった。

「それは学院長が、妖精と契約し、魔力量の多い捨て子だった学生が居るので、調べて欲しいと言ってきたからだ。先にサナへ領を調べたようだが」

 成る程、妖精と契約出来る者は、ほんの少し前までレイム公爵家の血族か、サナへ侯爵家の血族しか居ないと思われていたからな。

「ところで其の方、何故アコルがレイム公爵家の者だと知っている」と、レイム公爵が俺を睨み付けた。

 しまった!と思ったがもう遅い。でもこれは、父がやらかしたことだから俺の責任じゃない……気がする。

『それは、アコル様の契約妖精エクレア様が、執行部のみんなに教えたからだよ。
 エクレア様は、アコル様を金貨1枚で喜ぶ平民ごときとサナへ侯爵の側近にバカにされ、それを当然のように受け入れたサナへ侯爵とトーマス王子に、レイム公爵家の後継候補だと知っていて、その態度はどういうことかと問い質したからだな』

突然姿を現した俺の相棒であるライム君が、えへんと威張った顔をして真相をレイム公爵に暴露した。

「どうやらまだ聞いていない話があるようだなボンテンク?」と、レイム公爵に変なスイッチが入ってしまった。
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