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商人魔王

97ー1 商人ですが何か?(4)ー1

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 俺とトゥーリス先輩は、会議室内に居た全員を連れて、役場前で炊き出しを食べている被災者たちの前に移動していく。
 そこで目にしたのは、ケガから回復した役場長が、被災者と町民に向かって謝罪とお願いをしている姿だった。

「本来なら役場長である私が先頭に立ち、救済しなければならなかったが、救済するぞと指示を出した途端、役場の金を使い込んでいた副役場長が、手下に命じて私を殺そうとした。
 
 その直後、副役場長と住民管理部長の命令で、役場の者は救済活動を禁じられてしまった。
 もしも役場の金を銅貨1枚でも使ったら解雇すると脅したようだ。本当に申し訳なかった」

役人のソムラさんに腕を支えられながら、役場長は西地区の被災者たちに深く頭を下げ、今夜から自分の屋敷に泊まって欲しいと涙を流しながら言っている。

「本当にすまなかった。副役場長の命令に逆らってでも、俺たち役場長派は救済するべきだった。
 みんな頼む! ジャガイモ1個でもいい、穴が開いた古着でもいい、何か1つでいいから西地区の人たちと、ココア村の人たちの為に寄付してくれ。

 俺たちの仲間が、可哀相な子供たちが困っている!
 今日から役場の人間は、心を入れ替えて救済活動をする。だから・・・だから頼む。助けてくれ」

ソムラさんも泣きながら、何でもいいから支援して欲しいと土下座する。

 支えられていた役場長も、集まっていた多くの住民に向かって土下座し「支援を頼む」とお願いする。

 そこに、「ご主人様、寝ていなければ死んでしまいます」と言って、役場長の家で働いている男性が駆け寄っていく。


「私は無罪だ!役場長の虚言だ!」と真っ赤な顔で怒鳴る住民管理部長。

「これは何の真似だ役場長! コイツらか犯人は! 公爵家の子息を襲撃するとは許せん!」と叫びながら、直ぐに斬り捨てろと副役場長が警備隊員に命令する。

 すると、高学院の学生たちが犯人を庇うようにサッと立ちはだかる。

「見苦しいぞ副役場長! 犯人は既に自供している!」と、トゥーリス先輩が出てきて一喝する。

 証拠隠滅を狙う副役場長を、高学院の学生たちが取り囲み捕縛していく。
 その様子を見た住民管理部長が、サナへ侯爵の側近に向かって走り寄り、助けを求めるように腕を掴もうとして振り払われた。

 その様子を冷ややかな目で見ていたエイト君が「逃げられると思うなよ」と囁き、副役場長同様に住民管理部長とサナへ侯爵の側近を役場の中に連行する。


「今日までありがとうございました。毛皮はお返しします」

5歳くらいの女の子を連れていた母親が、自分と娘が着ていたスノーウルフの毛皮を脱いで、震えながらシルクーネ先輩に差し出す。

「お金は働いて必ず返します。お願いです。この毛布を、この毛布を売ってください。この子がメリンダが凍えて死んでしまいます」

泣きながら必死で頼んいるのは、赤ん坊を抱いた若い母親だ。

「もうご飯食べられない?」

「ミゲール、早く毛皮を脱ぎなさい。
 高価な毛皮を銅貨1枚で貸してくださった【薬種 命の輝き】の店主様は、私たちを助けたから襲われたのよ。
 大丈夫……天国でお父さんとお母さんが待ってるわ」

エデリアちゃんは「ごめんねミゲール」と言って泣きながら弟を抱きしめた。

「なんて可愛そうなの! 副役場長は危険だから西地区に行くなと立ち入り禁止にしたけど、こんな小さな子供を見捨てようとしたのね。許せないわ!」

大勢の住民の輪の中から、あまり裕福ではなさそうな中年女性が出てきて「私の家にいらっしゃい。贅沢は出来ないけど毛布はあるわよ」と、泣きながら姉弟を抱きしめる。

「少しだけど毛布代を出すわ」と、同じように小さな子供を連れた女性が、赤ん坊を抱いている女性にお金を渡す。

 それを見ていた住民たちが、次々に親子の前に銅貨を置いていく。
 置きながら、領主であるシラミド男爵とサナへ侯爵にチラリと冷たい視線を向けていく。

 住民たちは、サナへ侯爵が救済活動に来たことを知っていた。
 そして、この町の領主であるシラミド男爵が帰ってきたことも知っていた。

 慌てたのはシラミド男爵だ。

「待ってくれ! これからは私が責任を持って救済する。
 西地区で支援してくれていたモンブラン商会の商品はサナへ侯爵様と私が買い取る。
 すまないが店主は何処だろう? 役場長も立ってくれ。

 私は、デミル公爵とは違う! 住民を見捨てたりしない。
 だから安心してくれ。すまない……私が……私が不在だったばかりに……皆も、出来るだけ協力して欲しい」

シラミド男爵は、西地区の被災者と住民に向かって頭を下げ、役場長を立たせながら謝罪とお願いをする。
 貴族であり領主様である男爵が深く頭を下げるなんてと、住民はとても驚いた顔をする。

 そして、そうだ、うちの領主様は優しいお方だったと思い出し、「私は野菜を!」「私は古着を!」「俺は部屋を!」と、住民たちは声を上げていく。

 俺はトゥーリス先輩の顔を見て頷き、他の執行部役員も嬉しそうに頷き合う。

 俺たち【王立高学院特別部隊】の、一番望んだ姿がこれだ。
 他人事ではなく、皆が自分のことだと考え協力する。そして、それを領主や役人が先導する。

「さあ、帰る支度をしましょう。皆さん、荷物を取ってきてください」と、ノエル様が号令をかける。

「では執行部は全員、会議室に向かいましょうか」と、トゥーリス先輩が笑顔で声を掛ける。

「被災者の皆さん、必ず生活が守られるよう話し合ってきますね」とシルクーネ先輩が笑顔で言って、スノーウルフの毛皮と毛布を再び被災者に手渡す。

 役場長とソムラさんは立ち上がり「ありがとう皆」と再び頭を下げて、役場の中に入っていく。
 見ていた住民たちは安堵の息を吐き、皆にも声を掛け支援物資を集めると言いながら去っていった。
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