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商人魔王

93ー1 モカの町(7)ー1

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 翌朝は薄っすらと雪が積もっていたけど、道は馬車が走れないほどではない。

 予定の時間より仲間の到着が遅れていたので、土魔法が得意な俺とラリエス君は、地下室造りで大量に掘り出された土を使って、5人くらいが座れる土の椅子付きかまくらを3基と、4、5人が寝ることが可能な広さのかまくらを7基作る準備をする。

 これで、小型の荷馬車に寝ていた女性や子供たちの寝る場所を確保する。

 かまくらの中は、地面から30センチくらいの高さに板を敷けるよう土台を作っておく。
 板を敷けば靴を脱いで上がれるし服も汚れないうえ、体の冷えが違う。

 本当は建物のようにしようと思っていたけど、小さい方が暖を取りやすく、プライバシーも守れる。
 住む家が用意されるまでの簡易的なものだから、キッチンはないし煮炊きは外になる。トイレもいくつか必要だろう。

 先日作った土の倉庫みたいな建物にも、同じように板を敷いていく。そして防寒対策として暖炉を作る予定だ。
 これでスノーウルフの変異種の毛皮を回収できる。


 今日の男性陣の仕事は、地下室の仕上げと、かまくら作りに決まった。

 特殊な土に水を入れて練ると柔らかい粘土状になる。それを壁に薄く塗って仕上げると、強度が増し崩れなくなる上に半日で乾く優れモノだ。

 トーマス王子も買い物なら、大いに役に立ってくれると思う。
 もちろん物価を分かっている被災者を同行させる。王子だけで行くと絶対に吹っ掛けられる。

 そして女性陣は、手際よくスノーウルフの肉入りスープを作っていく。

 昨日パン焼き用のカマドを作っていたので、今朝は小麦粉を使ってパンを焼いていく。
 パンといってもふわふわではなく座布団パンだけど、パンの焼ける匂いは幸せな気持ちにさせてくれる。

 もちろんパンも有料で、今朝は美味しいお茶も販売される。
 銅貨2枚(二百円)のスープが買えなくても、パンは2つで銅貨1枚だから、朝食はパンを選ぶ人も多かった。

【王立高学院特別部隊】が到着したので、今日の予定を全員に伝えて、トゥーリス先輩と執行部が中心に仕切っていく。

 一緒にやって来たトーマス王子も、今朝は西地区の活動に参加するようだ。
 早速買い物リストとお金を渡し、力仕事が出来ない被災者に同行してもらう。

 お金について揉めたけど、俺が勝手にやっている救済活動に、トーマス王子やサナへ侯爵のお金を出してもらうことは出来ないと、俺は頑として譲らなかった。

 当然【薬種 命の輝き】宛の領収証を貰うよう念押ししておいた。
 あれこれ考えることはあるけど、いろいろと面倒だから西地区については最後まで【薬種 命の輝き】が面倒を見ることに決めた。

 その方が、何にいくら使ったのかトータルで把握できるし、今後の救済活動をする時の目安にもなる。
 今回の救済活動の決算書を作って纏めれば、いい教材になるかもしれない。

 俺の遣り方を真似る必要もないけど、一緒に頑張っている学生たちの勉強になると思うし、救済活動に必要な経費を考える上で、他領が参考にしてくれたら嬉しい。

 なんだか学生とトーマス王子の間に微妙な距離を感じるけど、それは自業自得と考え、俺は予定通り狩りに出掛けることにした。

 ルフナ王子、ラリエス君、エイト君を連れて、エイト君の家の馬車に乗せて貰って登山口付近まで行ってみる。
 雪も降ったし魔獣の大半は冬眠しているので、獣や魔獣に出会えるとは限らないけど、肉と毛皮が必要なのは確かなので、出会えますようにと祈る。



 ◇◇ モンブラン商会移動販売店担当 ラノーブ ◇◇

 今朝は一段と寒いけど、荷馬車は意外とぐっすり眠れたし、朝からガッツリ肉入りスープとパンを食べたので元気だ。

 トゥーリス先輩によると、今日は町の商店が荷車や荷馬車でやって来て、店を出すだろうとのことで、仕事が少しは暇になるかもしれない。
 でもアコルが出掛けに不吉なことを言っていた。

 モンブラン商会の商品の方が安かったら、モカの町の商店が文句を言ったり嫌がらせをしてくるかもしれないと。

 ……いやいや勘弁して欲しい。

 とかなんとか考えていたら、怪しげな風体のゴッツイ男たちが5人、空の荷車を引きながら店に来て開口一番、「荷台の商品を全て買ってやるから安くしろ!」と命令口調で強要してきた。

「すみませんが、うちの店は西地区の被災者の皆さんのために開いた店なので、他の人には売ることはできません」と、俺は一応低姿勢で対応してみた。

「よそ者がモカの町で偉そうに! いいか、俺たちはなぁ、役人様に頼まれて買いに来たんだ。四の五の言わず売ればいいんだよ!」って悪態つかれた。

「あら嫌だわ、この町の役人は、被災者のための物資を横取りするつもりかしら?
 うちで買わなくても町の店で買えばいいじゃない。邪魔だから帰って!」

うちの姉シルクーネが、皆に聞こえるよう大きな声で追い払おうとする。

 ……さすが姉貴、魔法部のエリートだけある。俺とは度胸が違うな。

 姉貴の大声で「あら、どうかしたのシルクーネ」と、直ぐに執行部部長ノエル様が飛んできた。

 トゥーリス先輩もやって来て「私はサナへ侯爵家の者だが、用があるなら直接来いと役人に言え!」と、怒気の籠った声で追い払おうとしてくれる。

 怪しい奴らは、領主様の家の者だと聞いて「チッ!」と舌打ちして立ち去った。


 昼頃、今度は町の商店主と思われる者が数人荷馬車でやって来て、荷馬車に積んだ商品を売り始めた。

 昼食のために戻ってきた西地区の被災者たちは、新しくやって来た店を興味津々で覗きに行ったが、誰も商品を買おうとせず嫌な顔をして離れていく。
 そして無料の炊き出しスープを食べ始めた。

 何の商品を持ってきたのだろうかと覗いてみたら、アコルが揃えていた商品と同じようなモノばかりが、2割から4割くらい高い値段で売っていた。

 ……これじゃあ誰も買わないよな・・・

 待てど暮らせど買い物に来ない被災者に痺れを切らしたのか、数人がうちの店の様子を見に来た。

「おいおい、なんだこの店は! こんな安く売られちゃあ困るんだが!」と、値段と商品を見て因縁をつけてきた。

「あら嫌だ、文句があるならうちより安く売ればいいんじゃない? 
 うちは困っている被災者の皆さんを思って、出来るだけ安くしているのよ。
 アナタたちは、同じ町の被災者のことを考えているのかしら?」

相変わらず強気の姉貴が、堂々と喧嘩を買って睨み付ける。
 被災者に高く売りつけようとすることが許せないようだ。 
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