140 / 709
魔王の改革
84ー1 サナへ領へ(5)ー1
しおりを挟む
ミレッテさんの大きな声を聞いた、代官でもあるミレッテさんの父親は、一瞬驚いた顔をしたが直ぐに安堵したような喜びの表情に変わった。
「王立高学院特別部隊、荷馬車組を指揮しているアコルです。被害状況を教えてください。
それと、魔法部と特務部の学生が対ドラゴン用の避難地下室を造るので、希望する場所を指定してください」
俺は端的に希望を言って、全員が戦うつもりであることを伝えた。
「それは有難い。歓迎する。俺は冒険者ギルドのギルドマスターをしているラルフだ。
被害という程に大きなものは……今のところ出ていないが、セイロン山の登山口からスノーウルフの群が押し寄せてきている。
先発で町に来た3頭はなんとか撃退したがケガ人も出た。奴らは町を囲む壁を越えてくる」
我々が冒険者であり、噂の王立高学院特別部隊だと知ったギルマスのラルフさんが、状況説明しながら嬉しそうに俺に握手を求めてきた。
俺も笑顔で握手をし、スノーウルフの正確な数を質問した。
「見張り塔から見える範囲で20……厄介なのが一際大きな個体が居る」
「変異種ですね……分かりました。きっとドラゴンに追われて山を下りてきたのでしょう。
冒険者の人数は、ギルド前に集まっている者の他にも居ますか?」
俺はギルド前に集合しているメンバーを見て、頭の中で人員配置を考えながら質問する。
「いや、これで全てだ。避難していく住民の護衛にも数人が向かったし、多くの冒険者は新年を家族と迎えるため故郷に帰ってしまった。
だから、正直なところ絶望的な状況だったんだ」
ギルマスは疲れた顔を俺に向け、それでも変異種が本当に居たら絶望的だがと付け加えた。
のんびりしている時間なんて無いから、俺は直ぐに作戦会議をするため全員を集めて、ドラゴンに襲撃されたわけじゃないことと、これからスノーウルフの変異種を含む群が、この町を襲ってくる可能性があることを教えた。
「……変異種……アコル、雷撃は使えるか?」とボンテンク先輩が訊いてきた。
「使えますけど、あれだと折角のふわふわの毛皮が焼けてしまいます。
変異種なら高さ3メートル以上あるでしょうから、俺の荷馬車に敷くのにちょうどいい大きさだと思います」
「はあ? そこ?」と、ボンテンク先輩と他のメンバーは、呆れた顔で俺を見る。
「忘れたんですか? ひとり金貨1枚って課題を」
「そ、そうだけど、他に変異種を倒せる一般魔法か魔法陣攻撃があるの?」
ミレッテさんが不安気に質問してくる。
「もちろんですよミレッテさん。ですから皆は、変異種以外のスノーウルフをお願いします。
ボンテンク先輩、チェルシーさん、先日教えた電撃魔法は使えますよね?
できるだけスノーウルフの群をばらけないようにして、他のメンバーは水魔法でスノーウルフを水浸しにしてください。
そこを狙って二人は電撃攻撃を仕掛け、弱ったところを一気にとどめを刺しに行きます」
「おう!」と特務部のメンバーは元気よく返事を返したが、ボンテンク先輩とチェルシーさんは顔色が悪い。
「ボンテンク先輩、チェルシーさん、練習で一度は出来たんですから絶対にできます! 妖精と契約するチャンスですよ。
電撃魔法の魔法陣は魔力量が70以上必要ですから、他のメンバーでは無理です。自信を持って!」
ここでメイン攻撃を行う二人が弱気では、作戦は成功しない。だから俺は半分脅して半分激励しながら、やれ!と命令する。
「おいおい、ちょっと待て! 勝手に動くとケガをするぞ。
スノーウルフはCランク冒険者でも討伐が難しい魔獣だ。指揮はギルマスである俺が執る」
勝手に作戦を考えて実行しようとしている俺たちに、ギルマスが慌ててストップをかけた。
他の冒険者や軍の兵も寄って来て、無茶が過ぎるぞと叱る。
まあ、普通ならそうすべきところだろうが、俺たちは【王立高学院特別部隊】だ。魔獣討伐に特化した訓練をしてきている。
訓練期間は短いが、個人に合わせた攻撃魔法を、全員に一つは伝授してある。
魔力量の多い執行部のメンバーには、結構強い攻撃魔法を使えるようにしてある。ただ、実戦で使ったことがないだけだ。
「ギルマス、俺はブラックカード持ちの冒険者です。冒険者も軍も俺の指揮下に入ってください。
俺はこれまで何度か変異種を単独で倒しています」
緊急事態だからしょうがないと諦め、俺はマジックバッグからブラックカードを取り出し、ギルマスとその他の皆さんに見せる。
「ええぇーっ! ブラックカードだと!」とギルマスや他の皆さんが叫ぶ。
「ええぇーっ! アコルってブラックカード持ち?」とゲイルが叫ぶ。
「ええぇーっ! Sランク冒険者だけじゃないのかよ!」と、他の特務部のメンバーも叫んだ。
執行部のメンバーは全員知ってるけど、他の学生はSランク冒険者としての肩書しか知らなかったから、化け物を見るような目で俺を見る。
「ブラックカード……久し振りに見た。単独で変異種を倒せる助っ人が、いや、指揮官が来てくれたなんて……神に感謝だ。
分かった。王都支部のサブギルマスと龍山支部のギルマスの承認だ。間違いないだろう」
俺が差し出したブラックカードをしげしげと見ていたギルマスは、裏書の承認者の名前を確認し、本当に嬉しそうにカードを他の者にも見せて納得させていく。
「王立高学院特別部隊、荷馬車組を指揮しているアコルです。被害状況を教えてください。
それと、魔法部と特務部の学生が対ドラゴン用の避難地下室を造るので、希望する場所を指定してください」
俺は端的に希望を言って、全員が戦うつもりであることを伝えた。
「それは有難い。歓迎する。俺は冒険者ギルドのギルドマスターをしているラルフだ。
被害という程に大きなものは……今のところ出ていないが、セイロン山の登山口からスノーウルフの群が押し寄せてきている。
先発で町に来た3頭はなんとか撃退したがケガ人も出た。奴らは町を囲む壁を越えてくる」
我々が冒険者であり、噂の王立高学院特別部隊だと知ったギルマスのラルフさんが、状況説明しながら嬉しそうに俺に握手を求めてきた。
俺も笑顔で握手をし、スノーウルフの正確な数を質問した。
「見張り塔から見える範囲で20……厄介なのが一際大きな個体が居る」
「変異種ですね……分かりました。きっとドラゴンに追われて山を下りてきたのでしょう。
冒険者の人数は、ギルド前に集まっている者の他にも居ますか?」
俺はギルド前に集合しているメンバーを見て、頭の中で人員配置を考えながら質問する。
「いや、これで全てだ。避難していく住民の護衛にも数人が向かったし、多くの冒険者は新年を家族と迎えるため故郷に帰ってしまった。
だから、正直なところ絶望的な状況だったんだ」
ギルマスは疲れた顔を俺に向け、それでも変異種が本当に居たら絶望的だがと付け加えた。
のんびりしている時間なんて無いから、俺は直ぐに作戦会議をするため全員を集めて、ドラゴンに襲撃されたわけじゃないことと、これからスノーウルフの変異種を含む群が、この町を襲ってくる可能性があることを教えた。
「……変異種……アコル、雷撃は使えるか?」とボンテンク先輩が訊いてきた。
「使えますけど、あれだと折角のふわふわの毛皮が焼けてしまいます。
変異種なら高さ3メートル以上あるでしょうから、俺の荷馬車に敷くのにちょうどいい大きさだと思います」
「はあ? そこ?」と、ボンテンク先輩と他のメンバーは、呆れた顔で俺を見る。
「忘れたんですか? ひとり金貨1枚って課題を」
「そ、そうだけど、他に変異種を倒せる一般魔法か魔法陣攻撃があるの?」
ミレッテさんが不安気に質問してくる。
「もちろんですよミレッテさん。ですから皆は、変異種以外のスノーウルフをお願いします。
ボンテンク先輩、チェルシーさん、先日教えた電撃魔法は使えますよね?
できるだけスノーウルフの群をばらけないようにして、他のメンバーは水魔法でスノーウルフを水浸しにしてください。
そこを狙って二人は電撃攻撃を仕掛け、弱ったところを一気にとどめを刺しに行きます」
「おう!」と特務部のメンバーは元気よく返事を返したが、ボンテンク先輩とチェルシーさんは顔色が悪い。
「ボンテンク先輩、チェルシーさん、練習で一度は出来たんですから絶対にできます! 妖精と契約するチャンスですよ。
電撃魔法の魔法陣は魔力量が70以上必要ですから、他のメンバーでは無理です。自信を持って!」
ここでメイン攻撃を行う二人が弱気では、作戦は成功しない。だから俺は半分脅して半分激励しながら、やれ!と命令する。
「おいおい、ちょっと待て! 勝手に動くとケガをするぞ。
スノーウルフはCランク冒険者でも討伐が難しい魔獣だ。指揮はギルマスである俺が執る」
勝手に作戦を考えて実行しようとしている俺たちに、ギルマスが慌ててストップをかけた。
他の冒険者や軍の兵も寄って来て、無茶が過ぎるぞと叱る。
まあ、普通ならそうすべきところだろうが、俺たちは【王立高学院特別部隊】だ。魔獣討伐に特化した訓練をしてきている。
訓練期間は短いが、個人に合わせた攻撃魔法を、全員に一つは伝授してある。
魔力量の多い執行部のメンバーには、結構強い攻撃魔法を使えるようにしてある。ただ、実戦で使ったことがないだけだ。
「ギルマス、俺はブラックカード持ちの冒険者です。冒険者も軍も俺の指揮下に入ってください。
俺はこれまで何度か変異種を単独で倒しています」
緊急事態だからしょうがないと諦め、俺はマジックバッグからブラックカードを取り出し、ギルマスとその他の皆さんに見せる。
「ええぇーっ! ブラックカードだと!」とギルマスや他の皆さんが叫ぶ。
「ええぇーっ! アコルってブラックカード持ち?」とゲイルが叫ぶ。
「ええぇーっ! Sランク冒険者だけじゃないのかよ!」と、他の特務部のメンバーも叫んだ。
執行部のメンバーは全員知ってるけど、他の学生はSランク冒険者としての肩書しか知らなかったから、化け物を見るような目で俺を見る。
「ブラックカード……久し振りに見た。単独で変異種を倒せる助っ人が、いや、指揮官が来てくれたなんて……神に感謝だ。
分かった。王都支部のサブギルマスと龍山支部のギルマスの承認だ。間違いないだろう」
俺が差し出したブラックカードをしげしげと見ていたギルマスは、裏書の承認者の名前を確認し、本当に嬉しそうにカードを他の者にも見せて納得させていく。
1
お気に入りに追加
312
あなたにおすすめの小説
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる