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魔王の改革

83ー2 サナヘ領へ(4)ー2

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 俺たち荷馬車組、男子10人、女子3人、そして王宮警備隊から応援として駆り出された御者さんが2人の合計15人は、セイロン山の北側の麓に在る、ミレッテさんの故郷を目指して出発した。

 昼食は、街道を外れた場所でバーベキューをする。もちろん、マジックバッグに保存してあった肉を使ってである。
 土魔法を使える者が交替でカマドを作り、皆で薪を拾ってきた。

 可愛い女子が3人入っているだけで、男子は張り切って準備をしてくれる。
 俺はこれから向かうサナへ領で作る炊き出しのスープと同じものを作り、作り方を女子3人に伝授する。

 被災地に辿り着くまでの間に覚えてもらって、なんとか作れるようになってくれたらいいな・・・



 和気あいあいと緊張感のない旅をしていたけど、日暮れが早いセイロン山の麓、魔法部のミレッテさんの故郷が近付いてきたところで、一気に緊張感が高まった。

 セイロン山の近くをドラゴンが飛んでいるのを、目視してしまったのだ。
 そして、町から逃げ出してきたと思われる住民たちとすれ違い始めた。

 急いで逃げている住民に声を掛け話を聞くと、まだ町は襲われてはいないけど、代官の命令で先程俺たちが立ち寄った町まで避難しているところらしい。

 俺は荷馬車を止め、後続の荷馬車のメンバーも集めて今後のことを話し合う。
 ミレッテさんによるとお父さんは準男爵で、これから向かうミルクナの町の代官だった。領主は先程寄った町に住んでいる子爵だそうだ。

「どうしようアコル君、私の故郷が・・・ドラゴンに・・・父さんや母さんは、妹は無事なのかしら・・・」
 
いつも明るく場を盛り上げてくれる、実力派Cランク冒険者でもあるミレッテさんが、声を震わせ故郷に視線を向け涙を浮かべる。

「よしみんな、日頃の訓練の成果を見せる時が来た! ドラゴンに気を付けながら、他の魔獣が居たら討伐するぞ!
 美味しい魔獣なら肉を無駄にしないように! 毛皮が売れそうなら冒険者ギルドに持ち込むぞ!
 これから我々は、王立高学院の学生としてではなく、冒険者として戦う! そして稼ぐぞ!」

恐怖で顔が引きつっている皆に向かって、俺は冒険者として戦うと宣言した。

 恐怖に打ち勝つには、自分は冒険者であると意識させた方がいい。学生気分でいるのは危険だ。

「土魔法が使えるマサルーノ先輩とドーブ先輩(特務部2年)は、二人で町の広場に避難用の地下室を大至急作ってください。
 そして、もしもドラゴンが襲ってきたら迷わず住民と避難してください。

 魔力が足らなくなったら、レーズンくんにお願いして魔力を借りてください。
 スフレさん(商学部・伯爵令嬢)は、もしもケガ人が居たら救護所を作るので、マサルーノ先輩たちと広場で待機してください。

 残りのメンバーは冒険者ギルドに向かいます。
 ボンテンク先輩、チェルシーさん、妖精と契約するチャンスです。ここはガツンと決めてください」

到着してからの仕事の割り振りを伝え、妖精と契約するチャンスだと発破をかけた。

 戦う冒険者の顔になっていく残りのメンバーには、目標金額はひとり頭金貨1枚だ!と檄を飛ばした。
 再び荷馬車に乗り、避難していく住民を避けながらミルクナの町へと急ぐ。



 町の入り口まで来ると、警備隊の制服を着た数人が病人やケガ人などの自力で避難できない人を、荷馬車に乗せているところだった。

「そこの荷馬車、町の中は危険だ! 早く引き返せ!」と警備隊の男性が大声で叫びながら駆け寄ってきた。

「俺たちは全員冒険者です。ドラゴン以外の魔獣は? ドラゴンの襲撃はありましたか?」と、俺は逆に大声で質問する。

「私は代官の娘のミレッテです。父は何処ですか?」

「これは代官のお嬢さん。お帰りなさい……じゃなかった、とにかく危険です。できれば引き返してください!」

警備隊の男性はミレッテさんを知っていたようで、町に入ろうとしている俺たちを止めようとする。

 ……仕方ない、ここはあれを使うか。

「ボンテンク先輩、マサルーノ先輩出番です」と、俺は高学院魔法部の優等生二人に指示を出した。

「我々は全員Cランク以上の冒険者であり、王立高学院の魔法部と特務部の学生だ。B級魔術師の資格も持っている!」

「大至急ドラゴン襲撃に備え、避難用の地下室を造らねばならない! 道を開けろ!」

 ボンテンク先輩とマサルーノ先輩が、B級魔術師の資格証と冒険者証を見せながら、道を塞いでいた警備隊員に道を開けろと叫んだ。

「分かりました。ご武運をお祈りします。どうか住民を助けてください」

警備隊の男性は、こちらの目的と緊急性を理解してくれたようで、直ぐに道を開けてくれた。


 町と言っても村に近いミルクナの人口は約2,000人。主要産業は鉄鉱石の採掘と冒険者が狩った獣や魔獣の毛皮の加工品くらいだった。
 町の周りには高さ5メートルくらいの壁が造られ、魔獣の侵入を防いでいた。

 来る途中でミレッテさんに描いてもらったミルクナの町の簡易地図を見ると、出入り口は3箇所で頑丈な観音開きの扉が設置されている。

 この町の壁を越えられる魔獣は限られる。サナへ領を襲った魔獣の中にレッドウルフが居たらしいから、町の中に侵入している魔獣が居るとしたらウルフ系だろう。

 混乱している町中まちなかを進むと、町の中心に大きな噴水が見えてきた。
 噴水を囲むように円形の広場があり、その周りに役場や冒険者ギルドや商店が立ち並んでいた。

 冒険者ギルドと思われる建物の前には、数人の冒険者らしき屈強な男たちと警備隊員と軍服を着た兵士が集まり、武器を片手に話し合いをしていた。
 こんな時に町の中に入ってきた大型の荷馬車と、小型の荷馬車2台は非常に目立っていた。

「どこの荷馬車だ! ここは危険だ、直ぐに引き返せ!」と、冒険者ギルド前の集団の中から一人の男が進み出て、俺たちに命令する。

「あっ、父さん!」とミレッテさんは嬉しそうな声を出し、荷馬車から飛び出していく。
 どうやらミレッテさんのお父さんは無事だったみたいだ。

「父さん、この荷馬車には王立高学院の仲間が乗っているの。
 全員がCランク以上の冒険者でB級魔術師もいるわ。代表者であるアコル君に状況を説明して!」

ミレッテさんは父親に向かって大きな声ではっきりと、自分たちは応援に駆けつけてきたのだと言った。
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