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魔王の改革

74ー1 魔王の実力(2)ー1

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 現在、演習場にはドラゴンを模した的が二対立っている。
 競技開始位置に立ったデントール教授は、新しい的を見てニヤリと笑い、ヨーグル先生が吹く笛を待っている。

 その表情を見れば、自信満々といったところだろう。
 実際の話、目の前のドラゴンの的を魔獣だと思うから惑わされるが、普通に岩の塊だと考えれば、それを破壊するのは作業魔法師の得意とするところだ。

「岩を砕け、我が道を塞ぐ障害を排除する。魔力を70注いで中心を破壊せよ。デントール魔法式21発動!」

開始の笛が鳴り、デントール教授は魔法師らしく魔石のついた杖を使い、高らかに魔法式を詠唱する。

 的であるドラゴンの下に、銀色に輝く魔法陣が浮かび上がり、スッと上へと移動していく。
 魔法陣が的であるドラゴンの高さを抜いたところで、ドン! と大きな音がして、的であるドラゴンが中心から大きく5つくらいに分かれて崩れ落ちた。

「ワーッ!」と歓声が上がり、デントール教授は当たり前だという顔をして振り返り、審判が競技終了の旗を上げていることを確認した。

 そうなんだよな。この魔法式は本物の魔獣には使えないけど、岩なら問題なく使える。これまで考案された魔法陣の術式は、その殆どが生物を対象にしていない。

 公共事業などの作業をする場合は、魔法陣の発動に時間をかけても問題がなかったので、デントール教授の感覚からしたら、自分の考案した術式の中でも最も早く岩を砕くことができる魔法陣だったのだろう。

「見事であったデントール教授。
 しかし、発動までの時間は15秒。的が破壊されるまでの時間は11秒だった。

 開始の笛から旗が上がるまでに要した時間は、合計26秒。これが魔物であれば既に教授は死んでいる。それに、生き物である魔獣であれば、その術式は使えない。

 競技としては問題ないが、魔獣と戦う学生の手本となるものではない。
 どうやらデントール教授は、学生を守ろうと考えてはいないようだ」

学院長は、この魔法陣の決定的な欠点を見抜いていたようで、デントール教授の魔法陣と学生に対する心構えを、壇上から容赦なく切って捨てた。

 どうだ凄いだろうと自信満々だったデントール教授は、学院長の言葉を聞いて納得できないという顔をした。
 しかし学生たちの視線が、尊敬の眼差しから猜疑心に満ちたものへと変化していくのを感じ取ったようで、学院長に向かって反論を始めた。

「それなら違う魔法陣を使い的を破壊すればいい。いや、最初から魔獣を倒せばよかったのだ」

「デントール教授の仰る通りです。これが本物の魔獣であれば、ロックドラゴン以外は火魔法だって風魔法だって有効です。
 しかし岩の的では、破壊するのに風魔法も火魔法も使えない。問題があるとしたら競技者ではなく的の方です」

デントール教授の言い訳に、カルタック教授が助け舟を出した。

「確かにそうだよな」と、学生たちも同意するように頷き合う。

「よかろう、それではアコルが一般魔法(魔法陣を使用しない)で倒せなかった場合は、カルタック教授とデントール教授の言い分を認め、カルタック教授に、他の魔法陣を使用することを認める。

 的を岩ではなく生きている魔獣の変異種と仮定し、制限時間を20秒から25秒に緩和したうえで、最高の魔法陣攻撃を学生たちに見せ、この学院の卒業生の死は、魔法部の教育のせいではないと証明してみせよ」

学院長は自ら譲歩し、次はカルタック教授が競技に参加するよう指示した。

 学生にだって競技のやり直しなど認めないのに、デントール教授に認める訳にはいかないし、岩を砕く魔法陣しか思いつかなかったのであれば、競技前に異議を唱えるべきだった。

 カルタック教授は学院長の提案を承諾し、俺が一般魔法で的を破壊できなかった場合は、自分が本物の魔法陣攻撃を御覧に入れますと胸を張った。

「学院長、先程ハイサ教授が倒せなかった的を使用してもいいですか?
 念のため強度を確認していただき勿体ないのでそちらを・・・いえハイサ教授の的は、カルタック教授にお譲りしましょう」

新しい的を作るためにマキアート教授と魔法部の学生が動き出すのを見て、俺はカルタック教授を見ながら提案してみる。あんたには、その的がお似合いだと。

「生意気な! 君こそあの的を使用すればいい。万が一にも的が破壊されても、使い古しだったから等と言うことはない」

「そうですか、この場に居る全員が聞いていたので、俺はそれで構いません。
 ああ学院長、俺は冒険者です。あの的を冒険者らしく攻撃するため、開始位置から動くことを認めてください」

 この場に居る大多数は、冒険者の攻撃なんて剣や槍や斧くらいで、多少の魔法攻撃ができるくらいだと考えている。だったらそれらしく戦い勝利すればいい。

「一般魔法を使った攻撃であれば問題ない。
 これからは、的を魔獣の変異種だと想定した競技になる。
 しかし、あれだけの大口を叩いたからには、25秒を超えるような無様な真似は認められない」

学院長は、決して俺の味方をしている訳ではなく、あくまでも公平に審判すると皆に示していく。

 観覧席にいる学生や教師たちは、冒険者らしい戦い方を予想してざわざわし始め、演習場内に残った学生や教授たちも、魔法陣を使わずにあの強固な的を破壊する方法を考えるが、何も方法を思いつかないようだ。

 大多数の者が、俺の攻撃は失敗すると思っているはずだ。
 あのデントール教授でさえ、時間内に破壊できなかったのだ。

 俺は競技開始位置に立ち、開始の合図を静かに待つ。
 俺に期待する僅かな視線と、失敗を期待する多くの視線、そして、ただ成り行きを見守る視線が俺に集中する。

《 ピーッ 》とヨーグル先生が笛を吹いた瞬間、俺は俊足を使って的に走り寄りながら、土魔法を使って50センチくらいの大きさのハンマーを作り出した。

 そして的の手前で高く跳躍しながら振り上げ、「面積10、強度10、加重20」と呟き、空中でハンマーの大きさを10倍の5メートルにし、強度を10倍に上げ、落下しながらその重さを20倍にする。

 いちおう恰好だけはハンマーを振り下ろした感じではあるが、実際はハンマーが勝手に落下していると言う方が正しいだろう。
 とても人間業では手で持って振ることなど不可能だ。
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