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魔王の改革

71ー2 魔王微笑むー2

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 確か今日は【一般魔術師】を目指す学生のための訓練だったと思うんだけど、違ったんだろうか? 俺は学院長から何も聞いてないぞ。

「ああ、すみませんヨーグル先生。【王立高学院特別部隊】は、トーマス王子が中心となってこれから立ち上げる、魔獣討伐と住民救済を行う専門部隊です。
 魔獣の大氾濫に打ち勝つためには、今の軍や魔法省では無理だと、今回のドラゴン襲撃ではっきりしました。

 ぐだぐだ理屈をこねる大人を鍛えるより、魔力量の伸びしろもあり、鍛えれば強くなれる学生を中心に、王都とこの国を守るしか他に方法がないのです。

 もしも明日、王都が、この学院がドラゴンに襲撃されたら、学生の半数は餌になるしかない。
 それを仕方ないことだと考えている軍や魔法省を頼りにするなんて、死ぬのを待つのと同じです。

 ここは王立高学院、平民ごときと俺を馬鹿にする教授や学生こそ、貴族として住民を守る義務があるはずなのに、戦う気概さえない。それが現実です。
 だから俺は、学院長とトーマス王子に、王族は民を守る気があるのかと問いました」

「ちょっと待て! お前、王族に喧嘩を売ったのか?」と、セイガさんは慌てて問い質してくる。

「はあ? そ、そんな恐れ多いことを本当に意見したのか君は!」と、俺は驚いて青くなる。

「はい。それでレイム公爵様に殺されそうになりましたが、どこかの領主の子息が俺に闇討ちを仕掛けてくれたので、じっくりレイム公爵様と話をする機会ができました。

 その結果が、軍の指揮官を連れてのリーダー対決戦の観戦です。
 どうやら王族も、少しは民を救う気になったようです」

 ……信じられない・・・目の前の子供、いや学生はいったい何だ? おかしい。貴族の常識では考えられない。ああ、そう言えばアコル君は平民だった。

【宵闇の狼】の4人も、全員が頭を抱えて絶句している。
 良かった。俺と同じ反応だ。いやいやそこじゃない。なんでアコル君は普通に微笑んでいるんだ? 

 この余裕、この態度、全てが普通じゃない。
 でも、なんでレイム公爵様が、ただの平民と話をされたんだろう?
 完全に不敬や反意だと思われるのに、なんで許されて生きているのだろう?

 ……普通じゃない? うん、普通であるはずがないよな。だったら何だ? 

 セイガさんとの会話も普通じゃないし、学院長が魔法部と特務部の教授を黙らせろと命令したってことは、アコル君がそうできると学院長は思っているってことだ。

「アコル、君は何者だ?」と、気付いたら口から言葉が出ていた。

 アコル君は再びニヤリと微笑むと、「エクレア」って優しく女性の名を呼んだ。
 すると俺の目の前に、七色に輝く羽根を優雅に羽ばたかせ、それはそれは愛らしい妖精が姿を現した。
 
 ……なんて可愛いんだろう。ああ、奇跡だ。生きてて良かった。

『お久し振りです宵闇の狼の皆さん。はじめましてヨーグルさん。あたしはアコルの契約妖精のエクレアです。

 あたしとアコルは、魔獣の大氾濫に立ち向かうため、レイム公爵、学院長、トーマス王子、リーマス王子、ルフナ王子たちと協力して、ドラゴンと戦う準備をしています。
 どうぞ皆さんも、少しでも多くの住民を守りたいというアコルの志に協力してくださいね』

そう言ってエクレア様は、天使のように微笑まれた。

「承知しましたエクレア様。このヨーグル、アコル君と共に少しでも多くの住民を守るため、頑張って学生たちを鍛えます!」

 こんなに可愛い妖精さまのお願いを、断れる冒険者はいない。

 昔から妖精さまは、人間を助けてくださる有り難い存在だと、祖母からよく聞かされていた。
 もしも女の子の妖精さまにお会いできたら、それはもう奇跡であり、間違いなく幸運の始まりだと小さい頃に読んだ絵本に書いてあった。

「たまに居ますよね妖精を拝んだり、跪いて祈る人が・・・ヨーグル先生、俺は妖精と契約しているブラックカード持ちの冒険者です」

「はっ? ブラックカード持ち?」

 訳が分からないと戸惑っている俺に、アコル君はウエストポーチの中から本当にブラックカードを取り出して俺に手渡した。

「コイツは強いぞ、アースドラゴンの変異種を単独で倒せるくらいにはな」

冗談じゃないぜってセイガさんが笑えば、他の3人のメンバーも笑って頷く。

 13歳のブラックカード持ち? 正直信じられないけど、そう考えれば先日の巨大エアーカッターも、学院長の指示も、レイム公爵様に殺されずに生き残っていることにも納得できる。

「それでは、本日の講義の内容についてご説明いたしましょう」と、指導者の顔をした学生が、居並ぶ教授陣を黙らせる作戦の説明を始めた。




「これより【一般魔術師】資格取得に向けた、実践訓練を開始します」

俺は震える足でなんとか壇上に上がり、少し緊張した声で集合した学生や、教授や講師たちの前で宣言した。
 学生たちの様子は、やる気に満ちた顔から、面倒臭い帰りたいという顔の者まで様々だ。魔法部の教授なんて、嫌々参加してる表情を隠そうともしてない。

「学院長の許可は出ているので、今日は魔法部と特務部の教授にも手伝っていただき、学生の皆さんに、これぞ攻撃魔法という手本を見せていただきます。

 我こそはBランク冒険者に近い実力者だと思う学生はこの場に残り、Cランクがお似合いだと思う学生は観覧席で見学するように。

 それでは、魔法部のマキアート教授とデントール教授は、的となる魔獣の作成をお願いします。
 魔法陣対戦のカルタック教授と、特務部のハイサ教授には、学生諸君の手本となる攻撃を披露していただきます。

 それから、魔法部と特務部の教授の中から代表を選んでいただき、今日から学生指導の手伝いでお招きしているAランク冒険者の方々と、攻撃対決をしていただきます。

 我が国最高の教授陣と、冒険者ギルド推薦の冒険者の、華麗なる技の競演を見せていただいた後、この場に残った学生に攻撃魔法の指導をしてもらいます」

最後まで咬まずに大声で、シナリオ通りの台詞を言うことができた。
 壇上から指名した教授たちを見ると、何も聞いていなかったせいか嫌な顔をして、拒否するため俺に近寄ろうとするが、アコルが言っていたように学院長が先手を打った。

「素晴らしいアイデアだ。ここに居る学生たちは、これからこの国の住民と財産を守る、誇り高き戦士となる者たちだ。王様も私も、諸君の活躍を期待している。

 レイム公爵も先日のリーダー対決戦を観覧され、今年の在学生の能力を高く評価された。
 さあ、教授たちよ、この国の希望となる学生たちに、真の強さ、真の魔法攻撃をみせてやってくれ。学生諸君、教授たちに拍手を!」

学院長は壇上に素早く上がると、大袈裟とも思える手振りまでつけて、学生たちに向かって高らかに希望を与える。

 そして指名された教授たちを、絶対に逃がさないよう鉄壁の策で断れないようにした。
 自らも拍手をして、如何にも教授たちを信じているぞという演技で追い込んでいく。

 もう少し温厚だと思っていた学院長・・・アコル同様に容赦なかった。
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