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高学院 1年生

69ー2 クラス対抗戦(4)ー2

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 三回戦は、演習場の中央に高さ5メートル、全長10メートルのドラゴンを模した的を作り、選抜選手5人全員が攻撃してもよく、一人で攻撃することも認められている。

 執行部の顧問として学院の行事に関わっている私は、昨日弟のルフナから、三回戦でアコルから伝授された攻撃魔法を使用すると告げられていた。

「まあ頑張れ」と軽く激励しておいたが、先程の二回戦のアコルの攻撃を見てしまった私は、急に胃が痛くなった。晩秋なのに背中に汗までかいている。

「学院長、実は昨日、ルフナとラリエス君とエイト君の3人が、三回戦でアコルから伝授された攻撃魔法を使用すると言っていました」

三回戦の開始準備が整ったので、私は学生や教師たちからも少し離れた特別席に座り、隣の学院長とレイム公爵に報告する。心の準備は必要だろう。

「はあ? そ、それはどんな攻撃魔法だ?」

「分かりません。でも、あの自信満々なルフナの様子からすると完全にやらかす気です。魔王アコルが、本当に学院改革を始めるようです」

 これまでアコルは、役に立たない軍や魔法省を頼ることなく、高学院の学生を住民を救うしかない……なんて有り得ない話をしていたが、あれは本気だったのだと私も学院長も理解した……というか、突然その片棒を担がされた感じだ。

 昼休みに聞いた話では、本来アコルは二回戦に出場する予定はなかったようなので、ルフナたちを学生強化の起爆剤にするつもりだったのだろう。

「始めてしまったものは仕方ない。どうせ死ぬか戦うかという選択肢しかないのなら、アコルの改革に便乗する方が得策だろう。
 実際、今の軍や魔法省にはドラゴンを倒せる者など居ないのだから」

 あれ? どうしたというんだ? アコルを敵視していたレイム公爵叔父上の言葉とは思えない。
 先日夜通し語り明かした後でも、アコルの素性が分からず王族を攻撃するなら、子供でも容赦しないと言っていたはずなのに。

「あの魔王を野放し・・・いや、学院で好きにさせろと仰るんですか兄上?」

学院長モーマット、確定ではないが、アコルはレイム公爵家の直系血族だ。
 先程の強烈なエアーカッターとその実力を見て、私はレイム公爵家の後継をアコルに任せる決心をした。
 
 あの独特な髪も瞳も、レイム公爵家で代々語り継がれている……特に英雄と呼ばれるような優秀な領主になる男子の特徴だったのだ」

「はあ? 直系血族だったのですか?」と、驚いた学院長が叔父上をマジマジと見る。

「確かにレイム公爵家には男子は居ませんが、本気なのですか叔父上?」

 突然聞いた衝撃の話に、私も学院長も動揺する。

「私がそう考えたのには理由がある。
 レイム公爵家に伝わる魔術書を読んだのだ。

 レイム公爵家には初代レイム公爵が【覇王様】と共に作られた魔術書と、500年前の魔獣氾濫の時に英雄として称えられた公爵が残された魔術書の二冊がある。

 その魔術書のどちらにも書かれていた当時のレイム公爵の考え方や行動と、アコルのそれは非常に似ている。
 時代を作る・・・いや、国を救う者は、みな始めは異端と言われていたようだ」

レイム公爵叔父上がそう言った直後、演習場に大きな声援が響いた。
 皆が注目する視線の先には、ルフナが一人で的に向かって立っていた。

「何故一人なんだ? まさか一人で攻撃して破壊する気なのか?」と、学院長が疑問を口にした瞬間、ルフナは「ドラゴンブレスファイヤー」と大声で唱えた。

 すると、これまでの火魔法の常識では考えられない赤と青の巨大な炎が、ねじれるように的に向かって飛んでいった。

《 ドゴーン!!! 》と大きな音がして、的は粉々に吹き飛んでいた。

「「「 ・・・・・・ 」」」

 なんだあれは!と、声には出さず無言で頭を抱える王族三人・・・
 見たこともない攻撃魔法に、学生たちは立ち上がり「ワーッ!」と大歓声を上げる。


 そして興奮冷めやらぬうちに、また的の前に一人で立つ学生が・・・エイト君だ。

「ドラゴントルネード!」と叫ぶと、風が渦を巻き始め、グルグルと渦巻く速度が速くなり、渦は次第に大きくなっていく。

 その渦はドラゴンを模した的を飲み込むと、空高く昇っていく。
 20メートルくらい上昇したところで渦は消え去り、的であったと思われる土の塊が落下する。

《 ヒューッ ドーン!!! 》と、演習場が揺れる程の衝撃がきた。

「「「 ・・・・・・ 」」」

 こんな攻撃魔法があるなんて聞いたこともない。いったいアコルは、どうやってそれを知ったのだろう? 
 本当にこんな大技を、短期間でルフナたちに習得させたというのだろうか?

 実践的に鍛える・・・それがこの攻撃魔法だというなら、確かにドラゴンや変異種討伐への希望が持てる気がする。
 しかし、突然の変化に教授がついてこれるだろうか?


 興奮に沸き返る三回戦の、最終競技クラスはまたしても1年D組だった。
 再び一人で的に向かって立つのは、真剣な顔をしたラリエス君だ。

 彼は酷い有り様になっている演習場を全く気にする様子もなく、大きく深呼吸をして、両手を斜め下の地面に向かって伸ばした。 
 会場中の全ての観戦者が息を吞み、体はいつでも逃げれるような態勢をとる。

「大地の守護者に魔力ちからを捧げ我は祈る。悪なるモノをとどめよ!そして穿て!」

 ドラゴンを模した的の下に、突然金色と銀色の混ざったような色の魔法陣が浮かび上がった。
 魔法陣が強く光り輝いたと思った瞬間、魔法陣が次第に上昇していく。

 魔法陣の動きを目で追っているうちに、的であるドラゴンの巨体を、無数の土の剣が下から突き刺していた。

《 パラパラ……ズサー 》と、的が崩れていく。

「「「 あれが魔法陣を使った攻撃魔法・・・」」」

「少しはドラゴンと戦う希望が湧いてきましたね」と、私はなんだか取り残されたような気がして、複雑な気持ちになりながら無理矢理笑った。

「アコルやルフナたちがやるのなら、我らは教師を変えていくしかないな」と、学院長は覚悟を決めたようだ。

「面白くなってきたではないか」と、レイム公爵叔父上はどこか楽しそうだ。
 
 いろいろあったクラス対抗戦。終わってみれば凄い成果と収穫を得ていた。 
 しかし私と学院長は、この日を境に、アコルの魔王のような微笑みがもたらす現実を、実はよく分かっていなかったのだと思い知ることになる。
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