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高学院 1年生

61ー1 救済活動のあとー1

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 翌日、俺を含めた医療チームは【天の恵み】を下級レベルに下げたポーションを使い、重傷者の治療を優先して行った。

 貴重なポーションだから使うのは最低限の量にして、化膿や感染を防げるレベルの治療に止めた。それでも治療を受けた患者は、痛みが激減し化膿していた部分の皮膚が改善され、涙を流して感謝していた。

 軽傷者用の塗り薬や湿布は、ポルポル商団の在庫を全て購入してきてもらうよう、戻ってくる予定の薬師や薬師コースの学生にお願いしておいた。

 
 今日は王都に戻った医療チームと一緒に、学院長がやって来た。
 ちょうど重傷・中傷者の治療が終わり、病人や軽傷者の薬の到着を待っていたので、直ぐに買ってきた薬草を皆で確認していく。

「すみませんモスナート教授、セイランド教授、すまないアコル、昨日トーマス王子が王様に、薬草購入資金を出してくれるよう交渉に行ったんだが、残念ながら上手くいかなかった。

 それで、今日購入した薬草はトーマス王子の個人資金で買える範囲になった。
 どうやら王都では薬草の値段が高騰しているらしく、ポルポル商団で購入することになっていた軟膏と湿布の代金は、アコルの信用貸しにしてもらった」

学院長は申し訳なさそうに謝罪すると、薬草購入代金がトーマス王子個人から出ているのだと説明し、希望通りに購入できなかったと言って悔しそうに下を向いた。
 しかも、ポルポル商団の商品の支払いは俺になっている・・・

「そう……ですか。まあ、予想の範囲内です。
 モスナート教授、セイランド教授、これが今の国の現状です。ですから、予定通り国とは別に動かなければ誰も救えなくなります。

 目ざとい商人や貴族は、高騰すると分かっていて薬草を買い占めようとするでしょう。ですから、別ルートで薬草の在庫を確保しましょう」

 俺は朝食の時に、これから起こると予想されることの中に、薬草不足や高騰をあげ、その対処方法として王都の薬種問屋からの購入を避けることを提案していた。

「さすが商学部、いや、モンブラン商会の人間だな。国の対応も、市場の動きもアコルの予想通りだ。
 新しいポーションの開発を急ぐためにも、薬草の確保は最重要課題となる。モンブラン商会に任せる。至急確保してくれ」

「承知しましたセイランド教授。王都以外で薬草を集めます。
 希少な薬草は冒険者ギルドを使いましょう。当面の購入代金は、商業ギルドと冒険者ギルドにポーションを回すことで確保します。
 セージ部長、サブギルマス、よろしくお願いします」

 学院長に挨拶するため集まっていた、モンブラン商会のセージ部長と商業ギルドのサブギルマスに向かって、俺は商人の顔をして仕事を振った。

王族でもある学院長の前で仕事を振られた二人は、顔を引きつらせながらも承知しましたと依頼を受けてくれた。

 ちなみに、昨夜作ったポーションは、エリクサー【神々の涙】を3本、ハイポーション【天の恵み】を5本、中級ポーション【天の恵み】を10本、かなり薄めて作った下級ポーションを40本に分けた。

【神々の涙】は、3本の内1本を俺が保管し、1本は高学院の為にリーマス王子に預け、残った1本は商業ギルドが金貨100枚で買い取ることになった。

 ハイポーション【天の恵み】は、2本を俺が保管し、1本は高学院のセイランド教授が保管する。残りの2本は、商業ギルドと冒険者ギルドに1本ずつ売る予定だ。 
 
 中級ポーション(これまで伝えられていた【天の恵み】レベル)は、王族や面倒くさい連中との駆け引きの為、俺が全てを保管する。俺のマジックバッグなら、時間が殆ど経過しない。

 下級ポーションの内20本は、冒険者ギルドとの話し合いになるだろう。残りの20本は今日の治療で使い切った。
 20本の下級ポーションを住民に使用したことで、ポーションの効果や、どのレベルのケガに対応できるのかというデータも取れた。


 話し合いの後、学院長はエクレアのアドバイス通り、横笛や弦楽器の演奏をして、被災者の心を癒してくれた。友達になっている妖精のオペラが、学院長と一緒にやって来ていたことは内緒だ。

 医学コースと薬師コースの学生たちは、連日の救済活動でへとへとになっていたので、特別サービスで疲労回復効果の高い薬茶をサービスしておいた。

 俺は商業ギルドやポルポル商団の王都店に寄るため、モンブラン商会の馬車で、セージ部長と一緒に先に王都へ戻ることにした。

 ああ、ポルポル商団から仕入れた軟膏と湿布は、王都の下級地区に在る【薬種 命の輝き】と【ポルポル商団王都店】が、高学院の救済活動に感銘を受け、今回限り無償で提供したとケガ人や町の世話役に伝えておいた。

 ……どうせ代金の回収が出来ないのなら、有効に宣伝する方が商人らしい。 




 下級地区にあるポルポル商団に寄ったセージ部長は、モンブラン商会の協力商団として、これから高学院の薬師部に薬草を納品して欲しいと仕事を頼んだ。

 店長のバイズさんは、突然来たモンブラン商会からの依頼に驚いて目を白黒させていたけど、俺が一緒だったから直ぐに了承してくれた。

 俺は今日の商品代金を支払い、表向きは【薬種 命の輝き】と共同で無償提供したことになっていると説明しておいた。
 でも、念のために請求書は保存しておく。


 そして商業ギルドに到着した俺は、ギルドの前で手もみをしながら待っていたサブギルマスに、応接室へと連行された。

「初めましてギルドマスター。王立高学院1年のアコルです。モンブラン商会の傘下で【薬種 命の輝き】という店を経営しています。
 さすが商業ギルド、冒険者ギルドと違って置いてある調度品や絵も素晴らしいですね」

 殺風景な冒険者ギルドと違い、商業ギルドの応接室はキラキラと豪華だった。
 俺の挨拶を受けたギルマスは、自分の正面の椅子に座るよう案内してくれる。応接セットも高級品で座り心地は最高である。

 ギルマスは、俺の隣に座っているセージ部長に視線を向け、ゴホンと咳ばらいをして嫌そうな顔をした。

「そんな顔をしても無駄ですよ。アコルはモンブラン商会の傘下にある商店の代表者です。
 しかも未成年だ。狡猾な商業ギルドの人間に、利益をむしり取られることがないよう、取引はすべてうちの商会を通して行います」

セージ部長はにっこりと黒く微笑み、俺がギルマスに軽くあしらわれることのないよう先手を打った。
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