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高学院 1年生

60ー1 危険分子と不満分子ー1

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 ◇◇ レイム公爵(財務大臣)◇◇

 王の執務室に疲れた顔をしてやって来たトーマス王子は、王様に向かって簡単な礼をとり、不機嫌そうにドカリと椅子に座った。

「それでトーマス王子、レブラクトの町の救済は終わったのか?」

「まさか、あれだけの被害ですよレイム公爵叔父上。 
 応急的な建物の修復と瓦礫の撤去は三分の一程度、ケガ人や病人の手当は、救済が遅れたことで全く手が回らず、医師も薬師も残っています。
 薬草が全く足りません、最低限の治療をするための薬草を購入する資金をお願いします」

ドラゴンに襲撃された町へ救済活動に出かけたトーマス王子は、高学院に帰って直ぐ報告のため王宮に来たようで、薬草を買うお金を要求した。

「しかしなあ、救済の為の資金は、そもそも軍や警備隊が握っている。年間予算の中に組み込んであるんだ。その予算以外から捻出するとなれば簡単ではない」

「ハーッ、王様も財務大臣も、レブラクトの町にいらっしゃるべきです。
 ドラゴンに食い荒らされた人々の血の痕、瓦礫となり住めなくなった数多くの建物、ケガの治療もしてもらえず見捨てられた住民の姿を見ても、お二人が同じこと仰ったら、私はこの国の王子を辞めます。

 国防大臣の命令で、町を出ることを禁止され、買い出しにも行けず底をついた食糧。
 治療を受ける為に王都へ行くとことも出来ず、身寄りを頼ることを禁止されたせいで、夫を亡くした幼い子を持つ母親は、炊き出しのスープ一杯に、涙を流して学生とモンブラン商会に感謝していました。

 被災者は知っています。ありがたいスープを用意してくれたのは国ではないと」

トーマス王子は呆れたように溜め息を吐き、私や王様を睨むように見ながら話す。

 憤りを隠そうともしない表情は、これまで穏和だったトーマス王子のものとは明らかに違っている。
 次期国王として見れば、民のことを真剣に思う王として頼もしい。しかし、国や王様を批判しているかのような物言いは危険だ。

「国防大臣の命令? 何だそれは?」

「何だそれは、ではありません王様! 被害状況調査が終わるまで住民の移動を禁止したんです。そして放置です。
 あの無能は、被災者に死ねと言ったも同然です」

 これまで国政や住民の生活に興味を持っているようにも見えなかったトーマス王子は、高学院の講師を始めてから別人のように変わっていった。

 見違えるようにやる気を出し、成すべき道を見付けた様子は、王様と私を安心させ、良いことだと喜び応援しようと話していた。
 
 しかし先日、高学院の大改革案と魔術師制度改革案を、学院長であり弟であるモーマットと一緒に持ってきた時は、いったい何が起こったのかと首を捻ってしまった。

 同時に、ドラゴンに襲撃された町の救済をする必要性を力説し、どうして急にそんなことを言い出したのか疑問に思った。だが、王族として正しい姿であると私も同意して許可を出していた。


 言い訳をするつもりはないが、魔獣の大氾濫までまだ2年あると思っていたので、まさか王都の直ぐ近くの町がドラゴンに襲撃されるとは予想していなかった。

 軍も警備隊も混乱し、撃退することも出来ず、多くの死傷者を出し逃げ帰った。未だに軍は再起できていない現状だ。
 王宮内も同じように混乱し、各部署がバラバラに動いたことで、全てが後手に回ることになった。

 確かに反省点は多い。

 今後の対策を優先事項だと考え、軍や警備隊を動かす権限を、軍務系大臣から宰相(サナヘ侯爵)か国務大臣(ワイコリーム公爵)に変更するべきだという声も多く上がったので、早急に決まりを作らねばならないと動き出したところだ。

 王宮内の混乱を収束させなければ、組織として大勢を動かすことなどできない。
 正直なところ、被災地をどうするのかという話どころではなかった。

 要となる国防大臣も役に立たなかった。いや、トーマス王子の話では、住民を見殺しにする命令を出したらしいから、害になったと考えるべきだ。

「魔獣の大氾濫に備え、そして戦いに勝つためには、ヘイズ侯爵派を早急に排除すべきです。
 王宮内で派閥争いをしている間に、民が死んでいくことになります。

 国民は、ヘイズ侯爵派が無能だからなんて思ってくれません。
 ただ、自分たちは国に見捨てられた。国は何もしてくれなかった。王族や領主は頼りにならないと不満に思うだけです」

「口が過ぎるぞトーマス! 少しくらい救済活動をしたくらいで、これまで政治に係わってこなかったお前が、簡単に考えて何とかなることではない!」

王様は大声でトーマス王子を叱咤した。

「そうです。私は今、それを痛烈に感じ反省しています。
 自分が次期国王候補から外れることで、政務が滞ることなく進めばいいとか、王子として何かに役立っていればいいと考えていました。

 その考えの全てが間違っていると、初代王である覇王様が残された【建国記】を読んで思い知らされました」   

「【建国記】? そんな書物があったのかトーマス王子?」

 覇王様が残された書物であれば、知っていて当然のはずなのに、私にはそんな記憶など全くなかった。

「私も知らんな。その【建国記】という書物の存在を何処で知ったトーマス?」

「【建国記】のことを教えてくれたのは学生です王様父上
 彼は王立図書館にあったその本を読んでおり、王族の在り方について、私や学院長やリーマスやルフナに疑問を呈したのです。

 平民である学生が【建国記】を読んで学んでいるのに、その存在さえ知らなかった。
 そしてその本は、王立高学院の閲覧禁止書庫の中にもありました。城の図書室にも必ず在るはずです」

「平民の学生が、王族の在り方に疑問を呈しただと?」

「叔父上、何故そこなのです? 平民が意見したことを気にするんじゃなくて、王族の在り方を教えている【建国記】を読んでいなかったことに反応すべきです」

私が怒りを込めて問い質したことに、トーマス王子は驚いたように、いや、軽蔑するような口調で叔父である私を責めた。 
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