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高学院 1年生

59ー2 救済活動(5)ー2

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 聖魔法とは、完全に失われた魔法であり、千年前の覇王時代には使われていたと伝えられている、伝説の上級医療魔法である。
 傷口に手をかざし、聖魔法をかけると傷口が塞がったり、火傷を治したり、伝説では病気をも治すと言われている。

「聖魔法を使うには、150以上の魔力量が必要です。教授に80以上の魔力量があれば、契約妖精の魔力を合わせることにより、聖魔法の発動が可能になります。
 そして魔力量は、鍛えれば伸びるものです」

俺はにっこりと笑って、可能性と未来を開くアドバイスをする。

「私に聖魔法が・・・そんな奇跡が起こるのか?」

「素晴らしいですモスナート教授!ぜひ、いえ、絶対に妖精と契約してください」

もう一人の医師であるコリアンダーさんが、瞳を輝かせてモスナート教授の腕を引っ張る。
 他のメンバーも夢見るように胸の前で手を組む。

「私が今夜皆さんをこの町に残したのは、私の持つ知識を教え、その知識を広めて欲しいからです。
 魔獣の大氾濫は必ず起こります。
 私は一人でも多くの人を助けたい。そのためには手段を選ばない。それが私の責任でありプライドです」

「そうね、学生の中にも光適性を持っている者は結構居るわ。それに命の適性と両方を持っていたら、有無を言わせず医療チームに引っ張るべきだわ」

 俺とエクレアの話を聞いて、皆の顔がパッと明るくなった。
 自分たちだけで出来ることは少ない。だけど学生を鍛えれば、出来ることが増えていく。そう考えれば、自分たちに与えられた使命が何なのか明確になった。



 俺の考えを示したところで、ポーション作りを始めていく。

「その薬草は最後の方がいいわ」

「了解エクレア」

 俺とエクレアは、沸かした蒸留水に薬草を一つずつ入れていいく。
 ゆっくりとかき混ぜながら、薬草の成分が流れ出したら、また次の薬草を入れていく。
 正確な分量なんて分からないから勘だ。

 5種類全ての薬草の成分が溶け出して混ざったら、そこからは魔力を注ぎながら混ぜていく。
 効果の高いポーションほど、魔力量が必要だと言われている。

「エクレア、お願いしてもいい?」

「ええアコル。私の魔力をアコルに流すわね」

 エクレアは俺の肩に座って、両手を肩に当て魔力を流し始める。
 時間にして5分くらい魔力を流したところで、薬液がカッと光り輝いた。

「なんだこの光は!」って、皆が驚いて声を上げた。

 マジックバッグの血判登録の時も同じ現象が起きたけど、もしかしたら、ポーション作りでも光ったりしないんだろうか?

「完成したら光るって現象は、これまでなかったんですかラベンダーさん」

「ええ、経験したことはないわ。セイランド教授はご存知ですか?」

「いや、私も知らない。そもそも、魔力を100以上使うポーション作りなんて、初めて見たんだからな」

「完成だわアコル」

「ありがとうエクレア。早速鑑定してもらおう」

俺がそう言うと、薬師のラベンダーさんが商業ギルドのサブギルマスを呼びに行ってくれた。
 ポーションの鑑定は、商業ギルドの鑑定魔道具が、一番正確な鑑定結果を出すと言われている。

 何せお金に関係するのだから、鑑定結果が正確でないとギルドの信用を無くしてしまう。
 そもそもポーションは、上級と中級とでは倍以上料金が違うし、効果も全く違うと言われている。

「ほんまにポーション作ったんかいな。噓やないんか?」

「サブギルマス、私もこれだけの素材でポーションを作ったことがないので、鑑定が必要です。それに、自分の意思とは違う効果の物ができている可能性もあります。鑑定をお願いします」

俺はそう言いながら、いつものポーション用の小瓶に、出来上がったポーションをかなり薄めて注いでいく。元々ポーションは蒸留水で希釈されるのが普通だ。
 そして鑑定を待つ間に、残っていた薬草をマジックバッグに収納した。

 サブギルマスは、瓶に入ったままのポーションを鑑定魔道具に載せると、大きな魔石に触れて魔道具を作動させた。

 王都の商業ギルドには、千年前に作られた鑑定魔道具と、500年前に作られた鑑定魔道具の二つがある。それ以降の時代に作られた鑑定機は、昔の物より正確ではないらしく、高級なものの鑑定は、昔の鑑定魔道具を使うことが当たり前になっていた。

 サブギルマスは、ゆっくりと表示画面に浮かび上がる文字を確認していく。
 皆も固唾を呑んで様子を見守っている。

「なになに、天の・・め・・・ぐ・・・み 中級?」

「オオーッ! 本当に【天の恵み】が、【天の恵み】ができた!」

「奇跡だわ! ああ神様、この瞬間に立ち会えたことを感謝いたします」

セイランド教授とラベンダーさんは、手を取り合って喜んでいる。

「なんやて【天の恵み】やて! 効能は……ふむ、中度の傷や火傷を治し……化膿を防ぎ……痛みを取るぅ? 適正価格・金貨5枚。あかん、これは夢や。目を覚まさな」

サブギルマスは次第に混乱していき、自分の頬をパシパシと叩いて目を覚まそうとする。

 俺はよし!と拳を握り、今度は希釈度を先程より下げて、濃度を濃くしたものと、原液のモノをポーション用のガラス瓶に注いでいく。
 やっと正気に戻ったサブギルマスに、俺は二つの瓶を手渡した。

「こ、今度はなんや! また【天の恵み】か? まさか何本もあるんか?」と一人で騒ぎながら、震える手で希釈を下げた瓶を、恐る恐る持ち鑑定魔道具に載せる。

 今度は全員で鑑定魔道具を覗き込む。一番前で緊張しているのはリーマス王子だ。

「あ、出た! ハイポーション【天の恵み】。効能は、重度の傷や火傷や化膿を治し、毒による失明や皮膚の欠損を修復する。適正価格……金貨10枚」

リーマス王子は、ハッキリとした口調で内容を読み上げ皆に伝える。

「・・・・・」皆は絶句しながら、視線を残ったもう一つの瓶に向け凝視する。

「ダメや、怖くて残りの瓶がも、持てん! 誰か、誰か代わってや」とサブギルマスが叫んだので、俺が残った瓶を鑑定魔道具に載せることにした。

 そしてやっぱり一番前で食い入るように見ていたリーマス王子が、鑑定結果を読み上げていく。


「エリクサー【神々の涙】。効能……あらゆる毒を中和し、ケガによる欠損部分を可能な限り修復し……本来の寿命ではない場合のみ、飲めば……飲めば病を……病を完治させる。
 神に選ばれし者だけが、作ることができる。適正価格……金貨100枚」
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