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高学院 1年生

57ー2 救済活動(3)ー2

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「フッ、その答えを、トーマス王子はきっとご存知ですよ。
 私を信じるか信じないか、それはトーマス王子の自由です。私が考えているのは、いつもどう戦うか、どう助けるかだけです。
 
 学院長が私を魔王のように感じたのだとしたら、私の望みが地位や権力を得ることではないからでしょう。魔王は既に王なのですから、それ以上を望まないでしょう?」

俺は魔王らしくニヤリと笑い、トーマス王子から視線を逸らした。そして目の前の湿布作りを再開していく。
 この場を纏めて指揮を執るのはトーマス王子の仕事だから、これ以上の口出しはしない。

 トーマス王子は医師や薬師と相談し、これ以上患者の治療を続けるのは無理だと結論を出し、今後のことを相談するため町の世話役たちと協議に入った。

 結局、薬が無くなったのでこれ以上は治療を続行できないことを理由に、本日は救護所を閉め、これから薬を作ったり王都で調達するので、治療の続きは明日も行われることになったと住民に発表された。

 これまで見捨てられたも同然だった住民たちは、がっかりした様子の者も見られたが、実際に薬を貰えてない状況を理解し、明日も救護所が開かれると分かり安堵した。

 世話役から、高学院の被害状況調査がほぼ終わったので、これより先は住民の移動制限が解除されると告げられ、住民たちから喜びの声が上がった。            
 また、本格的な治療が必要な患者を、王都の病院に移送することや、治療を待てない者が、自分で王都の病院へ行くことも可能になった。



 時刻は午後4時、学生たちは帰り支度を始める。
 ただ、自警団の10人は、まだ土壁の外でうろうろしており、子供のビッグボアーを倒した気配がなかった。

 特務部の学生の中には冒険者ギルドの推薦で入学した者も数人居て、土壁の中を覗いて呆れ、代わりに討伐しようかと申し出たが、貴族部の教授からストップがかかった。
 なんでも、特務部に借りを作るわけにはいかないそうだ。

 しかし帰る時間は迫っており、真面目に働いた学生たちは疲れ果てていた。だから誰も彼も自警団と意味不明なプライドを振りかざす貴族部の教授に厳しい視線を向ける。

「ちょっと早くしてよ」とか「ドラゴンも倒せるんだろう」とか「貴族部の恥」とか「早く帰りたい」と、嘲笑や怒りの声が聞こえてくる。
 貴族部の教授も倒せないようで、困った顔をしているが特務部には頼まない。

 そんな、どうすんだよ状態に痺れを切らした学生が、すたすたと歩いて土壁の前に出てきて貴族部の教授に言った。

「もう、貴族部の女性はクタクタですのよ。特務部の学生や教授が討伐するのがお嫌なら、貴族部の学生が討伐すれば良いのでしょう?
 本当に情けないですわ! ラリエス様、お手数ですが土壁を一面だけ崩して頂けます?」

「いいですよ。ですが、貴族部の誰が討伐を?」

「もちろん、わたくしですわ。さあ、お早く。わたくしCランクの冒険者ですの」

疲れを滲ませ、怒りを隠さず、何もできずに困った顔をしている自警団の男たちを睨み付け、新聞部2年、執行部部員でもある貴族部のチェルシーさんは、ラリエス君が壁を一面倒した瞬間、ズバズバビシュッと氷魔法を放ち、あっさりと三頭同時にビッグボアーを倒してしまった。

 瞬殺である。

 全学生は無言のまま、ビッグボアーとチェルシーさんに視線が釘付けになった。
 そして「ワーッ!」という大歓声が上がり、特に貴族部の女性から「素敵ですわ」「さすが執行部ですわね」と熱い声援が飛んだ。

「お疲れ様ですチェルシーさん。素晴らしい攻撃でした。後の血抜きは同じ冒険者の私がやりましょう。私は居残り組ですから」

俺はパチパチと手を叩きながら歩み寄り、チェルシーさんに笑顔で声を掛ける。

「まあアコル君、わたくしもご一緒したいですわ。けれど、さすがに疲れました」

「それでは、夏休みに龍山で、魔獣の討伐をご一緒するのは如何でしょう?」

「素敵ですわ。私の家は冒険者ギルド龍山支部に近いので、ぜひ誘ってください」

「それなら私もお供させてください。私も今年、Cランクで冒険者登録しましたから」

なんだか嬉しそうな顔をして、ラリエス君も参加表明してきた。
 貴族や魔術師が格下扱いする冒険者であることを、隠そうともしない二人に、俺の好感度はぐっと上がった。

 B級魔術師の一般資格を取得するには、今年から冒険者登録が必要になる。この二人が公言したことで、冒険者登録に抵抗が無くなるかもしれない。

 ……ラリエス君って冒険者登録したんだ。昔と変わらず努力家だな。

 俺とチェルシーさんとラリエス君は、自警団の連中を完全無視していた。イスデンが恨みを込めた憎々しい顔で俺を睨んでいるけど、わざと煽っているから問題なし。
 ああ、早く貴族部の男子学生が、俺に喧嘩を売ってこないかなあ・・・

「自警団の皆さん、見張りご苦労様でした」

俺はにっこりと笑って、よく聞こえるように嫌味を言っておいた。
 学院に戻ったら、きっと何か仕掛けてくるだろう。ちょっと楽しみになってきた。



 いろいろあった救済活動は、まだまだ充分とは言えず課題を多く残したまま、一部の人員を残して学生も教師も学校に戻っていった。明日の講義は休みだから、ゆっくりと休んで欲しい。お疲れ様でした。

 僅か一日でできることには限界がある。来ないより良かったし、学生たちも住民に感謝されたことにより頑張れた。得難い経験になったことは間違いないが、人もお金も物資も時間も足りなかった。

 軍や警備隊の初動の対応がグダグダで、住民を救済しなかったことにより、被害が大きくなったのは間違いない。それは国や王の責任であり、自分がどうこう出来ることでもない。

 それでも、町から出ることを禁じた国防大臣の命令は破棄できた。これで町の住民の移動が自由になり、物資不足はいくらかましになるだろう。

 学生たちに続いて、町の荷馬車に乗って数人の住民が王都に向かって出ていった。

 たった一杯のスープだったけど、住民たちの顔には安堵の色が浮かんでいて、残ったスープは妊婦や子供を中心に夕方からまた振る舞われることになった。
 今度は学生ではなく、町の住民が協力し合って頑張ってくれる。

 先程チェルシーさんが倒したビッグボアーの子供三頭は、血抜きも解体も住民がやると申し出があったので全てをお任せし、困っている住民を優先して分配するようお願いした。

 救済に来ている自分達が気を使わせる訳にはいかないので、居残り組の食事は、俺のマジックバックに収納されているパンや、これから解体するアナコンダかビッグボアーの肉を振る舞う予定である。
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