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高学院 1年生

52ー1 アコル、喧嘩を売る(3)ー1

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 冒険者ギルドで今後の予定を大雑把に告げ、半信半疑ながらも俺を覇王だと認めたギルマスとダルトンさんに、明日にでも王立高学院に来てもらうようお願いした。

 ドラゴンの件で大騒ぎになっているギルドの職員の皆さんに、スープと大量のパンを差し入れして泣かれ、【ドラゴンの件は王宮からの正式発表があるまで、何も答えられない】と書いた紙を、正面入り口に貼り出すよう提案し受付の皆さんにも泣かれた。
 
 冒険者ギルドに来る途中の下級地区の人々には、まだドラゴンからの襲撃は伝わっていない様子だったけど、高学院に帰る途中の様子では、どんどん噂が広がりつつあるようだった。

 それは中級地区に入ってからの方が顕著に表れていて、大商会や大商団は急遽店を閉め、多くの住民や商人たちが情報収集をしようと、商業ギルド本部や警備隊本部に詰め掛けていた。


 俺はモンブラン商会本店に立ち寄り、会頭の執務室で冒険者ギルドで得た情報を伝え、お願い事をする。

「ということで、本店と支店の中庭に、商品と従業員全員が避難できる地下室を早急に造ってください。
 土魔法が得意な魔術師を魔術師ギルドから雇うことをお勧めします。

 魔術師ギルドの信用が失墜している今なら、お安く工事していただけると思います。
 他の商会も地下室を作り始めたら値段が高騰しますので、今から直ぐに使いを送り契約を済ませてください。魔術師も、作業的な仕事ならキチンとするでしょう」

「相変わらず魔術師に対して容赦ないなアコル。分かった。大至急地下室を造ろう。セージ部長、使いを出してくれ」

会頭は直ぐに、魔術師ギルドに依頼することを了承してくれた。
 セージ部長は急いで警備隊長に伝え、直ぐに戻ってきた。

「ああそれから、一つお願いがあります。

 これから私は、高学院の学生を使ってドラゴンに襲撃された町の救済に向かう予定です。その時に、炊き出しをしようと思うのですが、材料費をモンブラン商会から出して欲しいのです。

 もちろん被災者の皆さんには、モンブラン商会からの救済だと説明します。
 私はモンブラン商会の名声を、貴族だけではなく庶民にも広めていきたいと思います。

 どんな高価な商品より、一杯の暖かいスープの方が有り難いと思う時があります。そして人は、美味しい食べ物を与えてくれた恩人のことは忘れないものです」

 俺はその場で必要な調理器具や材料などの経費を概算し、モンブラン商会には王宮からではなく学院長から感謝状を出してもらう約束をした。

 これは学院への寄付金とは違い、高学院の崇高なるボランティア精神を応援する援助であり、感謝状を店先に掲示することにより、他の商会や商団にも追随させることを目的とする。

 また、高学院の崇高なる活動を援助していると公言することで、高学院も救済活動をせざるを得ない状況に持っていける。
 災害が起きた時に、直ぐに救いの手を差し伸べた高学院とモンブラン商会の行いが、王都民にとっての試金石になるだろうと説明した。

「被災者を救済する? 高学院がそんなことをしてくれるのかアコル?」

「もちろん、誰もそんなことをしたいなんて思っていませんよ会頭。
 ですから、高学院に居る王族を脅します。

 このままでは、ドラゴンや魔獣に襲われても王族や貴族は何もしてくれないと、住民は怒りや不満の感情を抱き、不安になった王都民は混乱し治安が悪化しますが、よろしいのでしょうかと」

「ちょ、ちょっと待てアコル。王族を脅す?」

マルク人事部長は信じられないって顔を俺に向ける。

「いくらなんでもそれはやり過ぎだぞ」と会頭が心配して注意する。

「脅したところで、高学院の学生たちが協力するとは思えないが?」

副会頭は冷静だ。そんなこと無理だろうと言う。

 本気で心配そうに俺を見る三人は、冒険者ギルドの二人と同じように、高学院で何かあったのか?とか、不敬罪で処罰されるからやめておけと注意する。

「でも、もしもこれから、度々ドラゴンが襲撃してきたら、誰かがやらないといけないことでしょう?
 今の王族や貴族・・・いえ、腐った役人たちに期待するのは無駄ですよ。

 フフ、何のために高学院に王立という文字がついているのです?
 王立高学院は国営ですから、使える人材は使わないと。しかもタダです。

 人件費タダ。そして救済活動は勉強の一環として行える、素晴らしい講義のひとつです」

「うわー、アコルが悪い商人の顔になってる」

「人聞きの悪いことを言わないでくださいセージ部長。私は商学部の学生、利益にならないことはしませんよ」

「いやいや問題はそこじゃないだろう! 王族を脅すなんて、いくら学院長やトーマス王子でも、賛同してくれるとは思えないぞ」

「大丈夫です副会頭。もう散々脅していますから。
 それに、今はまだ言えませんが、学院長やトーマス王子でも、私を不敬罪にはできない理由があるんです」

俺はそう言ってにっこりと微笑んだけど、皆の心配そうな表情は変わらない。

 このメンバーには、まだ自分の本当の身分は言えない。
 俺はまだ、モンブラン商会のアコルでいたいから。

 帰る前に、モンブラン商会の刻印が入った小袋を10枚ばかり頂いて、買った材料などはセージ部長のマジックバッグに収納しておいて欲しいと頼んだ。
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