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高学院 1年生

49ー1 国王の承認ー1

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 ◇◇ 学院長 ◇◇

 私は深く息を吐き、混乱する思考のまま再び椅子に座る。
 トーマスは長椅子に座り頭を抱え、沈黙の中、何度も溜息を吐く。

「アコルを危険視していた自分こそが、危険人物だった。
 魔獣の大氾濫を分かっているつもり。王子として【魔獣大氾濫対策研究室】を立ち上げ、責任を果たしているつもり。

 今日ドラゴンに襲われるなんて想像さえしていなかった。
 民や学生を危険に曝していたのは私の方だった。
 具体的な手も打たず、改革を叫びながら思考しているだけの愚か者では、誰も守ることなどできない!」

トーマスもまた、アコルの言葉を思い出したようで後悔の言葉を吐き出す。

 多くの民や兵士や魔法師を死傷させたばかりか、ドラゴンに逃げられ、誰一人として王族や大臣は現地に出向いてもいない。
 そんな現実を嘆くのではなく、真面目なトーマスは自分を責めている。

 だが同じ王族として、現実を何も分かっていなかったのは私も同じだ。
 もしも明日、王都や高学院がドラゴンに襲われたら、そう思うと体が震える。
 
 ……覇王様も居ないこの時代に……もうドラゴンが来襲するなんて。


 伝承通り、強大な魔力と統率力を持つ覇王様が必要だ。
【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書を、最後まで読み解ける、覇王となるべき王族が必要だ。

「トーマス、君の手に、まだ【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書はあるか?」

「はい、あります……有りますが、私に覇王は無理です。まだ上級魔法を一つとして使えません。開けるページもたった6ページです」

「私は7ページだった。リーマス(第五王子)とルフナ(第六王子)はどうだろう? よし、直ぐに確認するぞ!」

 私はトーマスと一緒に、リーマスとルフナの部屋へと向かう。
 向かう道すがら、自分の行動がアコルに導かれているような気がして、正直怖くなった。

 王家や領主の家には魔術書があるという話をアコルとしなかったら、きっと私は【上級魔法と覇王の遺言】の魔術書のことなんて忘れていた。


 最初に行ったのはリーマスの部屋だった。

 リーマスは早々に王になる気はないと宣言した、兄上国王が城の外で平民に産ませた子だ。彼は身を守るため意図して魔力量を上げてこなかった。

 覇王という言葉を出したら「学院長は私に死ねと? ようやく王宮から逃げ出したのに?」って泣きそうな顔で言って、魔術書なんて見るのも嫌だと拒絶した。

 血塗られた王家の歴史。何故か国王が外で作った子供は長生きできない。兄弟の誰かが、又は王妃や側室が暗殺してきたのだ。

 次に行ったルフナの部屋では、ドラゴンの話をする前に、ルフナから信じられない衝撃の事実を聞かされた。

「だって僕は、活字が頭に入らないです。
 本は開けますけど中に書いてあることは全然理解できません。

 でもアコルが、僕に勉強の仕方を教えてくれたから、これから覚えられるかも。
 いやダメだー。誰かが読んでくれなきゃ覚えられない。トーマス兄さん、読んでくれますか?」って。

 絶望で目の前が暗くなった。

 開けるページは10ページ。だけど、私が見てもトーマスが見ても、魔術書のページはどれも白紙にしか見えず、内容を確認することすら出来なかった。

 産まれて直ぐに血判登録することにより、本人以外が使えないようになっていたのだ。

「ルフナ、今日、王都の近くの町がドラゴンに襲撃され、街は半壊、住民の死傷者多数、そして軍も魔法省も全く役に立たず、ドラゴンに逃げられた」

「えっ! ドラゴンに襲撃された?」

ルフナも凄い衝撃だったようで、それ以上言葉が続かない。

「だから、だから【上級魔法と覇王の遺言】なの? 
 でも、誰も魔術書に書いてあることを教えてくれないし、父上も上級魔法を使えるようになれって言わなかったよ。

 ええぇっ!いやいや、兄さんたちだって、叔父上たちだって居るんだから、覇王は俺じゃないよね?」

 誰も真面目に魔術書を読み解こうとしない。
 誰も真剣に覇王を目指さない。
 誰も、魔術書を与えられる意味を考えようともしなかった。

 ドラゴンとの戦い方なんて、誰も知らないし、調べようともしていない。それが今の王族の現状だ。


 アコルがブラックカード持ちとしての責任を果たすため、閲覧禁止書庫で覇王がどう戦ったのかを調べようとしていたのに、まるで他人事だった私たちは、アコルの目にはどう映っていたのだろう?

 ……ああそうか、だから王族は民を守りたいのか、貴族だけを守りたいのかはっきりしろと言ったんだ。

 強大な敵と戦う気概さえない我々に、頭を切り替えろと示唆……いや、不敬罪を覚悟する気で最後通告したんだ。

「もしも明日、王都がドラゴンに襲われたら、王城もこの学院も壊滅する。
 アコルは今日、魔獣の大氾濫と覇王の戦いについての本を探して、閲覧禁止書庫に入った。
 王族の誰も調べようとさえしないことを調べようとして。

 アコルは学院長である私に、魔獣の大氾濫を収束させるのは王族や貴族の仕事であり、平民の私の仕事ではないと言った。

 そして、冒険者である自分の仕事は、王都の住民を守ることであり、決して王族や貴族や努力もしない腐った学生を助けることじゃないと言った。

 その通り、当たり前のことを言ったのに、なんて辛辣なことを言うんだと、私は少し腹を立てた。
 明日、生きていられるかどうかも分からない事態だというのに」

 トーマスもルフナも黙ったまま、王族であることの意味を考え直している。

 どのくらい沈黙の中で過ごしたのか分からないが、覇王に相応しい者は、魔力量が一番多く人望も厚いレイム公爵しかいないと私の中で結論が出た。

「明日、レイム公爵が魔術書を持っているかどうか確認してくる」

「そうですね叔父上。覇王の件はそれしかないと思います。でも我々にも出来ること、いえ、やるべきことがあります。
 私は、アコルの提案を父上に承認していただきます。今変わらなければ、本当にこの国は滅びます」

トーマスはそう言うと、明日の早朝、私と一緒に王宮へ行き国王から承認を得ると決めた。

 アコルの提案について何も知らなかったルフナに、トーマスが丁寧に説明していく。
 アコルを仲間に引き入れて監視するよう、ルフナやラリエス君やエイト君に指示を出していた私は、トーマスの話の途中で自分が恥ずかしくなり、監視の指示を取り消した。

 ついでに妖精と友達になり、オペラと名付けたことを話すと、トーマスとルフナからズルいと文句を言われた。

 気付けば深夜になっていた。
 こうして甥たちとじっくり意見交換することも、必要なことだと痛感した。

 本当に王位を争っている場合ではない。でも、きっと分からない奴には分からないだろう。
 この機会に、レイム公爵ナスタチウム兄上にアコルの存在を打ち明け、レイム公爵家の血筋かどうかを調べてもらおう。

 アコルがレイム公爵家の血族なら、堂々と学生のリーダーとして表に立って貰える……と思う。
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