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冒険者とお仕事

37ー2 妖精使いのアコル(3)ー2

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 ◇◇ マンデリン副会頭 ◇◇


「それで、魔法省との話し合いはどうなった副会頭?」

 私たちより早く本店に戻っていた会頭は、執務室のドアを開けるなり、椅子から立ち上がって質問してきた。
 お決まりのようにマルク人事部長とセージ部長(白磁部の部長)も待っていて、俺の顔を真剣に見詰める。

「ちょっと感情の整理をする時間をください。私自身が……アコルの行動を理解できていません。いや、あれは打ち合わせ通りだったのか……?」

 ソファーに座って直ぐ、私は頭を抱えた。
 結局どうなったのかを思い出そうとして、アコルの威圧を思い出し体が震える。

 ……ハハ、これでも私は元伯爵家の子息だ。魔力量だって少ない方じゃない。それなのにだ・・・あれを本当に演技だと思えるのか?

 セージ部長がお茶を淹れてくれたので、ハーッと深く息を吐きだし、カップに口を付けた。こんなにお茶が身に染みたのは何時振りだろうか。

「結論から申し上げますと、全てアコルの筋書き通りに行きました」

「それでは、魔法省はアコルを諦めたのか?」(会頭)

「は~っ……諦めたというより、関わりたくなくなったでしょうね。あれだけ怖い思いをすれば、二度と会いたくないでしょう」

私は再び溜息を吐き、自虐的に微笑みながら答えた。

「怖い思い……ですか、副会頭?」(セージ部長)

「ああ、心胆を寒からしめるとは、ああいう時のことを指すのだろう。最後にアコルが選んだキャラは、なんと【覇王】だったんです」

「はあ? 覇王?」と皆の声が揃う。

「伝説の覇王の役を、どうやって演じたんです? そんなの魔法省の上級役人相手に無理でしょう? アコルに威厳とか王のような演技ができるとは思えません」

 貴族社会のことをよく知っているセージ部長は、あり得ないだろうと首を横に振る。私だって始めはそう思っていたよ。

「いや、あれは、アコルは【覇王】そのものだったよ。
 この私が恐怖で震え、魔法省の上級役人と妖精使いは、立ち上がることも出来なかったのだから。
 終始上から目線で話し、最後は本当の力でねじ伏せた。

 会頭、アコルは何者なんでしょう? 
 あの威圧は、国家認定魔法師にも放てません。どこまでが演技で、どれが本当のことだったのか、私には分からなくなりました」

 そう言ってまた頭を抱えた私は、深呼吸を何度か繰り返すことで落ち着きを取り戻していった。
 お茶を全部飲み干し、王宮に到着したところから、アコルの会話の全てを、私は隠すことなく話していくことにした。


「花壇の整備を仕事にする?」(マルク人事部長)

「いったい王宮に何をしに行ったんだアコルは」(セージ部長)

「今頃アコルは、見積書を書いていると思いますよ会頭」

 魔法省に到着する前の場面から、アコルは皆の関心を集めてしまう。
 いや本当に、アコルは見ていて面白いし、その発想や行動力に惹き付けられる。

「は~っ、そこまで品位に欠ける少年を演じたんですか?」(セージ部長)

「それ相応の待遇を自分から要求したのか?」(会頭)

「堂々とDランクの冒険者証を見せて自慢したぁ?」(マルク人事部長)

「まあ、それが上手くいって、面接者は憤慨して出ていったんですが」

 呆れている三人に最初の面接の様子を話し、アコルの作戦が功を奏したと言う。
 次の面接を待つ間、お茶が出ないと知ったアコルは、のんびりと自前の菓子を食べながら、お茶まで飲んでいたと告げると「信じられない」と全員が再び呆れた。

 二回目の面接者とのやり取りを聞いた三人は、驚いたり絶句したり、信じられないと首を振ったりして、アコルの【覇王】振りに度肝を抜かれていた。

「ワイコリーム公爵家の名を出すとは」と、会頭はあきれている。

「本当に知り合いらしいですよ。冒険者として護衛したようですから」

「敵の妖精が、主から攻撃されそうになったアコルを守った?」セージ部長は信じられないという顔をする。

「そんなこと、可愛いもんですよ。アコルの最後の言葉に比べたらね」

「「「アコルの最後の言葉?」」」と、全員が怪訝そうに眉を寄せる。

「ええ、魔法省副大臣の秘書が、アコルに質問したんですよ。身分をね」

「「「 身分を? 」」」

 身を乗り出すようにして、全員が私の話に食いついてくる。

 ……ああ、なんだか話していて楽しくなってきた。13歳のアコルが、魔法省の副大臣秘書と魔法師を手玉に取った話だもんな。気分が上がってきたぞ。

「そうです。あまりに尊大な口のきき方をするアコルに、完全にビビってましたね」

「それで、アコルは最後に何と言ったんだ?」

「それを知ってどうする、長生きしたくないのか……と訊いたんです会頭」

「「「 ・・・・・ 」」」

「その直後、アコルは【覇王】らしく、立っていられない程の威圧を放ちました。それはほんの一瞬でしたが、あと2秒でもあの威圧を浴びていたら、気を失うだけでは済まなかったでしょう」

 全員が大きく目を見開き絶句する様を見ると、私の予想を遥かに超える衝撃だったようだ。その気持ちはよく分かる
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