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冒険者とお仕事

34ー2 目標達成と次の課題(2)

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【上級魔法と覇王の遺言】の本を、半分くらいまで開けるようになった翌年の春、こっそり王都に戻った俺は、モンブラン商会の不動産部に依頼して、王都の下級地区に家を買った。

 不動産部のマジョラムさんが、三階建ての店舗付き住居で、二階の半分が住居で一階の4分の1が小さな店スペースになっている物件を見付けてくれて、予算きっちりの金貨70枚で売ってくれた。

 そして13歳になった俺は、念願の商業ギルドに登録した。

 登録店名を【薬種 命の輝き】とし、個人ではなく最初から商店として登録し、金貨2枚を払って商店主になった。
 子供だからと手続きを遅らせたりされないよう、保証人欄にモンブラン商会の創業者一族の代表であり伯爵であるダルトンさんが、推薦者欄にモンブラン商会のマルク人事部長が名前を書いてくれた。

 二人の名前を見た商業ギルドの受付のお姉さんが、目をぱちくりさせて急ぎ扱いで登録してくれたので、ギルドの手続きや家の手続きが2日で完了した。



「お前なぁ、あれだけ目立つなと言ったのに変異種を討伐したらしいな」

 大変お世話になっている冒険者ギルド王都支部に立ち寄った俺は、ギルマスの執務室で、疲れた顔をしたギルマスから文句を言われながら睨まれた。

「たまたま遭遇したんだから、仕方ないじゃん。それに家を買うためにお金が必要だったんだよ」

 俺は言い訳をしながらも、討伐は【宵闇の狼】として報告してるから問題ないはずだと胸を張った。

「どこの世界に13歳で王都に家を買うような子供が居るんだよ。それに、なんで商業ギルドに登録してるんだぁ? もう冒険者でいいんじゃないのか?」

「何度も言うけど、俺は大商人になるんだよ。秋から高学院に入学して、モンブラン商会の商会員になって・・・まあ、時々冒険者も遣る予定だけど、魔獣の大氾濫のために魔術は絶対に学ばなきゃダメだろう?」

 ブラックカードを持っている冒険者なのに、本業が商人って、あり得ないだろうとブツブツ言うギルマスだけど、こればかりは譲れない。

 俺が王都を追われた時から、ギルマスもダルトンさんも、モンブラン商会の会頭やマルクさんも、軍や魔法省から俺をずっと守ってくれている。
 そのことは本当に、心から感謝している。

 ……でもなぁ、魔獣の大氾濫は必ず起こるはずだけど、その時俺は、高学院の学生をしている気がする。商人だとか冒険者だとか、軍とか魔法省なんて関係ない立場の学生をしながら、きっと俺は戦うことになるだろう。

「とにかく、俺は冒険者として学ぶという目標は達成した。これからは、魔獣の大氾濫の前に自分が消されることがないよう、情報収集とこの国の現状を学んでいく」

 仕方ないなあという諦めの表情で、ハァと息を吐くギルマスに向かって、俺は次の新たなる課題を伝えて、王都に魔獣が攻めてくるような事態になったら、学生をしていても加勢すると約束して執務室を出ていった。

 サブギルマスのダルトンさんにも、いろいろとお礼をしたかったが、復活した魔術師ギルドとの会合のため留守だったので、7月末までには王都に戻ると伝言を頼んだ。




 ◇◇ 3年後 ◇◇

 久し振りの王都に母さんは少し涙を浮かべて、感慨深げに下級地区の景色を見ている。準男爵家の令嬢だったのに、家出して冒険者になった母さんは、18歳から一度も実家に帰っていない。

 風の噂で兄が家を継ぎ、なんとか貴族を続けていると聞いていたが、会いに行きたいとは思わないらしい。寧ろ、関わりたくない様子だ。
 妹のメイリは、ド田舎から王都に来たもんだから、ワクワクがいっぱいの王都の街並みを見て、大はしゃぎしている。

 無事にヨウキ村の家や畑や牧場が売れて、お金に余裕ができた母さんは、そのお金を家を借りる補償金(敷金)にしなさいと渡してくれたけど、冒険者で稼いだお金でもう購入したと説明したら、目が点になっていた。
 危険な依頼を受けたのかと怒り出した母さんに、【宵闇の狼】が一緒だったんだから問題ないとセイガさんが庇ってくれた。

「ちょっとアコル、ここ? この建物なの?」

「そうだよ母さん。二階が住居で、小さいけど一階に店もある。留守の間の管理は、モンブラン商会の支店時代の友達バジルがしてくれていたんだ。さあ、とにかく二階に入ってみて」

 驚いた顔の母さんと、「ここが新しいお家?」って、階段のある家に初めて入るメイリの手を引いて、俺は階段を上り住居スペースのドアを開けた。

 都会の家を買う時は、大きな家具が残されていることが多いらしく、食器棚や食卓テーブルセットが残っていたので、家から持ってきたのは、ベッドやタンスが大きな家具で、あとは衣装や食器や細々としたものだけだった。

「それじゃあ出すよ」と言って、俺はマジックバッグから荷物を取り出した。

「相変わらず常識知らずのマジックバッグね」って、母さんが呆れる。

 一緒に王都まで戻ってきた【宵闇の狼】のメンバーが全員、引越しの手伝いをしてくれるから、俺はキッチンで夕食の準備を始める。
 3年間の雑用係生活で、料理のレパートリーも増えたし、旅の途中で色々な香辛料を買うのが趣味だったから、味付けだって工夫している。旅の宿で食べた料理が美味しかった時、小銀貨1枚(五千円)でレシピを教えて貰ったりもした。

「宵闇の狼の皆さん。3年間本当にお世話になりました。今日は引っ越しまで手伝っていただき、ありがとうございました。心ばかりの料理ですが、感謝の気持ちを込めて作りました。どうぞ、お腹一杯食べてください」

「なんだよアコル、他人行儀に。世話になったのは俺たちも同じだ。アコルと旅を始めて【宵闇の狼】の稼ぎは倍増した。ああぁ、でも、アコルの旨い料理が今日限りだと思うと、泣きたくなるのは俺だけじゃないだろう」

「そうだなリーダー」ってデルさんが苦笑すると、他の二人も笑って頷く。
 
 いよいよ明日からモンブラン商会に戻る。
 高学院の受験の準備も始めなければならない。

 でも、最初に俺を待ち受けているのは、魔法省との対決だ。
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