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88 さようなら未来へ
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◇◇ 春樹 ◇◇
なんだか長い夢を見ていた。
それは未来の光景で、やっぱりこれは予知夢なのだろうと勝手に解釈する。
「アイーダ、いや実花、突然離婚したいなんて……どういうことだ?」
「私、好きな男ができたの。だから、結婚しようと思って」
「そうなのか? まあ、私たちの結婚は君の厚意によって、私が後継者を得るためのものだったから、君の意思を尊重しよう」
すっかり大人っぽくなった悠希先輩が、同じ前世の記憶を持つアイーダと話をしている。
その会話を、俺は悠希先輩夫妻の子供だと思われる、小さな男の子の視点から見聞きしていた。
「相手はちゃんと生活力のある男なのか?」
「まあ、相変わらず心配性なのね九竜社長。私のマンションの家賃くらいは払えるんじゃない。どうやら私も、前世の記憶から逃れられないみたい」
40歳を過ぎた男は、相変わらず出来ますオーラを漂わせ、モデルばりの格好良さで美女と会話している。
「前世の記憶? それは・・・まさか」
「ええ、真樹だって弟妹がいた方がいいでしょう監督?」
「はあ? そんな報告、私は受けていないぞ」
「そりゃぁそうでしょう。だってこれから私がプロポーズをするんだから。イギリスツアーの途中で押し倒す予定よ九竜社長」
アイーダである実花さんは、自由人らしく恋多き女性だが、今度は初めて自分から好きになった男だからと付け加えて笑った。
「フッ、もう好きにしたらいい。アイツがOKしたら言ってくれ。離婚届にサインしよう。きっと春樹は喜ぶだろう」
悠希先輩はなんとも複雑な顔をしているが、自分の子供を産んでくれた実花さんには感謝しているし、先輩なりに大切な存在として接してきたのだろう。
子供の母親としての立場は変わることがないし、これからもナロウズ音楽事務所に二人が所属してれば、いつでも連絡だって取れるはずだ。
そんな会話を聞いていた俺は、アイーダ、いや実花さんにどうしてもお礼が言いたくなった。
だから、幼い愛しい子の体を少しだけ借りて、お礼を言う。
「ありがとう、俺の夢を叶えてくれて。これで本当に幸せになれるよ」
ギョッとした表情で3人が俺を、2歳児の真樹くんを振り返った。
そして俺は、真樹くんの頭を優しく撫でて、自分の体に戻ってきた。
「春樹、分かるか春樹、俺だよ、帰ってきたぞ」
「・・・伯? あれ? おかえり」
未来の夢を見て目覚めると、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる伯が居た。
「今日は何日の何時?」
「はっ? 今日は6日で23時57分だ。もう直ぐ7日になるところだ」
「伯は、明日帰るんじゃなかったっけ?」
ぎゅっと俺の右手を握って、今にも泣き出しそうな伯に質問する。
「春樹、俺が連絡したんだ」
今度は悠希先輩が、俺の顔を見ながら話し掛けてきた。
その表情は柔らかで、俺が伯に会えたことを心から喜んでいるのだと分かる。
確か午前中は先輩とスタジオに行って・・・シャワーを浴びて・・・最後のお願いをして、いっぱい甘えさせてもらった。
「悠希先輩・・・俺、いつ眠ったんでしょう?」
「昼食のために帰って来て直ぐだよ。着替えようとして倒れたんだ。春樹、ちゃんと伯と話をした方がいい。まだ話せそうか?」
「はい。ごめん……少し二人だけ……に……ちがう、啓太はいて」
心配そうに俺を見ている父さんや母さん、兄貴や姉貴、そして悠希先輩に、伯と啓太と3人にして欲しいと、かすれた声でお願いする。
皆が「分かった」と言って病室を出ていく。たぶん談話スペースか家族控室に移動するんだろう。
伯は俺の手を握って離さず、啓太は少し離れた応接セットで待機してくれる。
「春樹、なんで、どうして黙っていたんだ」
「ふう……自分の欲のためだよ」
「欲? 今朝だって電話で約束したよな、夏休みのことを」
「そ、そう……だね。俺は心から……そ、そう思った。伯と一緒に……出掛けたいって……ずっと一緒に……ご、ごめ……伯……伯」
ちゃんとごめんって謝りたいのに、上手く喋れない。
もう少し、あと少し、ちゃんと別れを告げなくちゃいけないのに、息が苦しい。
「どうした春樹、俺はここに居るぞ」
伯が俺の手をぎゅっと握る。きっと俺の顔を見ていると思うけど、伯の顔がよく見えない。ぼんやりと輪郭が見えるけど、部屋の明かりが暗いせいかな。
「好きだよ……ずっと……幸せ……今度は……幸せに生きて……ごめん」
もっともっと言いたいことがあるのに、これ以上話せそうにない。
だから右手に力を入れて握ってみる。
「なんで謝るんだよ。病気になったのは……春樹が……春樹が悪いわけじゃないだろう? 気付いてやれなくてごめん。俺が……気付かなきゃいけなかったのに……俺が……」
「伯、歌って、俺のぶん……まで……曲を……作って……約束……して」
最後の力を振り絞って、伯にお願いをする。約束で縛って生きてもらう。
「分かった……約束するよ。だから死ぬな!まだ……もっと……そばにいてくれ……次のフェスだって決まったぞ。今度は、今度は……見に来いよ……春樹……」
伯の泣く声がする。おいて行くなと泣いている。
俺だって別れたくないよ伯。ずっとずっと側に居たいよ。
一緒に歌って、曲を作って、キスして、抱き合って、ひとつになりたい。
……いや違う、そうじゃない。俺は幸せだった。
……最後の瞬間は、思い残さないとラルカンドに誓った。
……だからバイバイ伯。絶対に幸せになってね。ありがとう・・・
高校に入学してからの日々が、走馬灯のように浮かんでくる。
悠希先輩に出会った日。伯と初めて会って涙が出たこと。
初めてのキス。初めてのセックス。
絡んだ糸が入賞したこと。プロになったこと。ベストアルバムを作ったこと。
リゼットルのみんな。デジ部のみんな。クラスメートたち。九竜副社長、原条、大事な啓太。
「春樹? どうした? 目を開けて、春樹?」
微かに伯の声が聞こえる気がする。
「どうした春樹? 俺はここに居るぞ!」
……啓太、啓太の声だ。大好きだよ啓太。頑張って夢を叶えてね。本当にありがとう。
「もしもし真兄ちゃん、直ぐ来て」
あれ、啓太の声がよく聞こえない。もっと大きな声で話して。
「春樹、母さんよ」
・・・これは、母さんの声かな?
最後にありがとうって伝えなきゃ。みんなに・・・ありがとう……って。
ああ……もう、手も口も動かないや・・・
せめて笑って、笑って逝こう。
********
◇◇ 啓太 ◇◇
「母さん、春樹が笑った。ねえ、笑ったでしょう」って、光希姉ちゃんが泣きながら言う。
確かに、一瞬だけ春樹が笑った。そして一筋の涙を零した。
それは穏やかな、いや、穏やかにみえる最後だった。
痛いとも苦しいとも言わず、俺にさようならも言わなかった。
最後に伯に会えて良かったな春樹。
約束通り、春になっても伯が復帰してなかったら、俺が必ず活を入れてやる。
その頃俺は、きっと大学に合格しているはずだから。
伯、悠希先輩、九竜副社長へのビデオレターは、俺がちゃんと管理してやるからな。3人が望めば見せるし、春になってもグズグズしてたら、強制的に見せてやるから安心しろ。
俺は大丈夫。
大学合格という目標があるから。原条と一緒に合格してみせるよ。
そしたらさ、泣いてもいいだろう春樹? 思いっ切り泣いてもいいよな。
そんで、いつか来世で会うんだ。その時も親友にしてくれ。
小林先生がやってきて、春樹の死亡を確認する。
「8月7日、午前零時22分。春樹君は……本当によく頑張りました」
「お世話になりました」と、おじさんとおばさんが泣きながら挨拶をする。
悠希先輩は無表情なまま、春樹をじっと見ている。
伯は泣きながら、春樹の手を握って離そうとしない。
「伯、悠希先輩、帰りましょう。あとは家族と過ごさせてあげなきゃ。真兄ちゃん、俺たち一旦帰るよ。いろいろ決まったら連絡お願い」
「ああ、啓太……最後まで……最後まで本当にありがとうな」
真兄ちゃんはそう言って、俺を抱きしめた。
病院を出た俺たちに、悠希先輩が夜中だから自分の家に泊まっていけと勧めてくれた。
でも俺と伯は同じ方向に帰るから、タクシーで一緒に帰ることにした。
タクシーを待っている間、俺は九竜副社長に電話を掛けた。その後で、自分の家と原条に連絡を入れた。
伯は蒼空先輩に電話を掛けて、泣きながら春樹の死亡を伝える。
その泣き声が俺の心を揺さぶって、気付いたら涙が零れていた。
あれから8ヶ月、大学の入学式に出席したその足で、俺は東京に来ていた。
原条と一緒に、今日は再始動を始めたリゼットルのライブに招待されている。
「春樹、伯が戻って来たぞ。
悠希先輩は今日から、野上監督の助手として映画の撮影現場に行ってる。
二人はもう大丈夫だ。
春樹の最後の作品、1番の歌詞しか書けなかった曲を、伯はようやく完成させたらしい。
作詞ラルカンド&伯、作曲ラルカンドとして、次のアルバムに入れる予定だってさ。
曲名はそのまま【前世の僕は、いつまでも君を想う】だ。
なあ春樹、北海道は星が綺麗だぞ。
聞いてるか春樹?」
『聞いてるよ啓太』って、春風に乗って春樹の声が聞こえた。
* * * * * * * * * *
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
主人公の春樹の物語は、ここで一旦最終話となります。
このあと番外編として、悠希先輩や伯、啓太、原条たちのその後の物語が続きます。
春樹が悠希先輩と過ごした最後の時間のストーリーは、必ず書きます。
悠希先輩と副社長、啓太と蒼空先輩の恋の行方も書いていきます。
よろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
なんだか長い夢を見ていた。
それは未来の光景で、やっぱりこれは予知夢なのだろうと勝手に解釈する。
「アイーダ、いや実花、突然離婚したいなんて……どういうことだ?」
「私、好きな男ができたの。だから、結婚しようと思って」
「そうなのか? まあ、私たちの結婚は君の厚意によって、私が後継者を得るためのものだったから、君の意思を尊重しよう」
すっかり大人っぽくなった悠希先輩が、同じ前世の記憶を持つアイーダと話をしている。
その会話を、俺は悠希先輩夫妻の子供だと思われる、小さな男の子の視点から見聞きしていた。
「相手はちゃんと生活力のある男なのか?」
「まあ、相変わらず心配性なのね九竜社長。私のマンションの家賃くらいは払えるんじゃない。どうやら私も、前世の記憶から逃れられないみたい」
40歳を過ぎた男は、相変わらず出来ますオーラを漂わせ、モデルばりの格好良さで美女と会話している。
「前世の記憶? それは・・・まさか」
「ええ、真樹だって弟妹がいた方がいいでしょう監督?」
「はあ? そんな報告、私は受けていないぞ」
「そりゃぁそうでしょう。だってこれから私がプロポーズをするんだから。イギリスツアーの途中で押し倒す予定よ九竜社長」
アイーダである実花さんは、自由人らしく恋多き女性だが、今度は初めて自分から好きになった男だからと付け加えて笑った。
「フッ、もう好きにしたらいい。アイツがOKしたら言ってくれ。離婚届にサインしよう。きっと春樹は喜ぶだろう」
悠希先輩はなんとも複雑な顔をしているが、自分の子供を産んでくれた実花さんには感謝しているし、先輩なりに大切な存在として接してきたのだろう。
子供の母親としての立場は変わることがないし、これからもナロウズ音楽事務所に二人が所属してれば、いつでも連絡だって取れるはずだ。
そんな会話を聞いていた俺は、アイーダ、いや実花さんにどうしてもお礼が言いたくなった。
だから、幼い愛しい子の体を少しだけ借りて、お礼を言う。
「ありがとう、俺の夢を叶えてくれて。これで本当に幸せになれるよ」
ギョッとした表情で3人が俺を、2歳児の真樹くんを振り返った。
そして俺は、真樹くんの頭を優しく撫でて、自分の体に戻ってきた。
「春樹、分かるか春樹、俺だよ、帰ってきたぞ」
「・・・伯? あれ? おかえり」
未来の夢を見て目覚めると、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる伯が居た。
「今日は何日の何時?」
「はっ? 今日は6日で23時57分だ。もう直ぐ7日になるところだ」
「伯は、明日帰るんじゃなかったっけ?」
ぎゅっと俺の右手を握って、今にも泣き出しそうな伯に質問する。
「春樹、俺が連絡したんだ」
今度は悠希先輩が、俺の顔を見ながら話し掛けてきた。
その表情は柔らかで、俺が伯に会えたことを心から喜んでいるのだと分かる。
確か午前中は先輩とスタジオに行って・・・シャワーを浴びて・・・最後のお願いをして、いっぱい甘えさせてもらった。
「悠希先輩・・・俺、いつ眠ったんでしょう?」
「昼食のために帰って来て直ぐだよ。着替えようとして倒れたんだ。春樹、ちゃんと伯と話をした方がいい。まだ話せそうか?」
「はい。ごめん……少し二人だけ……に……ちがう、啓太はいて」
心配そうに俺を見ている父さんや母さん、兄貴や姉貴、そして悠希先輩に、伯と啓太と3人にして欲しいと、かすれた声でお願いする。
皆が「分かった」と言って病室を出ていく。たぶん談話スペースか家族控室に移動するんだろう。
伯は俺の手を握って離さず、啓太は少し離れた応接セットで待機してくれる。
「春樹、なんで、どうして黙っていたんだ」
「ふう……自分の欲のためだよ」
「欲? 今朝だって電話で約束したよな、夏休みのことを」
「そ、そう……だね。俺は心から……そ、そう思った。伯と一緒に……出掛けたいって……ずっと一緒に……ご、ごめ……伯……伯」
ちゃんとごめんって謝りたいのに、上手く喋れない。
もう少し、あと少し、ちゃんと別れを告げなくちゃいけないのに、息が苦しい。
「どうした春樹、俺はここに居るぞ」
伯が俺の手をぎゅっと握る。きっと俺の顔を見ていると思うけど、伯の顔がよく見えない。ぼんやりと輪郭が見えるけど、部屋の明かりが暗いせいかな。
「好きだよ……ずっと……幸せ……今度は……幸せに生きて……ごめん」
もっともっと言いたいことがあるのに、これ以上話せそうにない。
だから右手に力を入れて握ってみる。
「なんで謝るんだよ。病気になったのは……春樹が……春樹が悪いわけじゃないだろう? 気付いてやれなくてごめん。俺が……気付かなきゃいけなかったのに……俺が……」
「伯、歌って、俺のぶん……まで……曲を……作って……約束……して」
最後の力を振り絞って、伯にお願いをする。約束で縛って生きてもらう。
「分かった……約束するよ。だから死ぬな!まだ……もっと……そばにいてくれ……次のフェスだって決まったぞ。今度は、今度は……見に来いよ……春樹……」
伯の泣く声がする。おいて行くなと泣いている。
俺だって別れたくないよ伯。ずっとずっと側に居たいよ。
一緒に歌って、曲を作って、キスして、抱き合って、ひとつになりたい。
……いや違う、そうじゃない。俺は幸せだった。
……最後の瞬間は、思い残さないとラルカンドに誓った。
……だからバイバイ伯。絶対に幸せになってね。ありがとう・・・
高校に入学してからの日々が、走馬灯のように浮かんでくる。
悠希先輩に出会った日。伯と初めて会って涙が出たこと。
初めてのキス。初めてのセックス。
絡んだ糸が入賞したこと。プロになったこと。ベストアルバムを作ったこと。
リゼットルのみんな。デジ部のみんな。クラスメートたち。九竜副社長、原条、大事な啓太。
「春樹? どうした? 目を開けて、春樹?」
微かに伯の声が聞こえる気がする。
「どうした春樹? 俺はここに居るぞ!」
……啓太、啓太の声だ。大好きだよ啓太。頑張って夢を叶えてね。本当にありがとう。
「もしもし真兄ちゃん、直ぐ来て」
あれ、啓太の声がよく聞こえない。もっと大きな声で話して。
「春樹、母さんよ」
・・・これは、母さんの声かな?
最後にありがとうって伝えなきゃ。みんなに・・・ありがとう……って。
ああ……もう、手も口も動かないや・・・
せめて笑って、笑って逝こう。
********
◇◇ 啓太 ◇◇
「母さん、春樹が笑った。ねえ、笑ったでしょう」って、光希姉ちゃんが泣きながら言う。
確かに、一瞬だけ春樹が笑った。そして一筋の涙を零した。
それは穏やかな、いや、穏やかにみえる最後だった。
痛いとも苦しいとも言わず、俺にさようならも言わなかった。
最後に伯に会えて良かったな春樹。
約束通り、春になっても伯が復帰してなかったら、俺が必ず活を入れてやる。
その頃俺は、きっと大学に合格しているはずだから。
伯、悠希先輩、九竜副社長へのビデオレターは、俺がちゃんと管理してやるからな。3人が望めば見せるし、春になってもグズグズしてたら、強制的に見せてやるから安心しろ。
俺は大丈夫。
大学合格という目標があるから。原条と一緒に合格してみせるよ。
そしたらさ、泣いてもいいだろう春樹? 思いっ切り泣いてもいいよな。
そんで、いつか来世で会うんだ。その時も親友にしてくれ。
小林先生がやってきて、春樹の死亡を確認する。
「8月7日、午前零時22分。春樹君は……本当によく頑張りました」
「お世話になりました」と、おじさんとおばさんが泣きながら挨拶をする。
悠希先輩は無表情なまま、春樹をじっと見ている。
伯は泣きながら、春樹の手を握って離そうとしない。
「伯、悠希先輩、帰りましょう。あとは家族と過ごさせてあげなきゃ。真兄ちゃん、俺たち一旦帰るよ。いろいろ決まったら連絡お願い」
「ああ、啓太……最後まで……最後まで本当にありがとうな」
真兄ちゃんはそう言って、俺を抱きしめた。
病院を出た俺たちに、悠希先輩が夜中だから自分の家に泊まっていけと勧めてくれた。
でも俺と伯は同じ方向に帰るから、タクシーで一緒に帰ることにした。
タクシーを待っている間、俺は九竜副社長に電話を掛けた。その後で、自分の家と原条に連絡を入れた。
伯は蒼空先輩に電話を掛けて、泣きながら春樹の死亡を伝える。
その泣き声が俺の心を揺さぶって、気付いたら涙が零れていた。
あれから8ヶ月、大学の入学式に出席したその足で、俺は東京に来ていた。
原条と一緒に、今日は再始動を始めたリゼットルのライブに招待されている。
「春樹、伯が戻って来たぞ。
悠希先輩は今日から、野上監督の助手として映画の撮影現場に行ってる。
二人はもう大丈夫だ。
春樹の最後の作品、1番の歌詞しか書けなかった曲を、伯はようやく完成させたらしい。
作詞ラルカンド&伯、作曲ラルカンドとして、次のアルバムに入れる予定だってさ。
曲名はそのまま【前世の僕は、いつまでも君を想う】だ。
なあ春樹、北海道は星が綺麗だぞ。
聞いてるか春樹?」
『聞いてるよ啓太』って、春風に乗って春樹の声が聞こえた。
* * * * * * * * * *
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
主人公の春樹の物語は、ここで一旦最終話となります。
このあと番外編として、悠希先輩や伯、啓太、原条たちのその後の物語が続きます。
春樹が悠希先輩と過ごした最後の時間のストーリーは、必ず書きます。
悠希先輩と副社長、啓太と蒼空先輩の恋の行方も書いていきます。
よろしければ、もう暫くお付き合いくださいませ。
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