トライアングルパートナー

窓野枠

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第17章 純子の変化

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 植木の顔が緊張しているのが純子には分かると、彼女はうれしくて仕方がない感情が湧いてきた。今日は植木係長をもて遊んでやろう、という思惑が沸き起こり、潤子はうれしくなった。堅物の彼なら秘密は守れそうだ。潤子は遊ぶのが好きだが、基本、純子がいるおかげで自分も夜になると、自由に気ままに遊べることは自覚している。だから、メインの純子の立場を悪くする行為だけはしたくなかった。それは調整役の人格・順子からきつく言われていたので自制している。でも、こんな真面目な男だから秘密は守れるに違いないという自信が、人格・潤子にはあった。この手の男は一度恋に落ちると、泥沼まっしぐらなのだ。二人は、着替えたら駐車場で待ち合わせることにして、部署を後にした。
 植木は利用時間外で閑散とした駐車場で潤子を待っていた。植木は向かってくる一人の女性に目を見張った。セクシーさ、エロチックさを醸し出す、まさに、いい女と呼ばれる類の女性が植木に向かって歩いてきた。彼の頭の中は混乱していた。植木は周囲を見た。誰もいない。絶世の美女が自分に向かってきている。自分の前で立ち止まったではないか。女性に免疫のない植木の心臓が爆発寸前だった。
「植木係長、そんなに見つめられると恥ずかしいわ」
 純子がからかうように植木に言うと、植木は首を左右に振って頭を深く下げて非礼を詫びた。
「すみません、あまりにもお美しいので見とれてしまいましたぁ…… 先ほどとまるで別人のようにおきれいです。いや、別人です」
「まあ…… 植木係長って、お世辞がお上手ですこと」
 タクシーの後部座席に乗る純子と植木は潤子の遊ぶ秘密倶楽部に向かったなどと植木には知る術もなかった。
「係長、今までのお仕事、ほんとうに助かりましたわ」
「そんな、当然のことですので……」
「今夜はたっぷりお礼をさせていただきますわ。ね? いいでしょ?」
 純子は植木の手の上に、手をそっと重ねた。
「植木係長はヒトメボレを携帯していますよね?」
「え? なんで、分かるんでうすか?」
 植木は驚いた顔でジャケットの内ポケットからヒトメボレを出した。そこに純子は持っていた自分のヒトメボレを並べた。2つのヒトメボレがわずかに光った。
「純子様、いつものクラブでいいのですか?」
 運転手が横を向きながら純子に声を掛けてきた。植木はその顔に見覚えがあった。小山内慶子だったが、入庁以来、企画課しか在籍しなかった植木には同じ役所の入所2年目の新人の顔など正確には覚えていない。
「分かりました。いつものクラブですね? あたしもお願いします」
 慶子がヒトメボレを前部座席の間から差し出した。3つのヒトメボレが並ぶと、3つのスマホが虹色に光った。
「え? これって? どうなってるの?」
 植木はヒトメボレの発光に驚いて声を出した。
「なんか、楽しくなってきたわね、慶子さん」
「はい、純子様。すてきな予感がしますわ」
 純子と慶子は笑顔で植木を見つめた。植木はこんな僕にもモテキが来たのか? そう思わずに入れない気持ちがあふれた。植木の体の芯から湧き起こる高揚こそ、ヒトメボレの作用だった。
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