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第10章 転落から悟りへ

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 やがて、彼は、繰り返される光の融合は、愛の融合と同じではないか、と悟った。人類の繰り返される生と死は愛と同じである。愛という原子が結合と分裂を繰り返す。最小の単位こそが原子である。愛は原子の集合である。肉体、特に脳内に愛という原子が融合する。愛の原子を放つ神器を開発すればいい。彼に新しい神器の素案が生まれた。矢では愛は拡散できないことを感じた。
 8ピッドは愛という原子が存在する。このとき、愛を理解することができた。愛という原子は存在する。まだ、発見することができないだけだ。
「愛は何か、目で確認できないから愛なのだ。どうしょうもない力が自分の心に原子という愛が入り込み宿り、根源的な力を与えてくれる。人類は愛で満たされる」
 彼は闇の世界から出る決心をした。

  *

 8ピッドはショーケースをクロスで拭きながら考えている。かつて女神が与えた特命を遂行する時が来た。新たな神器により人間界に降り注ぐ愛は人間界を幸福で満たすだろう。
 人間界に、文字が発明されるようになった。人類はいろいろな出来事を記録し、伝承する技術を得た。その中でも、恋愛指南なるものが拡散され、積極的な男女は爆発的につながった。キューピッドの使命は終わったかに思われた。恋のキューピッドは完全な失業に追い込まれた。消滅するキューピッドの精鋭たち。
 しかし、ものが発明され、組織が作られ、村が生まれ、国が生まれ、富むものと貧しいものが生まれ、ねたみ、そねみが生まれ、紛争が生まれ、社会構造が複雑になるに伴い、人間界が幾分病んできていることは否めない。徐々に愛の芽を摘み始めている。思想の違い、民族の違い、争いの種がさらなる争いを生む。それは社会全般にまん延し始めた。
 隣人を愛さない。右のほおを打たれたら、左のほおを差し出す、などと言ったら、「あんた、そんなっこと言ってると死ぬよ」と一括されてしまうかもしれない時代に突入した。
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