トライアングルパートナー

窓野枠

文字の大きさ
上 下
51 / 190
第8章 二人だけの執務室

しおりを挟む
「あの、好意うれしいけど、きょうだけね。変なうわさが立つと、きみにも迷惑をかけるしね。でも、二人分の弁当を作るなんて頑張ったね」
 進一は褒め言葉を慶子に言ったほうがいいような気がして気持ちを伝えた。
「えっ? 変なうわさですか? でも、もうあたしたち、ヒトメボレで知り合ってしまったんですよ。大丈夫です、どうにでもなりますから」
 慶子の笑顔が増したように見えた。進一は慶子の初めて見せる底なしの笑顔を見つめてしまった。ああ、この子をすぐにでも抱きしめてあげたい、と思った。今までであれば妄想の中でのことである。二人で会議室に入ったら抱きしめてしまうかもしれない。そうしたら、慶子は叫んで人を呼ぶだろう。進一の公務員の人生が終わる。そんな事になってしまってからでは遅い。進一はヒトメボレの機能をゲーム店員から聞かなかったことを、呪った。進一は、昨日の会話から二人の関係が進み、とてつもない怖い関係になってしまった気がして心配になってきた。とにかくゲームの詳細を聞き出して今後の慶子との対応を考えなければならない。ラブゲームはスマホの中で対戦するのか、を確認しておきたい。リアという単語が気になって仕方ないのだ。
 他の係員は席を立ちながら進一たちを見た。
「係長、昼休み時間を使ってのご指導、ご足労様です」
 清水がねぎらいの言葉を掛けてきた。進一は頭をかきながら言った。
「いやあー 小山内くんの手弁当だものな、断れないよな」
「えぇ? 係長、何を仰ってるのです? リアラブゲームの恋人関係になられたんですから、堂々となさってください」
「えぇえっ、清水さんはリア・ラブゲームを知っているのですか?」
「ええ、これ昨日ゲーム店で購入しました」
 そう言った清水は胸ポケットからスマホを取り出して進一の前に差し出してみせた。
「なんか、結構、買ってる人がいるみたいですね。どんな人に一目ぼれするのか楽しみです」
「えぇえっ、どういうこと?」
「係長さん、ゲームの説明を聞いていないのですか? では、これからあたしが詳しく説明しますから会議室へ行きましょう」
 慶子がしびれを切らしたように清水との会話を遮って入ってきた。
「そうしてください。わたしは食堂へ行きますので」
 そう話す清水の隣には同じ係員の高橋こづえが立っていた。
「いいなぁ、慶子さんの手作り弁当かぁ、あたしも作りたいけど料理は無理かな?」
「あたし、料理教室へ行ってるおかげなんですよ。それまで、全くダメでした」
 慶子が弁当を胸の前に持ち上げて言う。
「そうなの? あたしも行こうかな、今度、教室のこと、教えてね」
 進一は二人の会話を聞いて、ますます、不安が増してきた。手弁当を一緒に食べるのはきょうだけと言ってるだろ? 進一は心中で思う。これからどうなってしまうのか? 進一の脳内に不安が増殖する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

無垢で透明

はぎわら歓
現代文学
 真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...