73 / 134
第29章 初めての学園
1話
しおりを挟む
橋本は尚子とともに、ベッドに横たわる田所学園長の前に歩み寄った。学園長は目を閉じていたが、尚子が声を掛けると、目をわずかに開いた。
しかし、顔を橋本たちに向けることはなく天井に目を向けたままだった。
「橋本さん、お恥ずかしい限りです。だんだんとできていたことができなくなってくる。こんな体です。
元気な頃のわたしは、どんな障害も乗り越えられない障害はない、と思って生きてきました。
しかし、病気という障壁は別でした。この学園を作り、成長したたくさんの生徒が巣立っていく姿を見送りながら彼らの将来に胸を高鳴らせていました。卒業した彼らは自分たちの根を地面にしっかり張り活躍していることを知ることが何より励みになりました。彼らの躍動する姿を知ると、うれしさで体が高揚したものです。若いエネルギーを絶やしてはいけない。病気になった自分の体と精神を鼓舞させてきました。
今までの自分の人生を納得させるためにも、これからの学園と未来を担う子どもたちを躍動させたい、それにはどう行動すればいいのか。それを考えると、この体ではこれから何も行動できない。今は、後継者を育てて来なかったことを、後悔する毎日です。こんな思いを抱いたまま、死ねません。今までの行動に悔いはない、と思っていましたが、後継者を育てることもせず、この学園が閉校することになってしまうと思うと、己のふがいなさに悔しさが募るばかりです…… このままではわたしのやってきたことは自己満足で終わってしまう。永遠に続いてこそ、真の教育である。それを心から切望しました。
そうして、人材を見つけられず、悶々と過ごしてきましたが、3年前、あなたにお会いし、私の中の闇に光がともりました。あなたは、私の光となりました。
あなたには教育理論など基礎的な知識はありませんが、正義感、包容力、博愛に満ちています。そして、あなたの活動は、悩み苦しむ人へ、あなたが共感した著名人の思想を紹介する、まさに、あなたなりの教育そのものである、と私は感心しました。
そこで、わたしは、あなたの脳に、私の脳を物理的に移植することで、優秀な後継者を確保する見通しが立ちました。
その方法は安田尚子さんから後ほど、詳しい説明を受けてください。彼女は医療器具の発明に貢献できる能力を持った優秀な人材です。後継者となったあなたに、教育パートナーとして、力強い右腕になってくれるはずです。
これからの話は、私の私的なお願いで恐縮なのですが、わたしの妻をあなたに託したい。あたしが彼女に与えられなかった幸福を、あなたが与えていただきたい。彼女は強大な超能力を持っています。若い彼女に、怨念によって、彼女の超能力の制御が破壊され、破壊的な邪心パワーが世界に放出されようとしています。しかし、彼女の制御があなたなら可能です。いや、あなたにしかできない。あなたを後継者にした最大の理由は彼女の超能力の完璧な制御のためです。彼女の超能力者である父親もしのぐほどです。彼の父親である国王は、母国の安全のため、制御が不能となりつつある彼女を、国外追放しました。そんな思惑があることなど、彼女は知るよしもなく、日本に来ました。
彼女はあなたを必ず愛するようになります。あなたにはそう言う超能力があります。あなたは感じておられないようですが、誰もがあなたに心を開かせることのできる魅力、それは、あなたにしかない超能力です。
あなたは気づいておられないようですが、あなたはルポライターとして、数々の著名人の取材をして、的確な質問で核心に触れた著名人の回答を引き出してきました。心を開かせ真の回答を得た。その記事は、あなたは悩める人の案内になればと取材したのでしょうが、著名な有識者にも大変好評でした。
これから、あなたにはその特殊能力を山野櫻子さんに全力を注いでいただきたい。彼女はとても悲しい生い立ちを背負って生きてきました。アラビアーナ国2000年の怨念を背負っています。その怨念はすさまじいエネルギーです。それを鎮めることができるのはあなたの超能力だけだからです。
どうか、お願いです、あなたにこの学園の将来、日本の将来、世界の将来とも言える、教育界の本拠地となる学園を継承していただきたい……」
そう言って、天井を見て淡々と話していた田所は、突然、唇を小刻みに震わせた。続きの言葉を待っていた橋本は隣に立つ尚子を見た。
しかし、顔を橋本たちに向けることはなく天井に目を向けたままだった。
「橋本さん、お恥ずかしい限りです。だんだんとできていたことができなくなってくる。こんな体です。
元気な頃のわたしは、どんな障害も乗り越えられない障害はない、と思って生きてきました。
しかし、病気という障壁は別でした。この学園を作り、成長したたくさんの生徒が巣立っていく姿を見送りながら彼らの将来に胸を高鳴らせていました。卒業した彼らは自分たちの根を地面にしっかり張り活躍していることを知ることが何より励みになりました。彼らの躍動する姿を知ると、うれしさで体が高揚したものです。若いエネルギーを絶やしてはいけない。病気になった自分の体と精神を鼓舞させてきました。
今までの自分の人生を納得させるためにも、これからの学園と未来を担う子どもたちを躍動させたい、それにはどう行動すればいいのか。それを考えると、この体ではこれから何も行動できない。今は、後継者を育てて来なかったことを、後悔する毎日です。こんな思いを抱いたまま、死ねません。今までの行動に悔いはない、と思っていましたが、後継者を育てることもせず、この学園が閉校することになってしまうと思うと、己のふがいなさに悔しさが募るばかりです…… このままではわたしのやってきたことは自己満足で終わってしまう。永遠に続いてこそ、真の教育である。それを心から切望しました。
そうして、人材を見つけられず、悶々と過ごしてきましたが、3年前、あなたにお会いし、私の中の闇に光がともりました。あなたは、私の光となりました。
あなたには教育理論など基礎的な知識はありませんが、正義感、包容力、博愛に満ちています。そして、あなたの活動は、悩み苦しむ人へ、あなたが共感した著名人の思想を紹介する、まさに、あなたなりの教育そのものである、と私は感心しました。
そこで、わたしは、あなたの脳に、私の脳を物理的に移植することで、優秀な後継者を確保する見通しが立ちました。
その方法は安田尚子さんから後ほど、詳しい説明を受けてください。彼女は医療器具の発明に貢献できる能力を持った優秀な人材です。後継者となったあなたに、教育パートナーとして、力強い右腕になってくれるはずです。
これからの話は、私の私的なお願いで恐縮なのですが、わたしの妻をあなたに託したい。あたしが彼女に与えられなかった幸福を、あなたが与えていただきたい。彼女は強大な超能力を持っています。若い彼女に、怨念によって、彼女の超能力の制御が破壊され、破壊的な邪心パワーが世界に放出されようとしています。しかし、彼女の制御があなたなら可能です。いや、あなたにしかできない。あなたを後継者にした最大の理由は彼女の超能力の完璧な制御のためです。彼女の超能力者である父親もしのぐほどです。彼の父親である国王は、母国の安全のため、制御が不能となりつつある彼女を、国外追放しました。そんな思惑があることなど、彼女は知るよしもなく、日本に来ました。
彼女はあなたを必ず愛するようになります。あなたにはそう言う超能力があります。あなたは感じておられないようですが、誰もがあなたに心を開かせることのできる魅力、それは、あなたにしかない超能力です。
あなたは気づいておられないようですが、あなたはルポライターとして、数々の著名人の取材をして、的確な質問で核心に触れた著名人の回答を引き出してきました。心を開かせ真の回答を得た。その記事は、あなたは悩める人の案内になればと取材したのでしょうが、著名な有識者にも大変好評でした。
これから、あなたにはその特殊能力を山野櫻子さんに全力を注いでいただきたい。彼女はとても悲しい生い立ちを背負って生きてきました。アラビアーナ国2000年の怨念を背負っています。その怨念はすさまじいエネルギーです。それを鎮めることができるのはあなたの超能力だけだからです。
どうか、お願いです、あなたにこの学園の将来、日本の将来、世界の将来とも言える、教育界の本拠地となる学園を継承していただきたい……」
そう言って、天井を見て淡々と話していた田所は、突然、唇を小刻みに震わせた。続きの言葉を待っていた橋本は隣に立つ尚子を見た。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる