蜃気楼の女

窓野枠

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第21章 学園

2話

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 櫻子は園長と思われる紳士の前にゆっくり腰をくねらせながら、一歩ずつゆっくり歩く。彼が座る机の前で、腰に右手を当て、口を半開きにしてから、唾液が絡んだ怪しく光るベロで唇をゆっくりなめ回した。足を交互に組み替え、右足を前に出し、コートの裾から白くて細い足を差し出した。コートの間からはみ出した腿の前ボタンを下から1個ずつ、外していく。それはゆっくり、ゆっくりと、ただ、黙ったまま。学園長も黙ったまま、櫻子の全身をつま先から頭頂部までゆっくり、なめるようにその様子を見守る。園長は前ボタンを外す櫻子の体からやがて現れるふくよかな乳房を固唾の飲んで見守った。その間、30秒ほど、空気の張り詰めた時間が過ぎた。閉じていた園長の口が時間とともに、櫻子の開けた口と同じくらいに開き始めた。ぽかんと開けた園長の口から奥歯が見えたとき、すっかり顔の表情はにやけていた。櫻子は自分の全身をなめ回す学園長を見て、ついに、エロじじいに成り下がった、とほくそ笑んだ。あたしの魅力で悩殺してやったわ。これから園長はあたしのものよ。そうなると、櫻子は確信した。やがて、にやけた学園長が正気に戻ったように、顔を正常に正すと、やっと言葉を発した。
「長旅、御苦労様でしたね、櫻子さん」  
 櫻子に向けられた暖かな笑顔を崩すことなく、学園長が椅子から立ち上がり、櫻子のほうにゆっくり近づいてきた。  
「何? 長旅って? 櫻子って? どういうこと? このおじいさんも、超能力者なの?」  
 学園長の初めての一言に驚いた櫻子は、園長の歩みを遮るように言った。  
「学園長さん、きょうからあなたとバトンタッチよ、この学園はあたしが引き継ぐの…… あたしの新しい学校を造るの…… あなたは隠居してくださるかしら?」
  そう言った櫻子は、歩み寄る学園長を突き放すように学園長の左肩に、櫻子の右手を置いて近づくのを阻止した。そのまま、右手を引き、学園長から遠ざかり、傍らに置かれた豪華な革張りのソファーのところまで来た。おもむろに、着ていたコートを颯爽と脱ぐ。厚手のコートの下から薄手のクリーム色のワンピースが現れた。春先というのに透けたタイトな生地の服で、均整の取れた彼女の美しい体を強調する出で立ちだ。櫻子はコートをテーブルの上に置いて、ソファーに静かに座る。白くて若々しい肌を強調した太ももが見えるように、スカートの裾がまくれ上がるように、意図的に座り、片足を高く上げてから片側の太ももに乗せてクロスさせた。
 「先生、さあ、お隣、よろしくてよ……」
 ソファーに浅く座った櫻子は、片手で櫻子の隣のすぐ空いているスペースを手で示し、その場所へ座るよう学園長に促した。櫻子のナイスバディーに見とれていた学園長は、櫻子をまた改めてつま先から頭頂部に掛けて見つめた後、電灯にまとわりつく蛾のように、ゆらゆらとソファーに近づいた。学園長が隣に腰を下ろし、両手を自分の太ももの上に置いた。櫻子は学園長の右手の上に自分の左手を重ねた。すると、櫻子の手に、学園長が手をさらに重ねてきた。学園長がほほ笑みながら言った。  
「若い人の手はすべすべでいいですね」  
 学園長は太ももに乗せてきた櫻子の手を両手で挟み込み固定してから自由を奪うと、慈しむようになでた。聖人君子と思っていた学園長らしからぬ行動に、櫻子は少し驚いた。  
「先生、では、運命共同体と言うことでいいのかしら?」  
 櫻子がそう言いながら、隣に座る学園長の顔を下からのぞき込む。所詮、こいつもあたしの体でふぬけ同然になるのだ。櫻子は学園長の本性を垣間見た思いだった。  
「きみのような美人と、これから働けるなんて幸せです。ああ、もちろん、全権委譲はあなたのこれからの成果を見てからお願いします。当面は、学園長代行という肩書きでお願いします…… それにしても、こんな気持ちがこの年齢になった今も、まだ、自分にあったんだと思うと、うれしいです。ああ、体の芯からパワーがよみがえってくる気がします……」  
 学園長は櫻子の手をきつく握りながら、櫻子を見つめていた。櫻子は手を握られたら、速攻、押し倒され、ソファーの上でエッチするのか、と思ったが、学園長はただ、櫻子の全身を何度となく見つめていた。櫻子は自分がそんなにも美しいのか、と思ってまんざらでもなかった。
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