蜃気楼の女

窓野枠

文字の大きさ
上 下
12 / 134
第3章 児玉進一

2話

しおりを挟む
 4年前、尚子は東大入学試験日の前日に獲得した究極の超能力「魔性力」をいつでも自由に使えるようになっていた。儀式後、山野櫻子に使い方を伝授され、好きな進一を、進一に気づかれずに、自宅に招き入れて、進一を自由自在に、気ままにもてあんで楽しんでいた。その進一は尚子にもてあそばれていることを全く知らない。世間体を気にする進一は、尚子が大好きで、いつでも抱きたい衝動に駆られていることを我慢して生きている小心者だった。その思いを、尚子は知らない。進一は尚子が好きで、大事にしたいから、本当にお互いが好きになってから、肉体的な関係になろう、と真剣に尚子との将来を考えていた。
  ところが、尚子は進一が尚子の体を求めてこないから、進一から好かれていない、と思っていた。魔性能力を獲得した尚子ではあったが、そこまで相手の思考を分析する超能力は獲得していなかった。言ってみれば、肉体派魔性能力者だった。セックスすればお互いが気持ちよくなるのだから、また、気持ちいいことをするために、お互いを好きになる、そういうふうに、考えていた。体だけ大人に、魔性の女になっていた。清楚、可憐さをイメージさせる姿態を備えていたが、実は一般人は引いてしまう変質的な性癖になっていた。それは進一が原因でもある。好きな進一を振り向かせたい一心で特化した変質的な求愛行動をしてしまうようになっていた。好きな相手なら恥じらいなく直球勝負という性格。そういう得意な性癖は、進一が尚子を好きになった要素でもあった。魔性の力を得た尚子は、セックス大好き体質、人には言えない性癖に変貌していたことを進一は知る由もない。進一の記憶にある尚子は無邪気な、清楚で清純な尚子のままだった。尚子はそんな得意な、異常な性癖を好きな進一に知られてしまうことを恥ずかしいと思っていた。恥ずかしい、という乙女の意識は、魔性に変身しても進一に対する気持ちだけは残っていた。だから、進一のために、進一が好きな純粋無垢な尚子を演じようと思っていたが、どうしても、湧き上がる変質的な性癖を抑えることができない、我慢できない。進一と会うと、抱きたいし、抱かれたい、肉棒を弄びたい、いじくり回し、思いっきりくわえたい衝動に駆られて、自制が効かず、その行動を防ぐため、言葉で進一をいたぶる。それがまた楽しく快感だった。困った顔をする進一を見るのが楽しかった。まさに、変態だった。尚子は職場で進一に毎日会うのが楽しい。きょうはどうやって困らせてやろうか、と考えると、わくわくして、股間がすぐに濡れた。しかし、会うのが苦しかった。自分の変質的な性癖を隠さなければならない。進一を愛すば愛するほど、進一はよそよそしくする。それが悲しくて苦しかった。
「今週の土曜日、進ちゃんが遊びに来るの楽しみだなあ、お父さんも久しぶりに会えると言って喜んでたよ」  
 尚子はそういうたわいないことを話しながら、商品のバーコードをスキャンし、データー化していく。  
「尚ちゃん、作業しながらの、私語は慎みましょうね」
 進一はよそよそしく指導する。そして、尚子は作業を止めて、進一の目の前に近づいて、進一の顔をにらみ付けると、自分の足を軽く持ち上げると、進一の足の甲を一気に踏みつけた。
「アア、痛ーい、何するのーー?」  
「進ちゃんがあたしに意地悪するから、仕返しよ! まったくあたしに意見するなんて、身の程知らずでしょ? 進ちゃんはあたしの下部しもべでしょ?」  
「まいったなあ、もう、そんな、訳の分からないこと言わないで、土曜日遊びに行くんだから、勘弁してよ、尚ちゃん」  
「あらあ、苦しくなると、尚ちゃんって呼ぶのね…… ま、いっか? フフフ 許してやるね、じゃ、ここにキスして」  
 右手の甲を進一の前に差し出す。どうせ、手を払われるのが落ちである。尚子は心の中で、すごく困った顔の進一を見ることが幸せだった。本当に心底、変態だった。さて、土曜日、進一が遊びに来たら、どうやっていじくり回してやろうかな、否、歓迎してやろうか。進一のことを考えただけで、わくわくして、もう、楽しくて、土曜日が待ち遠しかった。  
 進一は土曜日を指折り数えていた。  
「ああ、いよいよ、土曜日になるな、お父さんにどういう顔で接したらいいんだろ?」  
 尚子の父・安田仁から尚子の高校時代から絶大の信頼を得ていた進一は、久しぶりに尚子邸を訪問することを考えると、気が重かった。東大受験前日は、進一のとって、魔の変換点だった。あれから、人生の進路が大きく変わったと言っていい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!  コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定! ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。 魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。 そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。 一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった! これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。

大人の趣味

ららあ
大衆娯楽
大学を卒業してアルバイトに励む遠藤トオルには、誰にも言えない秘密がある。 好きな女性がいても告白ができない。アプローチすることができない。なぜなら彼は童貞で自信が持てなかったからだ。 そして、特殊な性癖を持つおまけ付き。好きな人の排泄音を聞くだけで、絶頂する変態童貞男の物語。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

澪峯国後宮秘水譚〜乙女の秘密は漏洩禁止!〜

紫藤百零
大衆娯楽
これは、おしっこ我慢を強いられる、後宮に住まう乙女たちの裏話である。 淑女たる者、他人に尿意を悟られてはならないーーそれが国で最も高貴な妃たちならなおさら。 ここ、澪嶺国は酒宴と茶会を好む文化圏。長時間に及ぶ宴は、姫たちの膀胱を蝕んでいた。 決して市井に漏れることのない、美姫とおしっこの戦いをここに記録する。 短編連作のためどこからでも読めます。 ※設定資料は随時更新 「幼皇后は宴で限界!」【完】 いつもより長時間に及ぶ宴で密かに尿意に耐える皇后(15)の話(おしっこ我慢/おもらし) 「幼皇后は秘密の特訓!」【完】 初めての宴後侍女たちの前で失敗してしまった新米皇后(14)が我慢の練習をする話(故意我慢/おもらし) 「側付きたる者毒味は必須!」【完】 差し入れられた練習用のお茶の安全確認のために毒味して限界になる皇后付き侍女の話(故意我慢/限界放尿) 「崖っぷち妃の極限絶奏!」【完】 宿下がり間際の崖っぷち中級妃(24)が宴の演目中必死で我慢を続ける話(おしっこ我慢/限界放尿/おもらし)

おしがま女子をつける話

りんな
大衆娯楽
透視ができるようになった空。 神からの司令を託され、使うことに......って、私的に利用しても一緒でしょ!

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい 11/9追記 何一つ完結しておらず中途半端だとのご指摘を頂きましたので、連載表記に戻させていただきます。 紛らわしいことをしてしまい申し訳ありませんでした。 今後も自分のペースではありますが更新を続けていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。 きんもくせい

処理中です...