触れるな危険

紀村 紀壱

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2部 本編のその後の話

2部 4話 現在進行形で悔いている*

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「俺の魔力が?」
「ちらっと見たが、変な馴染み方をしてシャルトーの中に留まってる」

ウォルトの説明に、ギィドは目をすがめて訝しげに聞き返す。

「だが放っててもそのうち治るんだろ」
「普通はそうなんだが今回は異例過ぎてな、……完全には無理かもしれない」
「……だからってなんで俺が」
「ギィド、お前の気持ちも分かるけどな。一応、痛み分けと言うか、アイツおかげでお前が生きてるってのも嘘じゃあない」

ウォルトの言葉にギィドの眉間の皺が深まる。そんなの頼んじゃいないといった言葉を言うべきではないと分かっているが、それでも多少の抗議はしたい。
ギィドの顔を見て、申し訳がないと頭を下げるウォルトの珍しい姿に、本当に今回は仕方がなかった事なのだと思うのだが。

「ほんのちょっと、上手くいけば生身の腹あたりに手をあてればシャルトーの中のお前の魔力が勝手にもどってくるはずだから」
「上手くいかなければ?」
「その場合はしばらく接地面か時間を増やしてやるとか……」
「っち」
「コレも迷惑料だ。休みと、手当はつける」

遠慮ない舌打ちにウォルトは苦笑を返しつつ条件を重ねる。

――あの日、特別任務の最中、と言うか終わりに。

家を出た瞬間、まるで雷にでも打たれたかのような、全身を貫いた衝撃を覚えた瞬間からの記憶が無い。
気がつくと見慣れたギルドにある仮眠室のベッドの上に居て、天井を見上げているのだから驚いた。
事の顛末を聞くと、あれから丸一日が経過して、しかも一時は命の危険があったと言われても、僅かに軋むような身体の痛みからはピンとこない。
チラリと横目で見た、隣のベッドで横になっているシャルトーの顔色の方がよっぽど悪く見えた気がしたが、ソコにはあえて触れず。
とりあえず一旦自宅で休め、という言葉に大人しく頷いて、翌々日に出勤してみればウォルトに呼び出され。
開口一番、シャルトーの見舞いに行けと言うのだ。
当然「何故」という疑問を投げかければ、セレンとウォルトがざっくりとした魔力の流れが云々という説明をしてくれるが、専門じゃない人間には理屈がさっぱりだ。
だが、シャルトーがいなければ、セレンかウォルトか己の誰かが重傷だったと真面目な顔で言われれば、理屈は分からずとも疑っても仕方がない。そして、自分でなければシャルトーの魔力を穏便に引き取ることが出来ず、不調が終わらないか、長続きしそうだと言われたら「そんな馬鹿な」と否定することも出来ない。
しかしながら、今回の事は別に助けてくれと、ギィドが頼んだワケじゃない。
この稼業だ。
いつか何処かで死ぬもんだろうという覚悟はしている。
だから「勝手に助けて余計なお世話だ」と言う言葉でくくってしまっても良かったが。

(アイツが、わざわざ俺の為だって? 絶対、恩を着せてくるだろう……)

シャルトーに借りを作ってしまうなんて、とんでもなく面倒くさい。
ある意味、この見舞いで貸し借りはチャラになるだろうが、それでもシャルトーが「身を切ってギィドを助ける」という選択肢をとった事実を、自分が把握した事を知られるのが煩わしい。
このままシャルトーを放っておいても死にはしない。
とは言え、無視を決め込むのは多少の座り心地の悪さと的なものがなくもない。
ウォルトならまだしも、どこから話を聞いたのか(恐らくウォルトが漏らしたのだろう)ジャグが「流石に身体を張ったってのに放置は可哀想だろう」とお節介に肩を叩いてくるし、あのセレンにも「哀れ」と言う呟きと共に溜め息をつかれ首を振られれば、とんだ人でなしと暗に言われている気分で。
もとを正せばイカレタ魔術師どもの所為だというのに、なぜ自分が批難されているのか。

(納得いかねぇ……)

そう思いつつ、ウォルトに詫びの品を渡されて、ギルドの貴重な正所属員の確保の話なんぞされてしまえば、流石のギィドも折れるしかなかった。
……不調を引きずり続ければ腕が落ちる。ソレを考えれば死にはしないが死活問題とも言えるのかもしれない、と、むりやり自分を納得させながら。
渋々、ソレはもう渋い顔をしてギィドはシャルトーの見舞いに行くことにした。

「それで。アイツに触れて魔力が戻ってくる、ってのは俺の目魔眼で見て分かるものなのか?」
「ん~、自分の魔力の色は見えないだろうな、でもまあ、感覚で分かるだろ」
「感覚?」
「魔力の返還は人によっては虫が這う感じだったり、暖かかったり、羽でくすぐられる感じとか。相性が悪いと傷口に塩を塗り込む感じとか、神経が直接いじくられてる、そんな感覚は様々だが、なんとなく「コレだ」って分かるんだよ」
「おい、最後のは……」
「いやまあ、ソコまで相性が悪くはないだろ。逆にもし相性が良くても……それほど不味いことにはならないはずだ」

僅かに視線を泳がせたウォルトの言葉に、不穏を感じなかった訳じゃない。
しかしそれは、魔力の引き取りに酷い痛みを伴うのだと思ったからだ。
だから、そういった意味ではギィドは覚悟をしていたのだ。
シャルトーの魔力を引き取るにあったって、多少の痛みも耐えてやろう、それで貸し借りは無しだ、そう思っていたのに。




実際は。

「はなッ…………せっ……!!」
「無理、……は、はは、なにこれヤバイ、アンタはどんな感じ? なぁ、ギィ」

痛みに暴れられたら面倒くさいと、シャルトーをベッドに押し倒してマウントを取ったところまでは良かった。
顔を合わせてみたら、想像より何割か弱ってしおらしいシャルトーにほんの少し調子が狂って、同情が湧かなかった訳でもないが。
いまや、だるそうにしていたはずのシャルトーは血色が随分と良くなった顔でギィドを下からギラギラとした眼で覗きこんでいた。
触れた瞬間、確かに「魔力」と言うモノが分かった。
だがこんなにも身体の神経がむき出しにされて、酒を頭から被ったみたいに熱を上げるモノだとか聞いていない。

「アンタ、こうなる事を分かってて来たんだよネ?」
「っ、……ぅ、ち、げ、……っ!」

瞳孔の開いたシャルトーをろくに避ける事もできずに噛みつかれる。

「!? …………う゛、ぁっ………!」
「……ん、はぁー……これ、アレか、……アンタの魔力が原因か……うっま……」

手を振り払えない。
なけなしの抵抗で閉じた口をシャルトーがまるで犬のようにベタベタと舐めて、喉元をしゃぶってくる感覚を気持ちが悪いと思うはずなのに、喉の奥で情けない声が漏れた。
シャルトーの手がギィドの服の下へ侵入してくる。
脇腹に手を這わされると、背骨が痺れて、ますます身体の力が抜けてゆく。熱くてもったりとした何かが流れ込んで思考を掻き乱している気がするのに、同時に何かを『喰われて』どろりと身体が溶けてゆくようだ。
話が違うじゃねぇか、クソッタレ。とギィドはなけなしの気力でもって悪態をつけたのはソコまでだった。

「あ゛……?」

ギィドのシャツを乱暴にたくし上げるシャルトーの動きに、くたりと、支えきれずに身体が傾いだ。
その瞬間、視界がぐるりと回って。
「やばい、ガキじゃないのに」
何か、破れた音がした気がする。そんな事をのし掛かってきたシャルトーの顔をぼんやり見つめながら思う。
シャルトーの顔には汗が浮かんでいるが、先ほどとは違い血行の良くなったその顔は興奮に彩られていて。
「あ゛っ、さわん゛っな……! んぅ゛っ!」
「嘘つき。気持ち良い、だろっ……」
「は、ぁっ……」
下履きごとズボンがズリ下げられ放り投げられるのをろくに止められやしない。
シャルトーが乱暴にギィドの片足を肩に抱え上げる。
みっともない格好だというのに、肌に擦れる布の感触がなくなった事にほっとして、シャルトーの片手が尻をひっつかんで揉まれる動きに、嫌悪どころかギィドの口から漏れたのは熱をおびた吐息だった。
急速に、思考が溶けている。その危険な感覚を知覚しながら、打つ手どころか、すべては手遅れだった。

(ありえねぇ、気持ちがいい。嫌だってのに、なんで――)

ろくに触れられていないというのに中心が頭をもたげる感覚に、息を殺すしか出来ない。
シャルトーの視線がギィドの股間をたどり、眼が弓なりにたわむ、それを屈辱的と頭はとらえるのに、ぷつ、ぷつ、と溢れた先走りが玉を作ってシーツへ落ちてゆく。

「やめ、ろ……」
「ナニを……? 俺、なにもしてないよ? ギィドが勝手に気持ちよくなってるダケだろ」
「尻……いじ……な……」
「少し、触っただけじゃん。……弄るなんて、これくらいしてから言ってよね」
「い゛……っ!?」

ぬぷ、と、どこから取り出したのか、潤滑剤を纏わせたシャルトーの指がギィドの中に潜り込んで、ギィドが背中を反らせて感じ入った。
感じ・・たのだ。
以前は違和感と不快感しか覚えなかったと言うのに。
シャルトーの指がグニグニと、中の肉を掻き分けて奥へ奥へと入り込んでくる。
その動きにまるで陰茎を擦られるときと同じようにぞわぞわっと腹の中から悦楽が生まれていた。

「や、め……ちが、う゛、ぅ……っ」
「腰、揺れてる……そんなに気持ちイイ? な、俺の指、中がすげーしゃぶってるの、アンタ分かってる?」

シャルトーが耐えられないというように吐息を漏らして、引き抜こうとした指に絡みつく胎内を撫でる。

「ほら、アンタの好きなとこ、ココだったよね、今触ったらどうなんの?」
「あ゛……? っ! だ、めだっ、や゛め、……っ!」

シャルトーは唇を舐めて湿らせる。
あのギィドが、自分の指ですっかり溶けている。
その様に言いようのない興奮を覚えながら、以前見つけた前立腺しこりへ指を伸ばせば。
ぼんやりとしたギィドが、不穏な気配に気がついて、シャルトーの言葉を反芻して慌てる。
しかし、それはもう遅い。

「お゛っ――――――!?」
「後だけでイケるんだ」

ぐうっと押し上げられた瞬間、ギィドが目を見開いて身体を強ばらせた。
ぶるぶると太ももが痙攣して、どろり、と勢いのない精液が幹から押し出されるようにこぼれた。


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