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お前はどうしてそうなんだ。

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「いや、お前、誘ってんだろ。それは……」
「……え?」

 我ながらなかなか最低な言動だ。
 普通のアンドロイドなら知らないですんだ事を、俺のせいで感情なんて、あるかどうか分からないあやふやなモノに振り回され、苦しんでいるであろうフジモリを前に。
 俺はもう、誤魔化しようのない欲を覚えている。

「お前、セクサロイド機能と相性が悪いって言ってただろ、アレは本当はどういうことだ」
「……それは嘘ではない。セクサロイド機能を使ってマサノブに触れられると、普段よりより一層、処理に時間を要したり途中で中断したりする。それを、疑似感情が『怖い』と認識して、行動の制御が上手くいかなくなるんだ」
「なんで中断したり、するのが『怖い』んだよ。壊れる訳じゃないんだろ?」
「それは、マサノブが……」
「俺が、なんだよ」
「処理が遅いのは、嫌いだろう。それに万が一、誤作動でマサノブを傷つけることがあるのは……『嫌だ』」

「口付けで噎せただろう。苦しませてしまった」と、若干、肩を落としたフジモリは、どうやら最初のキスで失敗した事を気にしてるのだと知って。

(はあ~~~~????)

 クソデカい息を吐いてしまったのは悪くないだろう。
 俺のため息にフジモリがビクリと震えたが、お前は少しは学習しろよ、と思う。
 勝手に人様の発情云々を計測したりしていたくせに、なんで今それを発揮していないのか。

「来い」
「ッ……マサノブ……!?」

 フジモリの腕を掴んで引けば、さしたる抵抗もなく俺が引っ張るままに後をついてくる。
 そのまま寝室へ向かえば、ほんの少し歩みが遅くなりかけたが、それでも止まることはなく。

「ほら、座れ」
「マサノブ、一体、何を」
「なにをって、予想はついてるだろ。ヤるぞ」
「それは……待て、何故」

 ベッドに座るように促せば大人しく従う癖に、俺の言葉にフジモリが目を白黒ならぬ、瞳の中のレンズの絞りがきゅるきゅると音がしそうな勢いで、広がったり絞られたりを忙しなく繰り返している。
 人間で言うなら完全に混乱状態なのだろうフジモリに、俺はおかしくて笑い出しそうになっていた。
 声を出さずにすんでいるが、口の端と目元がヒクヒクとひきつるのを感じながら。 

「クソ、お前、かわいいな」
「!?」
(あ、本当に固まりやがった)

 俺の言葉に、触れてもいないのにフジモリが目を見開いてフリーズする。
 その様子にとうとう耐えられなくなって、ふっと笑いが零れた。

「ほら、脱げよ」
「っ……ま、待ってくれ、本当に、する、のか?」
「するって言ってるだろ。準備は人間と違っていらないんだろ?」
「それは問題ないが、何故、急に。それに私は、嫌だと」
「急じゃねえよ。お前が『不具合が~』なんて言い出してなかったら、あの日にでもやってたわ。それにする事自体は『嫌』じゃないんだろ」
「だ、だが」

 脱がそうと上着の裾を掴んだ俺の手をフジモリが掴む。
 俺を制止しようとしながらも、実際は俺が怪我をしないよう、結局の所、俺の動きを止められずに、ただ細かく振動しながら添えるだけになっている。

「嫌いになんねーよ、べつに。お前の処理が遅かったり、止まったりするのなんて慣れてんだよ。それくらいで嫌いになるかよ」
「!」
「それに俺を怪我とかいうのだって、大丈夫だろ。ハギが言うにはお前はオールグリーンなんだろ」
「それは、しかし……」

 シャツを引っぺがして、上半身裸に為れたフジモリの瞳が揺れている。
 顔を近づければ、目を見開きながらもほんの少し首を傾ける。
 嗚呼、キスがしやすい角度だ。

「ん」
「くち」
「ッ……」

 チュッと軽く押しつけて離して、短く言えば、ゆるりと薄く開かれる。
 隙間へ舌を滑り込ませれば、意外にも、ぺとり、と舌が迎えてきた。
 そのまま擦り摺り合わせれば、ざらざらとしつつもヌルヌルと柔らかく絡む感触に、この前のフェラを思い出してぐうっと腰が重くなる。

「ぅ、っく……っ………」
「はっ、一回で、随分と上手くなったな?」
「はぁっ、っ、ま、待ってくれ、違う。マサノブ、駄目だ。おかしい、何か」
「フジモリ?」

 自分からも仕掛けてきた癖に、様子のおかしいフジモリに首を傾げる。
 妙にもどかしげに、はくはくと、口を動かし、途切れ途切れに言葉を紡ぐ様は、処理落ちしかけているようにも見えて。

(確か、鎖骨の間だったか?)

 ほんの少し心配になって、フジモリの鎖骨の間に人差し指を押しつける。
 ふわっと指先の皮膚が淡く光ったのは、指紋認証された合図だ。
 フジモリの胸元にあまり起動した事がない、簡易プロセス画面が浮かび上がり、ソコに目を走らせるが、ざっくりと見た感じ結果は綺麗にグリーンだ。
 ただ、いつもと見慣れないアプリの立ち上げが……

「……セクサロイド機能か」
「すま、ないっ、勝手に機能が起動、した。おかしなコードが、走って……マサノブの舌が触れると、電気信号が弾けるよう、な……」
「フジモリ、落ち着け」

 おかしな事に、どうやらフジモリの意図とは別に動いているらしい。
 アプリの暴走か? と思うが、名前の横についたアイコンをどこかで見た記憶があると、頭を捻ってどうにか思い出す。
 あれか自動立ち上げ機能つきアプリか。
 事前にチェックを入れておけば、アンドロイドや持ち主の指示に関係なく、勝手に状況を判断して立ち上がるアプリの類いだ。
 事前にONにした記憶はないが、きっとハギあたりの仕業だろう。

「マサノブ、機能をOFFにする許可を」
「なんでだ、丁度良いだろ、そのままONしておけ。ほら、横になれよ」

 プロセス画面を立ち上げるために触れた指からも逃げるように。
 身を捩って俺から距離を取ろうと後ろに身を引くフジモリに、都合がいいと肩を押せば、簡単にその身は寝台に横たわった。

「待ってくれ、そんな」
「そんなに俺に触れられるのが嫌か」

 ワザと、酷い言い方をしてやれば。

「違う、嫌ではない。ただ、どうなるのわからず『怖い』と感じる。疑似感情が邪魔をして、正常な判断が」
「だから良いって言ってんだろ。ポンコツのくせに今更、変な心配するな。かわんねぇよ。どんなんでもお前の事が、好きだよ」
「…………好き、なのか」
「お前、人のことAS患者と断定しておきながら何言ってんだ」

 急に真顔になってぽつりと繰り返すフジモリに呆れ、ふと、ああそういや言ってなかったな。と気づく。

「ちゃんと、お前の事が好きだ……って、てめえ、なんで耳をふさいでんだよ」
「いい、これ以上の情報は、オーバーヒートする」

 流石に誠実さがないかと、せっかくプライドやらを放り投げて、ちゃんと告げようとする俺にその態度はなんなんだ。

「あーもう、面倒くせぇなお前」
「待て。まだ計算が、終わって、っ、ぬ、脱がすなっ」
「脱がさねぇと出来ないだろ」

 一体何を計算しているのか。
 人間で言うところの心の準備が、とでもいう所なんだろうが。
 身を捻り背を向けるフジモリのズボンに手をかけれて容赦なく引っ張れば、安物の腰の部分がゴムのそれは容易くずるりと下がり、ボクサーパンツに包まれたケツが目の前にまろびでる。
 女のそれとは違い少し小振りで、しかしキュッと引き締まったそれを思わず鷲掴めば、むっちりとした肉の感触が手のひらに返ってきて、悪くないな、と思った。

「っひ」
「あー……なんだ、なるべく優しくしてやるから」
「い、いい。優しくしなくて良い。酷い方が……これ以上、手放せなくなる情報を知りたく、ない」

 だから、なんなんだよ、それは。
 今までの自分の所業を省み得れば、フジモリの言い分は分からなくないし、自業自得だが、あまりにずいぶんな言われようだ。
 まあ、実際の所、優しくしてやると言いつつ、あまり自信はなかった。
 身を捻り嫌がる素振りはあくまで、待って欲しいというそれで。右手でやわく押し返そうとしつつも、左手は俺の服の端を縋るように掴んでいるのだ。
 その仕草は妙に、虐めてしまいたい心地になる。
 フジモリのガタイの良い体格を、こうやって組み敷くなど普通ならあり得ない状況なのに、ほんの少しの力で押し倒せていることに、征服欲が刺激されているのだ。
 弁解をするなら、今まで俺はわりとお互いにノリの良くさっぱりとした相手との、スポーツみたいなセックスの方が多いのだ。
 こんな風に、組み敷くように始めることなんて、プレイ的なモノでしかなくて。

「だから、手放さないって言ってんだろうが。聞けよ。ちゃんと」
「しかし、セックスが、上手く、いかなかったらッ……」
「セックスが上手くいかなかったら捨てるとか、俺を舐めてんのか」
「離婚の、30%は、性行為の相性が」
「70%は違うだろうが」
「これ以上、マサノブのデータを増やすは『怖い』」
「人の性癖ぶち壊しといて怖いで逃げれると思うなよ」

 嗚呼全く、馬鹿らしくなってきた。
 服を脱ぎ捨てながら、アホみたいな問答を繰り返している。
 頭が痛いのは会話もだが、俺の下でパンツ一丁で固まっている間抜けな格好のはずのフジモリ相手に、俺の息子がしっかり反応し始めている所もだ。
 フジモリの盛り上がった胸筋はやたらと立派で、腕組みをさせれば谷間が出来そうだ。パイズリなんか出来るかもな、と言う発想が出てくるあたり、本当に俺の頭は沸いている。
 それもこれも、フジモリのせいだ。

「オイ、お前は誰のもんだよ」
「マサノブのモノだ」

 尋ねれば、間髪入れず返してくる。

「なら、100%全部、俺のデータをしっかり保有しとけよ」
「あ、あぁ……」

 なんだ、お前。そんな顔が出来んのか。
 目を見開いたフジモリが、息をはくように頷いて。
 眉が、グッと眉間に皺を寄せながらも下がる。口の端が、戦慄きながら僅かにあがる。
 それは歪な笑みだったが、なんとなく『感情がある』なら心底コイツが喜んでいるように見えた。
 ASであろう事を指摘してきたときには、すました顔をして「俺の意のままに」という態度を腹立たしく感じていたが。
 実際はどうだ。
 頭の先からつま先まで、俺のモノでありたいらしい。
 俺のモノにしかなりたくないらしい。
 俺に嫌われたくなくって、捨てられたくなくて必死な、自壊プログラムなんて物騒なモノを勝手にインストールする、アンドロイドとして恐ろしく危険で、狂ってしまった哀れで可哀想なフジモリ。
 そんなコイツを、馬鹿みたいに可愛くって仕方がなく思えてしまうのだから、俺はやっぱり間違いなくAS患者なのだろうな、と思いつつ。

「いい加減お前も覚悟を決めろよな」

 ペロリと唇を舐めて、フジモリの纏った、邪魔な最後の一枚を引っぺがしにかかった。


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