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2001年・冬
第92話「天網恢恢疎にして漏らさず」
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松田に守られている間、宮内は私の代わりにこれまで見てきたことを話せるだけ披瀝した。
水の魔物の一件、度重なる暴力行為、劣等生の扱い、学芸会での一件、非常識な漢字テスト、そして先ほどの美術室での出来事。特に記憶に残るものを中心に、早口で話す。それを聴き、松田は適度に頷きながらメモを取っている。
「そんなことが起きていたなんて……」
松田が、左手で頭をおさえながら嘆息する。
「松田先生にだけでも、もっと早く相談に来ればよかったですね。そうすれば、池原くんがここまで苦しまずに済んだかもしれないのに……」
宮内が、悄然として俯きながらつぶやく。
「いやいや、悪いのは、こんなになるまで気付けなかった私たちだよ。済まなかったね。私はもともと一匹狼な質だし、養護教諭って立場もあって、周りの先生の事情はそこまで知らなかった。まあ、そんなことは言い訳にしかならないね。首藤先生が何やら悪目立ちしているらしいことは小耳にはさんじゃいたけど、まさかここまでひどいとは思ってなかった。気付いてやれなくて申し訳ない」
松田が、神妙な顔つきで頭を下げる。
「ありがとうございます、松田先生」
ここまで黙っていた私が初めて口を開いたので、松田は意外そうな表情を浮かべている。
「宮内さんも、ありがとう。爪弾きにされている僕のところに来てくれるなんて思ってもみなかったけど、嬉しかった」
今ごろ、首藤が私を捜して駆けずり回っているだろうかと思いつつも、いくらか安堵し微笑を湛えた。
「そんな、お礼なんて。もっと早く行けばよかったのにね」
莞爾として笑いながらも、彼女の眼はまた少しばかりうるんでいるようだった。
「僕にも、味方はいたんですね」
二人に視線を向けて言うと、双方とも、「当たり前でしょ」というような目をして頬を緩めた。
「ここか池原ぁ!!!!!!」
粗暴な音を立てて扉が開くと、視線の先には憤怒の形相をした首藤がいた。
「貴様ぁ、教室を荒らした上に、俺の大事なノートパソコンを壊しやがったな! ただじゃおかねえ!!」
大事なものなら、あんなところに無防備に出しておかずに職員室にしまっておけよとツッコむのは、心の中だけにした。
「今、この子たちと大事な面談中なんですよ。ノックもせずに入ってくるなんて非常識じゃないですか? 首藤先生」
松田がすぐさま私たちを庇い、前に出て毅然とした態度で述べる。
「この子たち……? あっ、そういえばお前、途中でトイレに抜けたと思ったら、こっちに来てやがったのか!!」
持ち前の観察力の鈍さを遺憾なく発揮し、ようやく宮内の存在に気付く。
「私、前から先生のこと、間違ってると思っていました」
宮内が震えた声で、しかしはっきりと首藤の眼を見て言った。
「なんだと? お前もこのゴミと同じように先生に楯突く気か!」
首藤が、新たな呼び名でもって私を指さす。
「『池原は、首藤先生に反逆する悪い奴だ』っていう恐ろしい文章、テストにありましたよね。私も悪い奴で結構です。私は、池原くんや松田先生と一緒に闘います!」
「ぐっ……貴様ぁ」
宮内の舌鋒鋭い反撃に、たじろぎつつも怒りを示す。
「そういうことですよ、首藤先生。学校は、あなたの独裁王国ではない!」
松田が、首藤を睨みつけながら強い語調で言い放つ。
「うるせえ! ただの保健のババアが生意気な!」
「ババアで結構。そろそろ、校長が出張から戻る頃だと思いますので、お話はそれからゆっくりと」
宮内の話を聴いた後、手早く校長の携帯に電話をして緊急事態だと伝えてくれていた。
「くっ……くそう」
首藤が、殺人トリックを暴かれた犯人のようにその場に頽れると、ちょうど校長が早足で駆け寄ってきた。
水の魔物の一件、度重なる暴力行為、劣等生の扱い、学芸会での一件、非常識な漢字テスト、そして先ほどの美術室での出来事。特に記憶に残るものを中心に、早口で話す。それを聴き、松田は適度に頷きながらメモを取っている。
「そんなことが起きていたなんて……」
松田が、左手で頭をおさえながら嘆息する。
「松田先生にだけでも、もっと早く相談に来ればよかったですね。そうすれば、池原くんがここまで苦しまずに済んだかもしれないのに……」
宮内が、悄然として俯きながらつぶやく。
「いやいや、悪いのは、こんなになるまで気付けなかった私たちだよ。済まなかったね。私はもともと一匹狼な質だし、養護教諭って立場もあって、周りの先生の事情はそこまで知らなかった。まあ、そんなことは言い訳にしかならないね。首藤先生が何やら悪目立ちしているらしいことは小耳にはさんじゃいたけど、まさかここまでひどいとは思ってなかった。気付いてやれなくて申し訳ない」
松田が、神妙な顔つきで頭を下げる。
「ありがとうございます、松田先生」
ここまで黙っていた私が初めて口を開いたので、松田は意外そうな表情を浮かべている。
「宮内さんも、ありがとう。爪弾きにされている僕のところに来てくれるなんて思ってもみなかったけど、嬉しかった」
今ごろ、首藤が私を捜して駆けずり回っているだろうかと思いつつも、いくらか安堵し微笑を湛えた。
「そんな、お礼なんて。もっと早く行けばよかったのにね」
莞爾として笑いながらも、彼女の眼はまた少しばかりうるんでいるようだった。
「僕にも、味方はいたんですね」
二人に視線を向けて言うと、双方とも、「当たり前でしょ」というような目をして頬を緩めた。
「ここか池原ぁ!!!!!!」
粗暴な音を立てて扉が開くと、視線の先には憤怒の形相をした首藤がいた。
「貴様ぁ、教室を荒らした上に、俺の大事なノートパソコンを壊しやがったな! ただじゃおかねえ!!」
大事なものなら、あんなところに無防備に出しておかずに職員室にしまっておけよとツッコむのは、心の中だけにした。
「今、この子たちと大事な面談中なんですよ。ノックもせずに入ってくるなんて非常識じゃないですか? 首藤先生」
松田がすぐさま私たちを庇い、前に出て毅然とした態度で述べる。
「この子たち……? あっ、そういえばお前、途中でトイレに抜けたと思ったら、こっちに来てやがったのか!!」
持ち前の観察力の鈍さを遺憾なく発揮し、ようやく宮内の存在に気付く。
「私、前から先生のこと、間違ってると思っていました」
宮内が震えた声で、しかしはっきりと首藤の眼を見て言った。
「なんだと? お前もこのゴミと同じように先生に楯突く気か!」
首藤が、新たな呼び名でもって私を指さす。
「『池原は、首藤先生に反逆する悪い奴だ』っていう恐ろしい文章、テストにありましたよね。私も悪い奴で結構です。私は、池原くんや松田先生と一緒に闘います!」
「ぐっ……貴様ぁ」
宮内の舌鋒鋭い反撃に、たじろぎつつも怒りを示す。
「そういうことですよ、首藤先生。学校は、あなたの独裁王国ではない!」
松田が、首藤を睨みつけながら強い語調で言い放つ。
「うるせえ! ただの保健のババアが生意気な!」
「ババアで結構。そろそろ、校長が出張から戻る頃だと思いますので、お話はそれからゆっくりと」
宮内の話を聴いた後、手早く校長の携帯に電話をして緊急事態だと伝えてくれていた。
「くっ……くそう」
首藤が、殺人トリックを暴かれた犯人のようにその場に頽れると、ちょうど校長が早足で駆け寄ってきた。
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