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2001年・秋④
第76話「見解の相違」
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「みんな、お疲れ様。最後までよく頑張ったな! すばらしいぞ!」
教室に戻り、首藤が笑顔で生徒たちを讃える。
我ながら、本当によく頑張ったと思う。苦手な集団行事から逃げずにミッションを完遂しただけでなく、窮地に立たされながらも機転を利かせて観客を引き寄せ、掉尾を飾ったのだから。
他の生徒たちを見ると、しかし昨日のような清々しさは窺えず、むしろ戸惑いや後悔といった負の感情が歴々としていた。
「池原、てめえ! どういうつもりだ!」
自分の仕事ぶりを振り返りながら愉悦に浸っていたところ、高杉が立ち上がり、赫怒に満ちた語勢で詰問する。
「どういうつもりって、それはこっちの台詞だよ。急に段取り変えたりして意味わかんないし」
一気に鼻白んでしまい、私も立ち上がり小鼻を膨らませて返答する。
「昨日、帰りの会終わった後で、先生とクラス全体で相談して変更したんだよ。あのほうが流れがいいんじゃないかってことでね。池原くんの台詞は最後にひとつ用意していたんけど……そっか。池原くん、すぐ帰っちゃったから知らなかったんだ」
上村も起立し、いかにもわざとらしい口調で割って入る。
「それならそうと、本番前に話してくれたらいいでしょ。同じ役なんだから」
直前の変更――それも、特に意味があるとは思えない変更――など、あまりにも見え透いた彼ららしい馬鹿げた嘘で反論する価値もないと思いつつ、言われっぱなしも気分が悪いのでついお付き合いしてしまう。
「だっていつもギリギリにしか来ないから、言うときないじゃん」
「そう思うなら、帰ってから一本電話するとか、FAX送るとか、違う方法あるじゃない。緊急連絡網見れば番号載ってるでしょ。それに、遅刻してるわけじゃないんだからギリギリに来ようが勝手だと思うけど」
「そういう問題じゃねえよ! せっかくの学芸会、めちゃくちゃにしやがって! 何がテイク・ツーだ!」
上村と私が口論しているところに、高杉が再び介入する。
「そうだ! 池原の馬鹿野郎!」
有馬が床に座ったまま、彼らしい中身のない罵言を吐く。
有馬の言葉を皮切りに、吉田や柿澤など、他の大多数の生徒たちも高杉に同意するように非難したり、あるいは口に出さずともこちらを白眼視することで類似した感情を表出し始めた。
「池原ぁ、ちょっと前に来い」
ここまで手を束ねていた首藤が、重々しい口調で言った。
「何ですか? 無事に成功して良かったじゃないですか」
「前に来い!!」
首藤が、大いに痛憤して声を張り上げる。
やれやれとため息をつき、不承不承に彼の前に出た。
「お前、本当にあれで良かったと思ってんのか?」
やや落ち着いた調子で、しかし私への怒りは持続させながら尋ねる。
「もちろんですよ。だってお客さんたちも喜んでましたから。僕の機転でテイク・ツー入ろうとした時も、拍手や応援してくれてましたし。なかなかあんなシチュエーションないから、珍しくて記憶に残る芝居になったと思います」
「ふざけるな!!」
首藤が今日一番のヴォリウムで怒鳴り、がばりと私の胸ぐらを掴む。
「お前には見えてなかったかもしれないがな、うちのクラスの保護者の方々は、大体眉をひそめていたんだよ。終わってからも、多数クレームをもらったしな」
宙に浮いたまま、果たしてそうだったろうかと思い出してみようとするも、現状が現状なだけにままならない。
「わざとぶち壊すような真似しやがって、お前のせいでみんなの努力が水の泡なんだよ!」
私を掴む右腕をいったん左側に持っていき加速をつけてから、右方向に思いきり投げ飛ばす。落下してから二回転し、壁にぶつかって止まった。
「これから、みんなで打ち上げパーティーだ。とっとと荷物をまとめて失せろ」
首藤の命令に対し、何か答える気力はもはやなかった。パーティーという言葉に反応したクラスメイトたちが、精彩を取り戻したような歓声をあげる。
打ち付けた背中をおさえながら、ロッカーからランドセルを取り出し、さっさと教室を後にした。
教室に戻り、首藤が笑顔で生徒たちを讃える。
我ながら、本当によく頑張ったと思う。苦手な集団行事から逃げずにミッションを完遂しただけでなく、窮地に立たされながらも機転を利かせて観客を引き寄せ、掉尾を飾ったのだから。
他の生徒たちを見ると、しかし昨日のような清々しさは窺えず、むしろ戸惑いや後悔といった負の感情が歴々としていた。
「池原、てめえ! どういうつもりだ!」
自分の仕事ぶりを振り返りながら愉悦に浸っていたところ、高杉が立ち上がり、赫怒に満ちた語勢で詰問する。
「どういうつもりって、それはこっちの台詞だよ。急に段取り変えたりして意味わかんないし」
一気に鼻白んでしまい、私も立ち上がり小鼻を膨らませて返答する。
「昨日、帰りの会終わった後で、先生とクラス全体で相談して変更したんだよ。あのほうが流れがいいんじゃないかってことでね。池原くんの台詞は最後にひとつ用意していたんけど……そっか。池原くん、すぐ帰っちゃったから知らなかったんだ」
上村も起立し、いかにもわざとらしい口調で割って入る。
「それならそうと、本番前に話してくれたらいいでしょ。同じ役なんだから」
直前の変更――それも、特に意味があるとは思えない変更――など、あまりにも見え透いた彼ららしい馬鹿げた嘘で反論する価値もないと思いつつ、言われっぱなしも気分が悪いのでついお付き合いしてしまう。
「だっていつもギリギリにしか来ないから、言うときないじゃん」
「そう思うなら、帰ってから一本電話するとか、FAX送るとか、違う方法あるじゃない。緊急連絡網見れば番号載ってるでしょ。それに、遅刻してるわけじゃないんだからギリギリに来ようが勝手だと思うけど」
「そういう問題じゃねえよ! せっかくの学芸会、めちゃくちゃにしやがって! 何がテイク・ツーだ!」
上村と私が口論しているところに、高杉が再び介入する。
「そうだ! 池原の馬鹿野郎!」
有馬が床に座ったまま、彼らしい中身のない罵言を吐く。
有馬の言葉を皮切りに、吉田や柿澤など、他の大多数の生徒たちも高杉に同意するように非難したり、あるいは口に出さずともこちらを白眼視することで類似した感情を表出し始めた。
「池原ぁ、ちょっと前に来い」
ここまで手を束ねていた首藤が、重々しい口調で言った。
「何ですか? 無事に成功して良かったじゃないですか」
「前に来い!!」
首藤が、大いに痛憤して声を張り上げる。
やれやれとため息をつき、不承不承に彼の前に出た。
「お前、本当にあれで良かったと思ってんのか?」
やや落ち着いた調子で、しかし私への怒りは持続させながら尋ねる。
「もちろんですよ。だってお客さんたちも喜んでましたから。僕の機転でテイク・ツー入ろうとした時も、拍手や応援してくれてましたし。なかなかあんなシチュエーションないから、珍しくて記憶に残る芝居になったと思います」
「ふざけるな!!」
首藤が今日一番のヴォリウムで怒鳴り、がばりと私の胸ぐらを掴む。
「お前には見えてなかったかもしれないがな、うちのクラスの保護者の方々は、大体眉をひそめていたんだよ。終わってからも、多数クレームをもらったしな」
宙に浮いたまま、果たしてそうだったろうかと思い出してみようとするも、現状が現状なだけにままならない。
「わざとぶち壊すような真似しやがって、お前のせいでみんなの努力が水の泡なんだよ!」
私を掴む右腕をいったん左側に持っていき加速をつけてから、右方向に思いきり投げ飛ばす。落下してから二回転し、壁にぶつかって止まった。
「これから、みんなで打ち上げパーティーだ。とっとと荷物をまとめて失せろ」
首藤の命令に対し、何か答える気力はもはやなかった。パーティーという言葉に反応したクラスメイトたちが、精彩を取り戻したような歓声をあげる。
打ち付けた背中をおさえながら、ロッカーからランドセルを取り出し、さっさと教室を後にした。
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