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44(BL要素あり)

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【人間に恋してしまった人魚は…】


ーザバーン!

「(これでいい……)」

 そう呟いて目をゆっくりと閉じれば、水の底に沈みゆく自分の身体は、ポコポコと立ち登る泡に包まれて堕ちていく。
約束した未来あしたも、今まで紡いだ過去きのうもこの胸に大事に仕舞い込んで、僕はこのまま……

「(ーーでも、最後に一目だけでも…)」

 彼が触れて感じられた温もり、暑苦しいけれど、悪くないその姿が思い起こされて、背を向けてしまった己に後悔の念を抱きつつ、目を開いて見えた月明かりが照らす水面は、眩しい程明滅し、光を反射して輝いている。

「!!」

 突然、乱れた水面と共に伸びてきたその手は暖かく沈みゆく僕の手に触れる。

「(馬鹿だなぁ、こんなところに来てももうーー)」

 ーもう自分は泡と化して消えてしまうのに。

 必死に僕の手を掴むその主に笑いかけて感謝の言葉なり離別の言葉でもーーでも、何か違う。嗚呼、違う、そうじゃない。
 ふと頭を走馬灯の様によぎるは、街を出歩いたこと、夜の屋台で買ったジャンクフードを二人で分け合ったこと、そして、初めて夜を共にしたことーー
 そう、僕が言いたいのは、さようならでもありがとうでもなく。

「……ひとりに、しない、で…」

 声に出せなかったけれど、口にして今更ながらに気が付いた僕自身の生への執着故か、目の前の彼にしがみつこうと手を伸ばしたけれど。
 されど、されども、もうーー崩れ行く身体は泡沫に消えもう何も掴むことが出来ず、目の前でその目を見開く彼の姿を最期に視界は白く塗り潰されてしまったのだった。

end
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