フラワーキャッチャー

東山未怜

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 奏子ちゃんとはもう、このままなのかな。エリサワ同盟はもう、終わりなのかな。
 ケンカみたいになって、このまま二度と、仲よくはなれないのかな。
 私はどうして友だちと、長つづきしないんだろう。
 ずっとずっと、仲よくしていたいのに。
 奏子ちゃんとも、二度と笑いあえないのかな。
 ――そんなのはイヤだ!
 私の力のことは言えないけれど、元気づけてあげたい。どうしたらいいんだろう。
 仮入部を考えているダンス部には、今日もいけない。奏子ちゃんと仲直りして、明るい心を取りもどしてあげて、真希とも話せるようになって、それからダンスに集中したい。
 帰宅後、チェリーを散歩につれだした。頭を整理したいとき、散歩はヒントをもらえるんだ。
 やがて公園についた。ここで咲也くんと会わなくなって、しばらくたっている。
 なにか話しあいが必要なときには、電話をすることにした。
 私がそうしようって言ったんだ。真希を、やっぱりヘンに刺激したくないから。
 ワンワンと、チェリーが鳴く。
「チェリーがな、〝恵梨ちゃーん。トッテコイやろうよー〟って言ってるぞ」
 本来のハチドリの姿にもどったブルーベルが、私の肩で教えてくれた。
 五メートルのリードを伸ばして、水色のボールを、チェリーの鼻先で見せる。
 にこにこ笑うような顔で、キラキラした瞳で、チェリーは舌をだして私を見つめる。
「チェリー……取ってこい!」
 ボールを投げた。走りだすチェリーの耳が、ダンボみたいにわさわさ揺れる。
 かわいいんだから、チェリーは。
 そのチェリーの言葉が、ブルーベルを通じてわかるなんて、すごいことだよね。
 だけど、今のチェリーの言葉なら、私にはわかった。トッテコイ、早くやりたいって。
 チェリーがボールをくわえて、私のところにかけよってきた。
「いい子だねー、チェリー、いい子! かわいいねー」
 がしがし、たれ耳の後ろをかいてあげる。
 ワン! とほえるチェリーの言葉が、私にもわかる。
「この子さ、〝すごいでしょ? ちゃんとトッテコイできたよ〟って、言ってるよね?」
「ああ、その通り。さすがは飼い主」
「まあね」
 それからベンチにすわって、青空を見あげた。
  
 ――みとめてあげたい 今の自分を 
 
 合唱曲の歌詞が、頭の中に浮かんだ。
 意味がよくわからないって、前に奏子ちゃんに話したら。
「泣くほどつらいことがあっても、いつか未来はきっと笑える。だから、泣き虫の自分をみとめてあげて、今は休んでいてもいいんだよ、って意味じゃないかな」
 そんなふうに解説してくれた。
 奏子ちゃんは、歌詞をよく研究して、かみしめながらピアノを弾いているんだ。
 たしかに、今の奏子ちゃんとダブらせると、歌の意味が理解できる。
 ミイちゃんを亡くしたショックで、今は沈んでいる、奏子ちゃん。
 それでも、立ち直らなくちゃいけないって、わかっている。
 だから、伴奏をつづけたいって言ったんだ。
「奏子ちゃん、どうしたら元気になってくれるかな」
 思わず声がでたら、ブルーベルがベンチの背もたれに、ちょこんとのった。
『きっとさ、〝心配してるよ、元気になってね〟、そういう気持ちが伝わったらいいんじゃないか? 思っているだけじゃ、伝わらないものだし』
「思っているだけじゃ、伝わらない? だったらそれって、どうやって伝えたらいいの?」
「そうだなあ……」
 コバルトブルーのハチドリは考えこむと、羽を広げて私を見た。
「女の子には、やっぱり花じゃないかな? おそらくね、花を見たらちょっとは明るくなるんじゃないかな」
「花?」
「そうさ。野に咲く花でも、花屋の花でも。花と一緒に気持ちをさ、しっかり伝えるんだよ」
「花なら、おばあちゃんに相談してみようかな」
「ああ、そうしなよ」
「ちょっと? 恵梨、なにしてるの?」
 うしろから人の声がしたとたん、ブルーベルは私の頭の上のヘアピンに姿を変えた。
 こ、この声って……。
「真希っ!」
 ふり向きざま、あわてて立ちあがった私に、チェリーがびくっとした。私はすぐにリードを短く持って、その隣にしゃがんだ。どうしてここに真希が?
「い、犬の散歩だよ……真希も、お散歩?」
 笑顔で言ってみる。真希のおつきの女の子たちはいなかった。
「私はコンビニへいく途中」
「そっか、この公園通ったほうが、近いもんね」
「てか、犬の散歩なんて、見りゃわかるっての。今、虫に話しかけてたでしょ?」
「虫!?」
「ハチみたいな、ガみたいな、シオカラトンボみたいの」
『なんだと、こいつめ~っ!』
 頭の中に、ブルーベルの怒った声が聞こえる。私は頭を、っていうか、二次元が三次元のハチドリになったりしないように、とっさにヘアピンをおさえた。
 それから首を左右にふってみせる。
「まさか、そんなことあるわけないよ!」
「いいえ、ちゃーんと聞こえてましたあ! 恵梨は虫に話しかけてましたあ!」
 ほんとうに聞かれていたんだ、見られていたんだ……どうしよう。
「あ、ああ、ええっと……これ!」
 私はヘアピンをはずして、ベンチの背もたれにのせてみた。
「これに話しかけてたの……ははは。やだな、見られてたなんて、はずかしい」
「なんか気持ちわるっ! 恵梨ってヘアピンに話しかける、さびしい人なんだね!」
 真希はキンキンした声で言うと、ポニーテールをゆらして歩いていった。
 だいじょうぶかな……バレたりしていないよ……ね? 
『平気だろ? 信じるわけないし』
 だよね、平気、平気!




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