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真田和也 I

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俺は物心ついた時から人の心が読めた
雰囲気とか表情で図るのではなく
文字通り人の心が読める
でもそれは全ての人がそうだと思ってたから自分が特異体質だとは思ってなかった
幼稚園での違和感や父親の表情に戸惑う事があったけど自分が人と違うと分かったのは小学校に入る前の祖母の葬式だった
大泣きしている父の兄に手を握られてはっきりとおじさんが笑っているのがわかった
お母さん おじさん顔は泣いてるけど本当はおかしいのかな?大笑いしてるね
母親が驚いた顔をして指を口元に突き立ててシッと言った
母親は手のモデルをやっていていつも手袋をはめていた その日も綺麗なレースの手袋をはめていたがその手袋を脱いで俺の手を握った
家に帰るまで何も話しちゃダメ
今まで感情を感じられる事はあったけどはっきりと言葉が伝わって来たのは初めてだった
母親はわかったね?と念押しするとまた手袋をはめる
俺は一文字に口を閉ざし葬式が終わるまでじっと固まっていた
出棺が終わってみんなが焼き場に向かう時母親が僕だけ連れて家に帰った
「カズ君よく聞いて 
人の心の中がわかる事誰にも話しちゃダメだよ」
「なんで?」
「みんなは人の心の中を知る事が出来ないから」
本当に?
驚きだった じゃどうやって人の本当の気持ちを知るんだろう
「みんなは本当の気持ちを隠して生きているの
おじさんだってあんなに泣いてたけど心の中は笑ってたでしよ?それは人には自分の気持ちがわからないだろうって泣いてる仮面をつけていたんだよ」
「どうして本当の気持ち隠すの?」
「みんながみんないい人じゃないから 
それにみんなは顔だけ見てこの人は泣いてるとか笑ってるって決めるんだよ」
「そんなの嘘じゃん」
「そうだね 嘘はいけないって誰でもわかるよね
でもお葬式でおじさんが心のままに笑ってたらどう?おかしいよね?お母さんが死んだのに笑ってたら変だよね だから泣いてお芝居した」
「なんでお母さんが死んだのにほんとは笑ってたの?」
「それはおじさんのもっと心の奥を探らなきゃわからないよ でもおじさんはカズ君に心の奥を見られるのとても嫌だと思うよ
これから先 学校に入ったらお友達の気持ちと顔が違ってる事あると思うけど内緒にしてあげようね」
6歳の俺は納得しきれなかったけどそうしないと母親が悲しむんだろうと大きくうなづいた
小学校も低学年のうちはたまに顔と気持ちが違う事を指摘してしまう事があった
決まってその子は不機嫌になる
どうやら手を繋ぐと1番その子の気持ちがわかる 不意に誰かに触られたりすると手のひらからその子の感情が押し寄せる事もある
体がぶつかるサッカーはすぐに気分が悪くなった 敵意の塊が自分にぶつかってくる恐怖は低学年の俺には耐え難いもので結局休み時間は本を読んで過ごす事が多くなった
徐々に友達はいなくなる
孤独だった俺をもっと孤独にしたのは両親の離婚だった
父親は俺や母親の特異体質に気づいてなかった普通の人
原因は多分俺だと思う
父親に気に入られたくて父親の気分を垣間見てタバコが浮かんでいるな思っていたらタバコを差し出しビールが浮かんでいたらビールを取り出し 最初は気が利くなと思っただろうけどそれが続くと父親は俺と目を合わせなくなった 心が読めるとは考えなかっただろうけど父親の中に俺に対する不気味さや不安が俺を避けるという行動につながったはずだ
中学に入る前に母親の実家に帰ることになった
友達はいなかったから寂しいとは思わなかったが祖父には歓迎されなかった
祖母は早くに亡くなっていて祖父1人で住んでいた 祖父は母親と俺の特異体質を知っていた
祖母がそうだったらしい
祖母の母そのまた母と女系に受け継がれている体質らしい
だから俺が生まれた時男の子でホッとしたらしい 結局俺も同じような体質だったわけだけど
俺より母の方が心が読める
そして母より祖母 祖母よりその母とこの体質がいつから始まったのか知らないが始まりの人は遠く離れた人の気持ちさえもわかってしまっていたかもしれない
中学に入ってもなるべくひっそりと目立たないように休み時間には本を読み空気になろうとした
けれど小学校の時のようにうまくいかない
違う土地から来た俺に周りが興味津々で俺を放っておかない
特に女子のボディタッチは苦手だった
好かれる事がこんなに気持ち悪い事だと知らなかったからだ
夏服になると最悪だった 生地が薄いから容赦なく気持ちが流れ込んでくる
好きということを隠して何でもない風な顔
とにかく俺はモテていた
男子からは嫉妬 女子からは好意
うまく付き合おうとすると精神のバランスを崩してようやく夏休みに入り長い休みにホッとして冬服になるまで学校に行けないと泣いた記憶がある
誰にも相談できない 誰かに気持ちが読めると知られた日から自分がどうなってしまうのか見当もつかなかった
そんな俺を救ってくれたのは古着屋のマモル
葬式で笑ってたおじさんの息子で10歳ぐらい年が離れてた
それまで付き合いは正月に会うぐらいだったのに親が離婚して中学に入る時に入学祝いとしてわざわざ家までTシャツを届けに来てくれた
古着屋やってるから遊びにこいよ
いきなりな感じにうんとだけ返事をした
あとで何でTシャツ持って来たのか聞いたらお前の母親の美奈子さんが好きだったから離婚したって聞いてワンチャンないかなと思って行ったんだよなんて冗談か嘘かわからない
誰とも親密な付き合いは無理だと諦めていた俺にかまってくれるマルは第一印象から嫌な感じはしなかった
夏休みに暇にしていた13歳の俺に雨の中びしょびしょで楽しそうなマルがバイクでやって来て無言でヘルメットを渡した時この人は信用出来るんじゃないかって思った
「しっかり掴まれよ」
恐る恐る腰を掴んだら腕をぐいと掴まれてビクッとなったけどマルから何の感情も流れてこなくて空っぽで何も構える事ないんだって思えた
ばちばち当たる8月の大粒の雨 ただ気持ちがいい
30分ぐらい爆走してついたのはマルの古着屋だった
「好きなの来ていいよ」
それからマルの店に電車で通うようになった
店でかかる洋楽 ピンキリの古着の世界
いろんなことを知るたびに少し人が好きになった
マルという底がない人間のおかげ
「この服見てみろ この服の物語を考えたらワクワクするだろ? この店に来るまでに誰の服だったのか?女か?男か?どんな面してたのか?どんな時に来てたのか?想像してたら架空の誰かの人生を味わってる気がしてこないか?」
服に触って残心を読む事が出来るぐらいの体質だったらマルの疑問に答えらるのにな
初めて自分の体質に肯定的な考えが出来た
なんとか中1をやり過ごして中2になる頃
俺の体質は最高潮になってた
思春期だからか気持ちの波が激しくて自分が未熟で体質をコントロールできず
交差点 満員電車 お祭りとにかく人が多い所に行くと色んな人とぶつかるから色んな人の感情があふれかえって流れ込んで道端でゲロを吐きめまいで立っていられなくなった
殺してやる!と叫んでいるや人
死んでしまいたいと嘆いている人
クソクソクソクソと誰かを恨んでいる人
負の感情が街には多すぎる
2年になってよその地から越してきた珍しい男はだいぶん興味の対象から外れたようで周りが少し静かなった
そして隣の席になったのがハル
「よろしく~」
誰かのにこやかな顔の奥にある感情を想像してしまうようになった俺はハルの心を覗いた
「消しゴム貸して」
そう言ってハルの指先に触れた瞬間 指先がビビビビって静電気が起こって 
その後風が
優しくてほんわかしたまさしくハル風が吹いた
ハルの感情じゃなく俺の感情が俺に流れて来たような感覚 
ハルはおしゃべりだったから心を読もうとしなくても話を合わせればよかった
だって誰にも俺の心は読めないんだから
Blue Beeというバンドが好き 俺も好き
好きなテレビ番組はお笑い おっ俺も好き
好きな漫画はスラムダンク 俺も好きでもバスケはやらない
だいたい俺も好きって嘘をついた
「気が合うね」
そう言ってハイタッチ その度に心地よい風が心を満たす どんなに嫌な事があってもハルさえ側にいてくれたら俺は大丈夫だと思った
だからマルの店でBlue BeeのバンドT見つけた時は飛び上がった まだ解散前だったからそんなに高くなくて色違いで2着買った
もちろんハルにあげる為だったけど学校で見せると欲しい欲しいって甘えてくるからやらんって意地悪した
そしたら下手くそなギターの絵の落書き 笑った
世界に1枚のTシャツは額にでも飾りたいぐらいの宝物になった
結局次の日もう1枚をハルにあげて悲鳴を上げながら抱きつかれた時
ありがとう 嬉しい嬉しいゆっきー大好き
はっきりとハルの心の声が聞こえて慌てて体を離した
その大好きはラブじゃなくてライクだろうけど好きだと言われて初めて気分が良かった
俺はもちろんハルが好きだけどこんな俺が誰かを好きになってはいけないとずっと思ってた
ただハルがずっと側にいてくれたらいいのに
毎日その事だけ考えてたらあっという間に1年が過ぎて中3になった
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