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幕間 わしはとことんとまらない
しおりを挟む「ああーーー!!!(どたばた)」
異様な見た目の幼女が一人、部屋の中で騒いでいた。
彼女は、言葉を覚える一助になればと家主がつけっぱなしで出て行ったテレビ画面に見向きもせずに、手に持った美少女フィギアで遊んでいる。
ぶんぶんとそのフィギアを振り回すたびに、膝まである白銀が弧を描く。
彼女はそうしてしばらくの間、幼年の戯れに興じていた。
だが――。
どたっ!
「あうっ(べちっ)」
幼い子供にはよくあることだが、彼女はなんの段差もないところでなにかの拍子にこけてしまった。
そして、その拍子にテレビのリモコンを踏み。
ぴこんとチャンネルが切り替わった。
『♪ Tonight I'm gonna have myself a real good time……』
どうやら、音楽番組――いや、ライブ映像を移すチャンネルに画面が切り替わったらしい。
今や誰もが知るほどに有名な海外バンドの演奏が、部屋の中に響き渡る。
すると、
「ん!(びくん!)」
幼女はその音に敏感に反応し、それがテレビからのものだと気付や否や、しゅばっとその画面に張り付いた。
「うー!(きらきら)」
目を輝かせ、更には音に身体を揺らしながら一心不乱に画面に食いつく幼女。
彼女はそうしてそのライブ映像が終わるまで、無心でその画面とにらめっこをしていた。
数時間後。
「んっ! んっ!(ふがー!)」
幼女は悪戦苦闘していた。
テレビにはもう興味は向いていない。今はもう、単調で静かな画面の多い、フランス辺りの無名映画に切り替わってしまっていたからだ。
では、彼女はなにと格闘しているのか。
それは、先程彼女が手に持って遊んでいたフィギュアだった。
しかし、もはやそれは彼女の遊興の対象ではなくなっていた。
なぜなら、その美少女フィギュアはとあるガールズバンドをモチーフにしたゲームの商品であり、その手には、しかとギターが握られていたからである。
幼女は、それをその手からもぎ取るのに必死だった。
どうやら、彼女はさっきのライブ映像を鑑賞した結果、自分もあのように演奏してみたいと思うに至ったらしい。
それにしては――仮に幼女の身体がミニマムなのを考慮しても――そのギターはサイズが小さ過ぎるが……。幼女の欲求の前には、その様な些事、考慮に値されないらしい。
「あぐう~!(ふにゅ!)」
幼女は愛らしい顔を忌まわしげに歪めて、渾身の力でフィギュアからギターを引き剥がそうとする。
いくら子供のやることとはいえ、フィギュアの破壊は時間の問題かと思われた。
しかして――。
ばぎっ!
「はうっ!(な!)」
ミニチュアギターは、中心を軸に二つに折れた。
「あうぅ~(じーん)」
無残な姿になってしまったギターを前に、幼女は項垂れる。
しゅんとした様子で、しばらく放心状態になってしまう幼女。
そして、「ごめんね」とでも言うかのように、粉砕してしまったフィギュアをその小さな身でぎゅっと抱きしめた。幼女の慈しみの心が、美少女フィギアに染み渡る。
すると。刹那。
ピカァ――。
室内が、白に染まる。超常の輝き。
しかして。
「なんや、ジブン、なにしてくれとんねん」
視界を埋め尽くす程の閃光の後に、そんな声が、幼女以外誰もいないはずの部屋に木霊した。
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