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第4話 エル choose the Name
しおりを挟むさてと、トイレを教えた後は服を着せて、朝ごはんを食べさせた。
取り敢えずこの子を当面ウチで面倒見るとして、次にすべきことはなんだろう。
となれば、早急に解決しておきたい問題が一つ。
それは、呼び名。
即ち、彼女の名前。
ダメもとで「名前は?」って昨日聞いたりもしたんだけど、芳しい成果は得られなかった。
それに素性が本当に奴隷であるのなら、ガチで無名の可能性もある。
なので、ボクは昨晩。夜な夜なこのかわいらしい幼女にぴったりなきゃわわネームはなにかとしこしこ考えていたわけなのですが……。
――和名でいいのかな……?
まず、そんな問題に行き当たったよね。
「ふあ?(きょとー)」
だってこのロリっ子ダークエルフちゃんに「さくら」とか「はなこ」とか付けるのはなんか違うじゃん? 目が金で髪が銀で肌がダークグレーな子にさー?
でもだからって「ヴァネッサ」とか「リアーナ」とか、そういうエキゾチックな名前をバリバリ日本人なボクがつけていいのかなとかも思うじゃん?
なもんで、ここは外見的特徴からとって「クロ」とか「グレイ」、「シルバー」なんかはどうかなとも思ったんだけど、なんかそれは今のご時世的に人種差別だとか言われたら困るなとか思っちゃって……(いや、誰への配慮?)。
結果。
迷走に迷走を重ね、朝日が昇り。
最終的に、「エル」に決まりました。
エルフのエルちゃん的な?(人種差別への配慮とはなんだったのか)
だがしかし、それをどうやって彼女に伝えるべきか。それが課題。
試しにググったところ、自分の名前を幼児が認識するのは大体一才前後で、自分の名前を発声できるようになるのは三歳前後らしい。
つまり、彼女なら(この幼女の見た目は人間で言うと大体小1~3くらい? なので)、そのへんのことは全部できるはず。
けど人に名前があるという概念を、これまでのアレコレで推測される育成環境的に、彼女は理解できていないかもしれないので。
まずはボクが自己紹介をすることにする。
自分を指差し。はきはきと、大きな声で。
「ボクの名前はね、俊嘉だよ。しゅんか。しゅ・ん・か」
それを何回か繰り返してみた。
すると。
「……しぃか?」
幼女……いや、エルは、ゆっくりとそう言った。
「そうそう、いい感じー! しゅんか。しゅ・ん・か」
「しゅー、か?」
たどたどしくも正解に近付くエル。
やっぱり今までのやり取りでわかっていたけど、この子はかなり耳がいいし、それに多分、頭もいい。
だから、察する能力や、コミュニケーション能力も、言葉が喋れないからアレなだけで、きっと本当はかなりあるのかも。
もしかしたら、見た目よりもずっと大人なのかもしれない。あるいは、エルフは人間よりもそのへんが優秀な種族なのか。
まあそのへんはおいおい知ればいいとして。今は、名前。
「しゅ・ん・か」
「ぅ・ん・か?」
「うー、おしい~。しゅんかだよしゅんか~。しゅ・ん・か」
「しゅ・ん……は……?」
「あ~もうほぼほぼあってる。すごい!」
みたいなレッスンが続き、はたして。
「しゅんか!」
エルは、とうとうボクの名前をほぼ完璧にマスターした。
「はう~、そうだよエル! ううっ、生まれてきてくれてありがとう~!」
ボクは感動のあまり涙目になりながら幼女を抱きしめてしまった(強制猥褻)。
「うぎゅ(へ?)」
彼女はなんで自分が抱擁されているのかがわからないのか、まんまるなおめめを見開いてこっちを見ている。
だというに、テンションの上がったボクは子供みたいにおねだり。
「ねえねえ、もっかい言ってよエル! しゅんかって!」
「……しゅんか?」
これでいいんか? みたいな不安そうな声音で、エルはそう言った。
愛らしさに、胸がきゅんきゅんする。
「そうだよ~、ボクの名前は俊嘉~。ああ~、うひゃ~」
そう言いながら、エルの頭をこれでもかと撫でる。褒めて伸ばす教育。
するとそれが通じたのか、彼女はボクの腕の中ではしゃいだ。
「しゅんか! しゅんか!(きゃっきゃっ)」
「あ~~~~~~(アヘ顔)」
なんかよくわからないけどすごい多幸感。これがロリの力か……。
端的に言って、一生こうしていたい。
けれど。
「――いやいや、だめだめ。この子に名前を付けるのが本命なんだもの(真顔)」
「しゅぅー…………、しゅんか……?」
さっきまで精神的アクメを迎えていたおっさんが急に新卒リーマンみたいに真面目な顔になったのを疑問に思ったのか、エルが困惑気味にボクの顔を仰ぐ。
ボクはそんなエルを、一旦解放した。
「ぁぅ……。しゅんか……(しゅーん)」
抱きしめるのを止めて彼女からほんの少し距離を取ったボクに、悲しそうな目をするエル。
「くっ」
なんたるいじらしさ。胸が引き裂かれそうだった。
こんなボクとの肉体的接触が解除されただけで、そんな顔をしてくれるなんて。こんなボクの抱擁でよければ、いくらでも差し出すのに。
だが、ここは心を鬼にして、彼女に名前を教えなければならない。
ボクはエルの手を引き、お風呂場へ向かった。
いや、別に幼女の裸を朝風呂を言い訳に見たかったわけとかでは全然なくて。
単にこっちのほうが色々と都合がいいと思っただけ。
ボクはシャワーから軽く水を出して、そこを指差しながら、言う。
「これは、シャワー。しゃわー」
「しゃぁー」
同様にして、
「これは、シャンプー。しゃんぷー」
「ぁんふー」
「これは、俊嘉。しゅんか」
「しゅんか」
というように、昨日覚えてもらった言葉を生かしつつ、反復させる。
そして。
「じゃあ、君は?」
そう言って、ボクはエルのことを指差した。
「ううー?(むーん)」
彼女は困ったような顔でボクを見る。
ここまで言ってその反応ということは、どうやら彼女には名前が無いのかもしれないというボクの予想は真実らしかった。
だから、ボクは噛み締めるように言葉にする。
「エル」
「ぇぅ?」
初っ端から、エルはかなり正確に、ボクの言葉を反芻した。本当に優秀な子だと感心する。
「そうそう、エルだよエル。君の名前は、エル。え・る」
「える?」
「うん。エル」
そうそうと言って、また頭を優しく撫でた。銀髪の手触りが心地よくて、撫でる方にも快感をくれる。
するとエルは、なんだかとっても嬉しそうにはにかんで、
「える!(がしっ)」
ボクに勢いよく抱きついた。
胴体にすりすりと擦りつけられるやわらかほっぺの感触。
なんかもう、ここ数年、生きる意味を完全に見失っていたボクだけど、生きてて良かったな。
素直にそう思った。
名前と生存理由。どちらが価値あるものかなんてわからないけれど、こうして。二人は与え合い、抱きしめ合って、なんだか心があたたかくなるのを少しの間、じーんと分かち合っていた。
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