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第0話 誘拐

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 自分が何の為に生きているか――なんて疑問をこれまでに一度でも頭に思い浮かべたことのある奴は、根源的に人間に向いていない。
 
 だから、そういう類の輩は総じて、そんなバリバリに陰キャくさいことを考えずとも楽しくやっていけそうなレッサーパンダとかチンパンジーに生まれ変わるといいと思う。
 でも、だったらそういうことを日に日に何度も考えるようなド陰のアンハッピークソ男はどうすればいいんだろう。
 ……ああ、急にごめん。
 ここからは、ボクの話なのだけど。
 開始数行で自分語りなんかしてしまう、つまらない人間の話なのだけど。
 
 ちなみにボクは、生まれ変わるなら美少女になりたいなあ。
 美少女になって幼少期から蝶よ花よと愛でられて、思春期をそこそこ人気だけど全国レベルでは全然有名じゃない程度のアイドルとして過ごし、齢19のまだ旬な内にAV女優へ転向してかつてボクにガチ恋してくれていた元ファンやわざと勘違いさせて初恋の対象にさせてあげてた元同級生の慰み者になりながら若い性を売って、しばらくしたらまた引退してすれた物言いで人気を博すフリーライターになってゲスな話が大好きなハイエナどもにマウント由来の自尊心を提供してやりたい。
 ああ、あとは、そうだね。金持ちの不細工なおっさんに抱かれた金で下品なくらいに立派な家を建ててみたい。
 ……そんな感じ。
 さてと、ここまで言えばボクがどんな人間かみんなもわかったかな。
 ボクの名前は有家俊嘉(ありやしゅんか)。そしてフリーターの社会不適合者。まあつまり、ただのクズだね。
 四年くらい前にシングルマザーだったお母さんが死んじゃって、ママが残してくれたお金と家を元手にニートというか、フリーターというか……まあそんな感じのクソ野郎な生活をしています(もう成人して数年なのにね、えへへ)。
 いわゆる穀潰しって奴?
 まあだからボクは普段、大体家にこもって自宅の警備業務に勤しみがちなのだけど、今日は頑張って、週一でしているとあるバイトをしてきてて、今はその帰り道。
 真っ暗な夜道を、ストロングゼロ片手に歩いてる(ちなみに、もう片方の手には、スーパーの値引き品が詰まったレジ袋)。
 
 なんかさあ、嫌なことばっかりだよ。
 働くという行為が人に存在意義を与え、ひいては生きがいを与えるんだー……なんて、どこかの誰かは言うけれど、ボクはそんなことまるで思わないもん。
 今日もそうだったし。
 働いてると、自分の無力さを痛感して、無能さを痛感して、代わりなんていくらでもいるということを痛感して、どうして生きているのかわからなくなる。
 なんのためにこんな意味の無い繰り返しをしているのか、なにもかもを見失う。
 だから今日もボクは極寒の中、手袋もせずにキンキンに冷えたロング缶を握って、それを一気に呷り喉に強烈な刺激を与えることで、生を実感するんだ。
 鼻に突き抜けていく強炭酸。食道を通過していく9%。胃腸に叩きつけられる36g。
 たまらないね。この瞬間だけは。生きてるって感じがする。
 でも、あいにく。自慢でもなんでもないけれど、ボクは酔えない体質だった。
 楽しくもならないし饒舌にもならないし、ましてや気持ちよく眠れたりなんてしない。悲しくもなく、絡むこともなく。
 ただ、飲めば尿意がして、規定値を大幅に超えれば気持ち悪くなる。それだけ。
 けれど、その無意味さの為だけに同じ量のジュースよりも遥かに多く税金を払いながら喉が潤うわけでもない苦味を体に取り入れるこの行為が、愚かしさが。最高に人間的で好きだった。
 だから、今のボクは別に、酔ってはいない。
 単にアルコールを取り入れて、分解しているだけ……。
 そう、そのはずなんだ。
 でも。
「だったら、これはなんなんだろ?」
 ボクは、まだお母さんが離婚する前に知らない男と建てたマイホームの少し前の夜道で、立ち止まった。
 もしかして酔っているのかもしれない。
 だって。
 なんというか、フィクションの中でしか見たことのないようななにかが、自宅付近の道路に横たわっているんだもの。
 これまでに酔って幻覚を見た経験はないんだけど……。
 というか、まだ酔うほど飲んでないし(缶はもう、捨てたけどさ)。
 なのに、少し先にうつぶせになっている小さめの塊は、どうもボクの知っている現実にそぐわない。
「あの~」
 声をかけてみた。
「……」
 返事はない。
 どうしよう。
 こんなこと、経験がないからわからないや。まあ、ボクみたいに家へこもりがちな社会不適合者なんて、経験したことのあることのほうが少ないのだけど。だけど、それでもきっと、目の前に起きているなにかは、経験したことのある人の方が少ないと思う。
 世間のみんなだって、真夜中の近所で見知らぬ誰かが倒れているところに遭遇したことはあんまりないだろうし。
 どうかな? 実際のところは、ボクみたいな非社交の擬人化みたいな奴に友達なんているはずもないから、確かめようがないもんで知らないのだけど。たぶん、そうだよね?
 しかもだ。仮にさっき言ったそれに該当する人がいたとして。
 それが銀髪で褐色の幼女だった――なーんて人はさすがにいないでしょ。
 で、つまるところ、それが今のボクに与えられた状況なんだよね。
 
 意味がわかならい。
 夜の闇を裂く様に綺麗な白銀の長い髪が、眩しくもないはずなのにボクの目をいたずらにひきつけている。
 それを最初、地べたに置かれたコスプレ用品かなにかなのかと思っていた。
 けれど、近付くにつれて、まるで違うと気付く。
 とても、綺麗だったから。
 そして、その下には黒闇に紛れて灰のような色のなにかがあったから。
 その子供らしき人型のなにかは、どう見ても幼い少女で。
 だけど、どう見ても普通の少女ではない。
 ボクは声をかけても無反応な少女に、取り敢えず接近した。
 もしかしたら死んでいるのかもしれない。反応はなく、ただ伏している。
 どうするべきか。
 普通に考えたら、警察か、救急車か。
 そのどちらかを呼ぶべきなのだろうか。
 小さな女の子が夜道で倒れている時の正解なんて、誰が知っているんだろう。しかもこの子の場合は、特殊過ぎる。外見も、とても日本人とは思えないし。それに……。
 そんなことを考えながら、しかしボクはあまりそれについてまもともに考えられずに、しゃがみこんで少女を見た。
 だって、この子には目を見張りたくなる要素があまりにも多すぎたんだ。
 すると、もぞもぞ、パチリ――目があった。
「……ぅ」
 そして彼女は声にならない声をあげて。
 不意に上体を起こすと、その場で頭を守る様に、クロスした両手を掲げた。
 ボクはきょとんとしてしまう。
「えーと、だいじょうぶ、かな? どうして、こんなところに……」
「でぇ、り、りえす、ある……りえす、ある……」
 女の子は震えながら、何事か掠れ声で繰り返した。
「あー、ごめん。なんか怖いことにでも巻き込まれたの?」
「りえす、ある……りえす、ある……」
「……りえす、ある? 何語?」
 少女―――というか幼女と言ってもいいかもしれない――の見た目は、日本人離れしていた。だからボクは彼女の話す言葉がどこの国の言葉なのだろうかと、考える。でも、まるで見当がつかなかった。英語は当然として、中国韓国にドイツやロシア、イタリアスペイン辺りは意味こそわからなくても発音のそれっぽさでその国だってわかりそうなもんだけど、彼女の言うそれは、全然見当がつかない。まるで未知の響きだった。
 であればもっと遠いアジアか、アフリカ系の言葉なのだろうか。そもそもそんな何単語も言ってくれてないっぽいから、単純に僕がわかっていないだけなのかもだけど。
 ふむ。
 女の子の愛らしい顔に見蕩れながら、ぼんやりとそんなことを考えてみた。
 けれど、結論を言えば。結局そのどれでもない。そんな気がする。
 だって、目の前のロリっ子は、日本人離れしているというよりは、もはや――。
 人間離れ、していた。
 なにせ、彼女のその褐色の肌は、黒人というにはどこか違う。もっと不健康な、退廃的美を醸している。加えてその綺麗な長い銀髪は、自毛で生える人種がいるとは思えず、染めてその儚げな色と艶を出すのは不可能だろうと思われた。また、ここまで美しい黄金の様な色味を持つカラーコンタクトを、ボクは知らない。
 そして、極めつけに。
 彼女の手の下で銀の幕を突っぱねている長く歪な突起――つまり、耳。
 そう、耳が、その形状が、どう見ても普通の人間のそれでは、ない。
 言うならば、それは。
 エルフ。
 オタクのみんなが大好きな、ファンタジー世界のエルフの耳だ。
 細長くて、尖ってる。非ヲタのボクだって、それくらいは知っている。
 ということは、彼女の話しているのは、エルフ――語?
 ……やっぱり酔っているのか、ボクは。
 いや、でもそれ以外にこの奇形の耳と、肌と髪と目の色、それに謎言語と倒れていた理由を、どう納得すればいいのかしら? 
 例えば、この子がエルフのコスプレをしていて、セリフまでキャラになりきってるやばいやつだー……とか?
 果たしてそんなことをする幼女がいるとは思えない。それに、よしんばこの素晴らしい銀髪を人為的に生み出せたとして、この全身を覆う肌のグレーは無理だろう。
 だったらよっぽど、例えば、例えばの話だけれど、この子が今さっきここにいわゆる異世界転生してきたばかりの褐色ロリエルフだ、なんて考えちゃうほうが、納得がいく。
 まあつまるところ、目の前の少女が変なんじゃなくて、自分がイカれてると思える方が。

「りえす、ある、りえす、ある……」
 少女はまだよくわからない言葉を繰り返していた。
 その意味は未だにわからないが、彼女が今感じている感情は理解できた気がする。
 ボクは取り敢えずレジ袋の中から丁度買っていたチョコを取り出して、差し出した。
「いる?」
「…………。」
 こちらの問いかけと差し出された手に、びくっと体の震えを止めて黙り込む少女。
 彼女はそうして、ボクの差し出したチョコをじいと眺め続ける。
「いらないなら、食べちゃうけど」
 ボクはその言葉通り、差し出したチョコを口に入れた。
 その一挙手一投足を、少女は食い入るように見ている。怯えと不安、そんなようなものが入り混じった朧な瞳で。
 だから、もう一度。
「いる?」
 そう尋ねる。
 すると少女は。
「…………ぁ」
 恐る恐る、俺の手のひらの上にのった甘味にその細い手を伸ばす。
「…………(ばっ)」
 そして、虫でも捕まえるみたいに俊敏にかっさらっていった。
「……(じー)」
 けれど、食べない。
 両手で守るみたいにチョコを握り込みながら、こっちをじいっと眺めている。まるでしつけの行き届いた犬みたいだ。
「どうぞ?」
 だから、そう言って身振りをしてみると。
「…………うぅ。…………(ぱくり)」
 おもむろに、少女はそれを口にした。
 もぞもぞと、口元が動く。
 かわいい。
 なんかこんな状況であれだけど、そんな素朴な感想が頭に浮かぶ。
 だって、彼女の顔は、夜道の暗がりにおいてさえハッとさせるほどに、整っていて。芸術的で、けれどどこか商品的な美しさを持っていた。夜の闇に溶ける肌と、そこに浮き出る白銀が、体の奥底にあるナニカをひどく蠱惑する感覚がある。
 うっとりとするとともに、ドクンと衝動的欲求が胎動を始めた。
 妖艶。
 そんな言葉が、彼女を表すにはふさわしいのではないだろうか。彼女の外見は幼く、だがそこに幼稚さはなく。むしろそれ故の危うい美しさがあった――。
 
 ……はい、深夜の暗がりで幼女に魅了されている二十代男性とはボクのことです。
 
 そろそろ別な意味で警察を呼ぶべきかもしれないね。
 うん、割とその説はあり。どうせ働かないのなら、国民の税金で刑務所暮しも悪くない。衣食住は保証されそうだし。更生プログラムが生きがいとやらを教えてくれる可能性すらある。
 なんて、ちょっと目の前のよくわからない現象のせいでなのか、ボクはくだらない現実逃避にふける。なんてったって現役無職のおじさんだ。現実逃避は得意である。息をすること並にね。睡眠食事排泄、そして逃避。そんなことばかりして、日々を生きているのがこのボクなのだ。生きること以外のほとんど全てのものから、逃げたことのある自負がある。
 だから、そんなボクがだよ? 逃げの俊嘉がだよ?
 いわんやこんなロリロリしいダークエルフ娘が倒れていた現場にいきなり出くわして、逃避をしない理由がないでしょ。なんなら見ないふりをしてそのまま家に入るつもりまであったもんね。それで、あんな幻覚見ちゃうくらいボクって病んでたんだと愕然して、その悲しい事実に病んでたまである。
 でも、ボクは。なんだろう、なんというか、吸い込まれるように、彼女に声をかけてしまったのだ。よって、只今絶賛後悔中である。無職のおじさんは幼女が大好き――これ、テストに出ないよ!
 
「……(ぺたっ)」
 さて、幼女はチョコを食べ終えると、おずおずとこちらに歩み寄り、両手を地面に付けて、頭を垂れた。
「へ?」
 突然の土下座(?)に、困惑する。
 チョコ一欠片でそこまでされるとは。きょ、恐縮です……。
 しかし、少女の謝意(なのかも不明だが)は、それだけでは済まなかった。
「……(れろっ)」
「………………は?」
 僕は思わず間抜けな声をだした。
 だって、そうだろう?
 出会ったばかりの少女は、いきなり。
 ボクの――あろうことかボクの靴を、舐めたのだ。
 それも、まるで、躊躇いなどせずに。
「ちょ、なにして……やめてよ!」
 僕は急いでそれをやめさせる。
「…………ひゃっ。…………ぇ、りえず、あるっ、りえす、ある……」
 すると彼女はそう言いながら、額をアスファルトにこすりつけ始めた。何かのプログラムにでも従っているかのように、躊躇いなど微塵もなく。
「ひっ!」
 思わず、腰を抜かす。
 意味がわからない。どういうことなんだ。
 怖かった。
 こんなに小さくてかわいい女の子が、なんの疑いもなく、まるで奴隷の様な行いをしている。
 怖い。
 これが怖くなかったら、何が怖いというんだろう。
 この国に、そんな人間がいるなんて、誰が考えることだろう。
 でも、ボクはここに至って、ようやく目の前の現実と、真に向き合った。
 彼女の姿を視界に捉えてから今まで、ずっと目を背けてきたあるものと、その意味と。
 そう、少女には、まだもう2つほどおかしなところがあった。
 耳の形なんかより、僕にとってはそのことの方がよっぽどショッキングだったことが。
 けれど、その外見的特徴は、彼女の一連の言動にひどくなじんでいる。
 その、隷属者的な、過剰なまでの服従行動と、過度な怯えに。
 だからきっと、彼女が生まれたままの姿に無数の傷跡という衣服しか身に纏っていないことと、首と手と足に枷を付けられていることは、完全なるリアルなのだろう。
 つまり僕の網膜上に像を結んでいるこの少女は、エルフで、奴隷で、別の世界からこの世界に飛ばされてきた――そう考えるのが、一番しっくりきてしまう。
 ……馬鹿らしい。そんな空から女の子が降ってくるみたいな突飛なファンタジーがなかったから、僕はこうして日々を鬱屈と送っているのに。
 でも、やっぱりそれ以外にこの現状に有力な解説を付けられそうにない。
 せいぜい、僕が酔っているか、精神病んでおかしくなったかだ。
 だからまあ、そう思うよりは、異世界転生した褐色ロリエルフ奴隷が近所に落ちてたと思う方が、精神衛生上いい気がする。
 この見た目――人間で言うとどう見ても小学生以下――の子が奴隷になってる世界があるっていうのを認めてしまう時点で、だいぶ心は苦しかったけども。
 だって、ボクみたいなクズでもこの日本ではのうのうと暮らしてるのに……って思っちゃうし。
 
 女の子はまだ、綺麗なはずの額を汚い地面に擦り付けている。
 今すぐにでもやめてほしい。
 ボクはそんなことをされる様な偉い人間ではないし、君もそんなことをしないといけないような人間(エルフ?)ではないはずだ。
 だいたい、小さくてかわいい女の子がそんなことをしているのを見せられるのは、あまり気分のいいものじゃない。メンタルえぐれる。もはや猟奇的ですらあるし。
 それに、そういえばここはボクの家の近所なのだ。こんなところ誰かに見られたらヤバい。
 何がヤバイってただでさえ「親が死んだ途端仕事を辞めてニートみたいな生活をしてる女々しいダメ人間」と、きっとご近所様に陰口を叩かれているであろうボクが、深夜に幼女に路上で裸土下座をさせていたなどとなれば、人生終わりである(いや、現時点でなかなか終わっているし今更じゃない? みたいなガチのツッコミはやめて)。
 社会から疎外されることには慣れているけども、別に進んでそうしたわけでもされたいわけでもないしね。
 出来ることなら、社会からちやほやされて生きて行きたい所存ではあったのだ。ボクだって。たまたま社会の方がそれを拒んだだけで、あくまでボクサイドの受け入れ態勢は整っていた。
 だから、ボクは普通にどこにでもいるクズだが、悪人ではないのである。
 道に財布が落ちていれば五百円だけ拝借して交番に届けるし、おっぱいの大きなお姉さんに道を聞かれたらそのおっぱいを視姦しつつもちゃんと道案内をしてあげるくらいには善人だもの。宿題だって勿論答えを写すけど、九割は期日までに提出してた。なんなら人の悪口も言わないしネット上で誰かを叩いたりも絶対しない。見聞きしてて楽しむだけ。
 つまり、とっても良き隣人なわけですよ。ご近所付きあいは悪いけど。
 そんなわけで、持ち前の善良な良心がじゅくじゅく痛んだボクは、取り敢えずいたいけな少女にこんなことをやめさせたいと感じていた。
 それに、こんな真冬に全裸でいたら死んでしまう。
 なので、仕方なく。ボクは仕方なく――当然下心など一切なく――彼女のその細い体を、抱いた。
「よいしょっと」
「ぁっ……!」
 か細い声を漏らしたたものの、少女は抵抗するでもなくボクの腕の中に収まる。とても軽かった。
「その、一旦ボクの家で事情を聞きたいんだけど、いいかな?」
 言葉は通じないだろうが、一応。そんなことを聞いてみる。
「…………(ぼーっ)」
 しかし少女は無言で、ボクのことをただ虚ろな目で見つめていた。
 いくら子供とはいえ、抱っこされて嫌ならなにかしらの拒否反応を示すだろう。
 けれど、それはどうやらないみたいだった。
「じゃあ、そういうことで」
「……。」
 ――なにが、そういうことなのだろうか。
 自分でもよくわからないが、合意があったという申し訳程度の建前が欲しかったのかもしれない。
 そう、合意は成立した。二人の間にはコンセンサスがコンクルージョンされたのだ。
 だからこれでたぶん法的になんの問題もないはず。たぶん。法学部じゃなかったから、わからないけれど。
 だって、そうでしょ? 家の前で深夜に幼女が路頭に迷ってたら誰だって助けるでしょ? 大人として!! わかる??? 今、真冬だよ??? それなのにこの子全裸なんだよ???えっt、じゃなかった寒いんだよ、絶対!!!! だから別に僕は変なことはしていない!! おかしなことなんてなんもしていない! やましいことなんてなんもない!! 幼女の裸に興奮なんて微塵もしていない!!!
 現実逃避と自己正当化はボクの十八番である。そりゃあもう政治家の責任逃れ並に。
 そういうわけで、ボクは寒空の下、異世界転生してきたダークエルフの幼女(奴隷)を、チョコで餌付けした後、ゆうか――いや、拾ったのだった!
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