上 下
49 / 113
それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

10

しおりを挟む
 そんな折に、一嘩が俺に対して恰好の発言をしてくれた。

『あーあ。あなたの婚約者の座なんて、音羽に譲っておけばよかった』

 そう言い切った理由は心底どうでもいいが、言質はとった。
 一嘩自身がそれを望んでいるのなら、実行させてもらっても問題ないだろう。

 音羽の意志を確認しないまま話を進めるのは申し訳ないが、心がついてくるのは後になってもかまわない。
 彼女が俺のもとへ来てくれるのなら、なによりも大切にして必ず幸せにすると誓う。

 婚約の解消を切りだす頃合いを見計らいながら、素知らぬ顔で結婚の日取りを定めて式の準備に取り掛かった。
 そうして外堀を埋めてしまえば、取りやめるのが困難になると踏んでのことだ。

 結婚に乗り気でない一嘩も、ドレスや指輪の話になると大いに口を出してくる。あえてなにも言わず好きにさせておけば、これでもかというほど贅を凝らした選択ばかりしていた。

 これまで、よほど周囲の男にちやほやされてきたのだろう。一嘩は、それらはすべて夫側が支払って当然という態度だ。

『日程も式場もあなたの家の都合に譲歩したんだから、これくらい私の意見も聞いてよ』

 それが一嘩の言い分らしい。
 彼女の図々しさは出会った当初と変わらず、苛立ちを通り越して呆れてしまうほどだ。

 初回こそふたりそろって打ち合わせに出向いていたが、後はひとりで話を進めていった。

 意図的に選んだ式場は、学生の頃からの友人の父親が総責任者を務めているところだ。友人自身も跡継ぎとして働いているため、いろいろと都合がよい。

 式場をこちらで指定したのが一嘩には不満だったようだが、実際には自分好みだったようですぐに納得していた。

 友人のよしみで、俺たちの担当には彼の妻がついてくれた。
 彼ら夫婦にはこの婚約についてある程度明かしており、新婦が入れ替わるだろうとも伝えてある。

 もちろん、かなり驚かれた。
 けれど、一嘩が決定的に自分とは合わない人だとこぼしていた上に、彼女の横暴な振る舞いも目にして理解をしてくれた。

 一嘩は、自身を着飾る以外の準備にはそれほど興味を示さなかった。彼女が面倒がるのを幸いに、俺の都合の良いように決めていく。

 そうして、いよいよ一嘩に婚約の解消を申し出ようと決めたタイミングで、まさか彼女の方からそれを申し出られるとは予想外だった。

 驚きすぎて呆然とした俺に、一嘩は満足そうな顔になる。
 おそらく彼女は、俺がショックを受けているとでも思ったのだろう。

 どうやら一嘩は、付き合っていた相手に本気になってしまい、そちらと結婚したいらしい。
 ふたりの間で具体的な話が出ているかは知らないが、絶好の機会を逃すはずがない。二つ返事で了承した。

 一嘩はその後、まるで駆け落ちするように実家を出たらしいが、俺には関係のない話だ。
 むしろ、今後の予定を邪魔されずに済むのは好都合。

 それからすぐに、一嘩が不在のまま両家の話し合いの場を設けた。

 音羽との婚約を言い出した俺に、家族は懐疑的な目を向けてきた。
 翔はさらに思うところがあったようで、ずいぶん挑発的な言葉をかけられたが、事は会社に関連しているだけにそこまで強くは出てこない。

 波川側が反対するはずもなく、俺と音羽の婚約はすぐさま決定した。

 戸惑う音羽には申し訳ないが、手に入れた以上は手放すつもりは微塵もない。

 これから彼女をどう甘やかしていこうか。
 つい緩みそうになる口もとを引きしめながら、音羽と暮らす準備を着々と進めていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜

浅大藍未
恋愛
国で唯一の公女、シオン・グレンジャーは国で最も有名な悪女。悪の化身とまで呼ばれるシオンは詳細のない闇魔法の使い手。 わかっているのは相手を意のままに操り、心を黒く染めるということだけ。 そんなシオンは家族から疎外され使用人からは陰湿な嫌がらせを受ける。 何を言ったところで「闇魔法で操られた」「公爵様の気を引こうとしている」などと信じてもらえず、それならば誰にも心を開かないと決めた。 誰も信用はしない。自分だけの世界で生きる。 ワガママで自己中。家のお金を使い宝石やドレスを買い漁る。 それがーーーー。 転生して二度目の人生を歩む私の存在。 優秀で自慢の兄に殺された私は乙女ゲーム『公女はあきらめない』の嫌われ者の悪役令嬢、シオン・グレンジャーになっていた。 「え、待って。ここでも死ぬしかないの……?」 攻略対象者はシオンを嫌う兄二人と婚約者。 ほぼ無理ゲーなんですけど。 シオンの断罪は一年後の卒業式。 それまでに生き残る方法を考えなければいけないのに、よりによって関わりを持ちたくない兄と暮らすなんて最悪!! 前世の記憶もあり兄には不快感しかない。 しかもヒロインが長男であるクローラーを攻略したら私は殺される。 次男のラエルなら国外追放。 婚約者のヘリオンなら幽閉。 どれも一巻の終わりじゃん!! 私はヒロインの邪魔はしない。 一年後には自分から出ていくから、それまでは旅立つ準備をさせて。 貴方達の幸せは致しません!! 悪役令嬢に転生した私が目指すのは平凡で静かな人生。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。 ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。 その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。 理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。 しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。 ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。 ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。 「あの人にも幸せになる権利はあるわ」 ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。 レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。 直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。 タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。 馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。 「収穫量が思ったように伸びなくて」 もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

処理中です...