わたしの愛した世界

六章

６-１４

ライラと別れ、先程の老婆がやっているという食堂に向かった。場所はすぐに分かった。どうやらこの村にある飲食店はその食堂一つだけらしく、私達が来店した頃には既に出来上がった酔っ払いの大人が数人居た。大きな声で楽しげに会話する彼らを横目に、私とクロスは一番奥の、店内の隅っこの席に座った。


カウンター越しに厨房が見える造りで、中では老婆が一人で料理を作っている。眼鏡をかけた中年女性のウエイトレスが居り、私達の元に水の入ったグラスとメニューを書いた紙を持ってきた。


「で、これからどうする」


適当に注文を済ませると、クロスは片方の眉毛を吊り上げ、ため息を吐きながらテーブルに片肘をついた。「それがねぇ........」私も彼の真似をして、片肘をついた。「わかんないのよ」


「そっかぁ、わかんないかぁ」


彼も他人事のように、のんびりと返した。
これから先、どこに向かおうかと考えを巡らせても、全く思いつくことがない。大きな目的があっても明確な行き先が無い、この旅は前途多難なようだ。“ねじ”がどこにあるのかが分かれば、もっとやりやすいのだろうが、残念ながらそこまで上手い話はない。


「とりあえず明日の朝考えない？今はそんな気分じゃないや」


と言って、怒られると思って視線をテーブルに落とした。しかし、クロスのあの、静かな怒りや嫌悪感を込めた嫌味は聞こえなかった。代わりに、緊張感のない声で、こう言われた。


「うん。僕も実は今はそんな気分じゃない」

「おう、良かった」

「さっきのおばあちゃんに挨拶したいけど、なんか疲れたから、ご飯食べたらさっさと帰りたくもある」


厨房を眺める。老婆は一度こちらを見てにっこり下が、すぐに作業に戻った。どうやら向こうも、挨拶なんてしている暇はないようだ。厨房に一人と、給仕が一人ではそれなりに忙しいだろう。「そうしようか。彼女も忙しそうだ」