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四章
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「なるほど、じゃあその人も探すか」
簡単に行った私に、当たり前だがクロスは非難めいた口調で「言うだけなら楽だよね」と言った。私もなんでこんな簡単に言ってしまったのかわからない。ただの直感だ。見つかる気がする。
救世主は、優れた直感を持つ、だっけ。
あながち間違いではないのかもしれない。今の私には、すべてを説明することはできない。だが、このまま自分の選ぶ道を進んでいけば、すべての答えが見つかるような気がする。考えてみれば、これはこの世界に来る前からあった感覚だった。迷子になったときも、テストの選択問題で迷ったときも、自分のこの直感に従って動いたらすべてが正解だった。
毎晩のように父に「構われる」ようになるまで、私は今よりもっと元気でやんちゃな性分だった。自分のやりたいように遊びや勉強法をしてきたが、大した間違いを犯すこともなかった。
父の、……父と母のせいか。私がうまく生きられなくなったのは。
そんなことは最初から分かっていたはずなんだが、心からそれを受け入れたのは今が初めてなのかもしれない。
私を生んで、私を育てた両親に対して、情があったのだ。自分の親が、少しでも自分を愛していると思いたかった。多少(といってもいいものかは迷うが)の間違いを犯していたとしても、彼らは基本的には正しく生きていたと思いたい気持ちがあった。
もしかしたら父にされたことはすべてが夢か幻覚で、私の頭がおかしくなっているだけなのでは、と未だに思う時がある。なんてったって今いるのは異世界だ。これも夢かもしれない。
私が事故かなんかに遭っていて、何年間も昏睡状態なのかもしれない。その可能性もあるじゃないか。何も本気でこの世界を救おうなんて考えなくてもいいのではないか。
私の両親はごく普通の人達で、私はただ長い間眠っているだけ。父が私に性的虐待をしたことも、母がそれを扇動したことも、彼らに殺されたこともすべて夢。
「ちょっと、いきなり考え込むのやめてくれる?」
「……ああ、ごめん。己を見失ってた」
「なんだそれ」
熱くなった目頭をごまかすために、私は頭上の青天井を見上げた。鼻孔をくすぐる細やかな風に、周囲の植物や土の匂いを感じた。夢のようには思えないくらいリアルだ。でも、わからない。
夢と現実がわからない。腹の底を鋭い鉤爪で引っかかれているようだ。こんなに不安になるのは、いつぶりだろう。
簡単に行った私に、当たり前だがクロスは非難めいた口調で「言うだけなら楽だよね」と言った。私もなんでこんな簡単に言ってしまったのかわからない。ただの直感だ。見つかる気がする。
救世主は、優れた直感を持つ、だっけ。
あながち間違いではないのかもしれない。今の私には、すべてを説明することはできない。だが、このまま自分の選ぶ道を進んでいけば、すべての答えが見つかるような気がする。考えてみれば、これはこの世界に来る前からあった感覚だった。迷子になったときも、テストの選択問題で迷ったときも、自分のこの直感に従って動いたらすべてが正解だった。
毎晩のように父に「構われる」ようになるまで、私は今よりもっと元気でやんちゃな性分だった。自分のやりたいように遊びや勉強法をしてきたが、大した間違いを犯すこともなかった。
父の、……父と母のせいか。私がうまく生きられなくなったのは。
そんなことは最初から分かっていたはずなんだが、心からそれを受け入れたのは今が初めてなのかもしれない。
私を生んで、私を育てた両親に対して、情があったのだ。自分の親が、少しでも自分を愛していると思いたかった。多少(といってもいいものかは迷うが)の間違いを犯していたとしても、彼らは基本的には正しく生きていたと思いたい気持ちがあった。
もしかしたら父にされたことはすべてが夢か幻覚で、私の頭がおかしくなっているだけなのでは、と未だに思う時がある。なんてったって今いるのは異世界だ。これも夢かもしれない。
私が事故かなんかに遭っていて、何年間も昏睡状態なのかもしれない。その可能性もあるじゃないか。何も本気でこの世界を救おうなんて考えなくてもいいのではないか。
私の両親はごく普通の人達で、私はただ長い間眠っているだけ。父が私に性的虐待をしたことも、母がそれを扇動したことも、彼らに殺されたこともすべて夢。
「ちょっと、いきなり考え込むのやめてくれる?」
「……ああ、ごめん。己を見失ってた」
「なんだそれ」
熱くなった目頭をごまかすために、私は頭上の青天井を見上げた。鼻孔をくすぐる細やかな風に、周囲の植物や土の匂いを感じた。夢のようには思えないくらいリアルだ。でも、わからない。
夢と現実がわからない。腹の底を鋭い鉤爪で引っかかれているようだ。こんなに不安になるのは、いつぶりだろう。
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