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序章
序章3
しおりを挟むパイプの通ったコンクリートの小山に駆け寄ると、俺はパイプの中に身を突っ込んだ。当然ながら、子供の頃よりは小さく感じる。16歳になった俺には、些か小さい。
トンネルは小山の中を十字に通っており、俺はその十字の交差地点まで這い進んだ。中心に来たところで、自分の中で一番外部からの恐怖に耐えやすい体勢____つまり体操座りなんだが___を取り、子猫の入ったカバンを抱きしめるようにして顔を伏せた。
目を瞑っていても、あの嫌な気配は大まかに解った。右に行ったり左に行ったり、何かを探すような動きをし続けている。全身の毛が逆立つ、ゾワゾワした感覚が肌に残る。
やがて、その気配が少しずつ遠ざかり始めた。徐々に俺たちの現在地から離れていく。もしかして、先程「既に見つかっている」と感じたのは気のせいだったのかもしれない。怯えるあまり、何にでも被害妄想が働いていたのかもしれないぞ。
そう思った俺がほっと息を吐きかけたその時、カバンの中で子猫の方が先に「ふぅ」
と声を出した。
その途端、微かになりかけていた気配がグンと接近してきた。おい嘘だろ。
子猫もそれを感じたのか、カバンの中で今まで以上に激しく動き出した。パニックを起こしているのか、モゴモゴと動く。
「頼むから大人しくしてくれ。見付かるだろ」
「もう見付かってるよ。 からかわれてるだけだ」
俺でも、子猫でもない、新たな声がした。トンネルの中ではなく、外から。女の声だ。僅かに馬鹿にするような声に顔を上げ、疑問符で返そうと口を開いた俺だったが、声を出す前に嫌なものを見てしまった。
カッと見開いた双眸。瞳はペンで丁寧に塗りつぶしたように光のない、真っ黒だ。血走った白目の中で、それは泳ぐように動いていた。だが、俺と目が合った瞬間にピタリと止まった。
ペシャンコに潰れた大きな鼻の下では、大きな口が、たくさんの尖った牙を見せ付けるように開いている。
その口の両側から、とりわけ大きな牙が一対、口の周りでたるんだ皮を押し上げるように伸びている。
一言で表そう、「鬼の顔」だ。何かの古い巻物なんかに描いてありそうな、鬼の顔。死人のようにぶよぶよとした肌は茶色っぽく、明らかに人間のものではない。
というか、明らかに人間の体でもないのだ。トンネルの丸い枠の中から見て取れるのは、顔と同じく肌のたるんだ肩、腹、そしてそれを支える前足........牛のような体をしている。
そいつの口が歪み、目も当てられない程の下品な笑みを浮かべた。背筋に冷たいものが走る。今までの俺の人生がいかに平和だったか、そして現在己がいかに危険な状況にあるのか、嫌でも理解できた。
牛の巨体に鬼の顔を付けたそいつは、徐に歩き始めた。トンネルの端から姿を消したかと思えば、次は隣のトンネルに顔を覗かせる。この周りをグルグルと歩いている。次第に奴の荒々しい鼻息や、喉の奥から漏れ出る低い唸り声が聞こえてくる。
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