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七章
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しおりを挟む見せたのは、中村の家で見つけた例の箱を開けた直後に撮ったもので、一面に敷き詰められた黒いものが毛髪だと解るよう、気を付けて撮影した。
裕一は一瞬何だか解らない顔をして、画面に顔を近付けた。 しかしすぐに理解して、面白いくらいに怯え出した。
「おわぁぁ!? 何だそれ、気色悪い、もういいもういい!!」
「中村の家にあった」
「はぁ? この呪いのグッズが家に? つーか何、これは遊びに行った時に撮ったわけ?」
そんなわけなかろう。 何故か妙に自慢気になって、「忍び込んだ」あっさりと自白してしまった。 当然裕一は怒り、何をやってんだそれは犯罪だぞと私を叱った。 だが、それ以上に興味をそそられたものがあったらしい。
「そいつの家に、髪の毛があったのか?」
「それだけじゃないよ。 右田んちの通帳と、燃やされた子の爪もあった」
「…………爪」
ウエエーと顔をしかめる。 私だって、思い出すだけで気分が悪くなる。 ホラー映画ですら怖くて見れない裕一からしたら、もっと恐ろしく感じていそうだ。
「警察呼ぼうぜ、俺もうやだわ」
「ダメだよ。 こんなのすぐ誤魔化せるもん」
おそらく「中村」は証拠隠滅も考えているだろう。 もし今通報しても、これらを処分されてしまった後だったなら、ただの手の込んだいたずらだ。
私は、じゃあどうするんだと眉間にシワを寄せる裕一に抱き付いた。
「おい、それどころじゃないだろ?」
焦って突き放そうとする彼の耳元に唇を寄せると、その身体が停止した。 そのままずっと考えていた作戦の内容を囁き、彼の背中を撫でた。
「わかった?」
頭を上げて顔を見ると、裕一は性欲に負けそうな表情で頷いた。 「気を付けろよ…………。 マジで」興奮しながらも、私が心配なのか、泣きそうな顔でキスしてくる。 一回、二回、狂ったように何度も唇を重ね、やがて互いの衣服を引き剥がしにかかった。
………………………
………………
………
20××年 12月16日 金曜日 朝
朝から、今日は運命の日だと勝手に感じながら登校した。 あと少しで冬休みが始まるためか生徒達は浮き足立ち、クリスマスには彼と過ごすなどと、どうでもいい話をしたりしている。 勝手に過ごせ。
教室に到着して自分の席に着いたら、すぐに「中村」がやってきた。
「おはよう、菜月ちゃん」
「――――……うん」
顔を上げて「中村」の顔を見た瞬間、誰だこいつはと思った。 昨日までとは全然違う。
肌が荒れ、ほうれい線が濃く刻まれ、目蓋も心なしかたるんでいるように見えた。 一気に老けたように。
もしかしたら、私の先入観が強すぎるためにそう見えるだけかもしれない。 しかし何度見ても、顔だけが高校生のそれとは違うのだ。
「もうすぐ冬休みだねっ。 冬休み中、菜月ちゃんと遊びたいな。
――――経験ないからさ、友達がいる冬休みって」
以前なら、そう言われて同情しただろうし、嬉しくなった。 今はそんなクソみたいな感情はどうでもよく、本音を云うと今すぐにでもぶち殺してやりたかった。
そんな憎悪を必死で抑えて、私はニッコリ笑った。 きっと、大人になって社会に出たら、こんな風に我慢しないといけない場面が沢山あるんだろうなぁ。 大人になりたくないな。
このまま、子供のままで居たい。
「そうだね。 映画とか観に行く?」
「うんっ!」
嬉しそうに頷いた「中村」である。 心の中で、死んでしまえとその笑顔に毒づいた。
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